医学界新聞

連載

2010.09.06

研修医イマイチ先生の成長日誌
行動科学で学ぶメディカルインタビュー

[第6回]

■行動変容のステージモデル(3)
 準備期・行動期・維持期

松下 明(奈義ファミリークリニック・所長 岡山大学大学院・客員教授/三重大学・臨床准教授)


前回よりつづく

 糖尿病の継続加療の目的で来院されている田中一郎さん(仮名,60歳男性)。禁煙に向けたその後の変化を聞く目的で,再診に訪れた田中さんにイマイチ先生が予診を行います。

イマイチ 田中さん,その後,調子はいかがですか?

田中さん 糖尿のほうはうまくいっています。タバコはまだやめていませんが,どうするか考え始めました。

イマイチ そうですか! 禁煙を少し考えているのですね。

田中さん まあ,この診療所で先生にじっくり取り組んでいいと言ってもらえたので,自分の健康について考えることができました。

イマイチ そうですか。前回うかがった感じでは,重要だと思うが,自信がないということでしたよね?

田中さん ええ。重要度は8くらいになりましたが,自信度は4のままです。

イマイチ その表現をちゃんと覚えていてくれたのですね。

田中さん 明日からと言われると自信はないのですが,1か月以内なら少しはできるかもと……。

イマイチ それは良いことです。1か月以内に行動を変える気持ちは“準備期”といって,とても大事な時期だと院長先生が言っていました。

田中さん どうしたら,自信がつくんでしょうか?

イマイチ “行動科学”という学問によると,以前に何か田中さんが取り組んでうまくいったことを引き出すと,そこに答があるそうです。何かタバコ以外で取り組んだ経験はありますか?

田中さん 糖尿の運動療法として散歩を始めていますが,毎日30分間続けることができています。

イマイチ それはすごい!!! うまくいった秘訣は何ですか?

田中さん ……うーん,たぶん妻と賭けをしたことかなあ。散歩を1か月続けたら,欲しかった大型液晶テレビを買ってもいいと言うので……。

イマイチ 田中さんは賭けに強いんですね?

田中さん そうですね。何か賭けると燃えるほうです(笑顔で)。

イマイチ どうですか,今回も同じ方法をとってみては?

田中さん ええ? タバコをやめたら何かを買う賭けを妻としてみては,ということですか?

イマイチ 患者さんによって取り組む方法はいろいろ異なります。ご本人が一番うまくいきやすい方法を取り入れると何とかなるそうですよ。

田中さん そうだなあ……,ブルーレイディスクレコーダーを買いたいんだけどなあ……。うん。何だかやれそうな気がしてきました!

イマイチ そうですね。タバコ30本で毎日450円使っている計算ですから,1か月で1万3500円。1年やめたら,最高級のレコーダーでも買えますね!

田中さん イマイチ先生,詳しいですね。うん,妻と相談してみます。

準備期・行動期・維持期へのアプローチ

 行動変容のステージ1)
 イマイチ先生,自信度と重要度を使いこなしてきましたね。田中さんを準備期から行動期へうまく導くことができました。今回は準備期・行動期・維持期()の対応の仕方1-3)についてもう少し深めてみようと思います。

準備期・行動期

 生活習慣を変えることに関心を持ち,実際の行動に移す約1か月前が準備期,行動を起こして行動期,その行動を約6か月続けることができれば維持期となります。準備期に来ている人は「もう一押し」すれば行動期へと移行できます。

 まずは健康のために自分の行動(タバコやアルコールなど)を変えていく決断をしたことを支持し,励まします。短期的なゴールと長期的なゴールの両方を話し合い,相手に決めてもらうことがポイントです。

 行動期は動き出すため安心してしまいがちですが,必ず再発期が待っている(図)と認識すべきです。「うまくいっている時期を長く続けてもらう」工夫が必要なのです。外来へ来るたびに継続できていることを確認し,賞賛してあげることが重要です。この時期に「ほめる」効果は絶大です。ほめられて嫌がる人はいませんし,お金も時間もかかりません。ややオーバーかなと思えるほどほめる()と対象者はうれしくて,「もっとがんばろう」とその行動を続けてくれます。具体的にその行動変容でもたらされた良い結果(咳が減ったとか,食事がおいしくなったなど)についてもコメントします。

 行動変容と医療者の働きかけ1-3)

 ほめた内容については短くカルテに記載(「すごい! 1日30本15年が0本に!」など)して,数か月間は徹底的にほめ続けます。会話の要点を記録しておくことで,次回の外来前に確認でき,同じモードでほめ続けることが可能となります。

維持期

 維持期に入る前後では,上記に加え,再発予防の対話を行います。起こり得る問題点(どのようなときにタバコを吸いたくなるかなど)を話し合い,どうやって対応するかを本人に考えてもらいます(表)。医療者側から提案するのではなく,本人に対策を聞いてみることがポイントとなります。自分の口から言ってもらうことで,実行可能な再発予防策を練ることができるのです。

ポイント
(1)まずは健康のために行動を変えていく決断をしたことを支持して,励ます。
(2)短期的なゴールと長期的なゴールの両方について話し合い,相手に決めてもらう。
(3)会うたびに継続できていることを確認し,やや大げさに賞賛する。
(4)具体的にその行動変容がもたらした良い結果(咳が減った,食欲が出た,酸素飽和度が改善したなど)についてもコメントする。
(5)維持期が近づいたら再発予防について相談し,「どのようなときに失敗しそうか」を引き出し,「どうやって対応するか」について本人に考えてもらう。

イマイチ 今日のつぶやき

行動期は油断をせずに「ほめ続ける」ことが重要なんだなあ。「やや大げさにほめる」とちょっと恥ずかしい気もするけど,ほめられると本当にうれしそうだったし,確かに続ける原動力になりそうだな。今度は再発予防について聴いてみよう。

つづく


参考文献
1)松下明.患者教育(行動科学的アプローチ).治療(増刊号).2002;84:645-50.
2)中村正和訳.チェンジング・フォー・グッド――ステージ変容理論で上手に行動を変える.法研.2005.
3)津田司監訳.困ったときに役立つ医療面接法ガイド.MEDSI. 2001.

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook