医学界新聞

連載

2010.08.02

研修医イマイチ先生の成長日誌
行動科学で学ぶメディカルインタビュー

[第5回]

■行動変容のステージモデル関心期へのアプローチ

松下 明(奈義ファミリークリニック・所長 岡山大学大学院・客員教授/三重大学・臨床准教授)


前回よりつづく

 糖尿病の継続加療の目的で来院されている田中一郎さん(仮名,60歳男性)が再診に訪れました。前回(2886号),タバコに関心をもってもらう目的でパンフレットを渡しましたが,その後のようすをイマイチ先生が予診で尋ねます。

イマイチ 田中さん,こんにちは。その後はいかがでしょうか?

田中さん 調子はよいですよ。低血糖もないし,こちらの院長先生には本当に感謝しています。まあ,タバコについては何も変わりませんがね。

イマイチ 前回,院長先生が渡されたパンフレットはどうでしたか?

田中さん まあ,確かによくわかるように書かれていましたね。脳梗塞の一番の敵は高血圧,次いで糖尿病,タバコの順と。亡くなった父は高血圧があったので,なるほど糖尿やタバコの影響がなくても脳梗塞が起こっておかしくなかったと妙に納得しました。

イマイチ そうですか。じゃあ,前回と比べると“投げやりな感じ”は少し減ったようですね。(よし,ここで前回習った重要度-自信度モデルを深めるぞ!)……ひとつ教えてほしいのですが,田中さんにとってタバコをやめることはどれくらい重要ですか? 1がほとんど重要でない,10がすごく重要だとすると。仕事や人付き合いなどいろんな側面を含めて考えてください。

田中さん うーん……。そうだなあ,7くらいかなあ?

イマイチ では,かなり重要だと思えるのですね。

田中さん 前回は4くらいだったのですが,父の脳梗塞の原因が高血圧だと理解し,自分はタバコと糖尿病に向き合う必要があると思ったのです。

イマイチ では,やめる自信についてはどうですか? 明日からやめる自信が10で,全くやめられそうにないなら1として考えてみてください。

田中さん それは……,4くらいかなあ……。

イマイチ では,かなり重要だと思えるが自信が足りないという感じでしょうか?

田中さん そうですね。まあ心の底から重要かと言われると,もう一歩の面もありますが……。やっぱり重要度も6にしておこうかなあ。

イマイチ 高めの重要度と,いまひとつな自信度なのですね。(さて困ったなぁ……)もう少し聞いてもよいですか? 重要度が6である理由を少し詳しく教えてください。なぜ4ではなく6なのでしょうか?

田中さん ……うーん,それはさっき言ったとおり,父の脳梗塞が遺伝だけでなく,高血圧も原因だったので,自分も糖尿とタバコに取り組むべきだと。やはり脳梗塞が一番イヤですからね。

イマイチ では逆に,重要度が8ではなく6の理由は?

田中さん ……職場でタバコを吸う人が多いからかなぁ……。飲み会なんかでは,しゃべるときの潤滑油にもなっている気がするし。

イマイチ なるほど。タバコを介したコミュニケーションがなくなりそうで,少し心配なのですね?(共感)

田中さん そうなんです。なければないでもやれそうですが,結構大事な気がして。

イマイチ (重要度が4から6-7へ上がっているのでチャンスかもしれないな。ところで,自信度はどうやって介入するんだっけ?)

重要度・自信度のそれぞれを高めるアプローチ

 イマイチ先生,コミュニケーションが上達してきましたね。うまく重要度と自信度を引き出して,さらに重要度の深い部分にも触れていました。今回は関心期の対応の仕方1,2)について,もう少し深めてみようと思います。

 重要度-自信度モデル(Conviction-confidence model,1,2)のうち,前回触れられなかった残りの2グループ(図のC,D)への対応の仕方を説明しましょう。

 重要度-自信度モデル1,2)

 自信はないが重要だと思う患者(図のC)は,いわゆる真の「わかっちゃいるけどやめられない」タイプです。まずはその(問題)行動を変える決断をすることの重要性を強調した上で,その患者の過去における行動変容の成功例(例えば,今回禁煙に挑戦するが,以前禁酒に成功したことがあるなど)について話を聞き,そのときいかにして乗り切ったかを探ります。

 このことにより,患者に「もしかしたら今回もやれるかもしれない」という気持ちにさせることができればしめたものです。人間は「やれそう」と思えることにしか実際には取り組めないものです。関心期で重要度が高い人には,次のステップとして,この「自分にもやれるかもしれない」という感覚,Self-efficacy(自己効力感)を高めることが重要なのです。

 自信度が上がりにくい人の中には,ハードルを高くしすぎて「とてもやれそうにない」,という気分になってしまう人もいます。乗り越えられるハードルはどの高さなのかを患者本人に考えてもらい,現実に患者がどの程度取り組めるか短期ゴールを「患者自身に」決めてもらいます。あくまで患者に主導権をゆだね,低めのハードルを少しずつクリアしていく手伝いをするつもりで対応するとよいでしょう。

 この場合も,患者の苦しい状況を十分理解し,共感した上で行わないとうまくいかないものです。行動科学の教科書では,感情の面からこの関心期を『両価的感情期Ambivalence』と呼ぶこともあります。前にも後ろにも進めない両価的状態にある患者の感情を理解して,「タバコをやめるメリットと続けるメリットの間に挟まれて,ジレンマに陥っているのですね」と相手の苦しい状況を表現するだけで前に進みやすくなるとも言われます。

 最後に自信もあるし重要だと思える患者(図のD)ですが,この人たちは簡単です。詳細は次回に譲りますが,準備期・行動期として対応すればよいのです。

 以上,重要度と自信度を高めるアプローチをにまとめたので整理してみましょう。

 重要度と自信度を高めるアプローチ

ポイント
(1)関心期では重要度を引き出すため,じっくりと話を聴く必要がある。
(2)重要度は本人が答えた数字を軸に高くする方向(なぜ4ではなく6なのか)と,低くする方向(なぜ8ではなく6なのか)の両者を聴くことで,深い内面を知ることができる。
(3)本人の人生で重要と思う内容に合わせ,個別化した情報提供をして重要度が高まるのを待つ。ライフイベント(孫の誕生,友人の病気)がきっかけとなることも多い。
(4)重要度が6を超えたなら自信度を高めるアプローチに入る。
(5)自信度を高めるコツは,(1)過去の成功体験を引き出し,今回もやれるかもしれないという感覚(自己効力感)を高める,(2)低いハードルを患者自身に設定してもらう,(3)うまくいったときに,自分に褒美をあげることや,友人・家族のサポートを得る,の3つを意識することである。

イマイチ 今日のつぶやき

関心期ではまず,重要度を上げるように個別化した情報提供を行いながら,焦らず待つ。重要度が高まってきたら,自信度を持ち上げるように工夫するといいのか。今度会った際には,田中さんが以前取り組んでうまくいった方法を引き出して,その気になってもらえるといいなあ!

つづく


参考文献
1)松下明.患者教育(行動科学的アプローチ).治療(増刊号).2002 ; 84 : 645-50.
2)Keller VF, et al. Choices and changes : a new model for influencing patient health behavior. J Clin Outcomes Manag. 1997 ; 4 : 33-6.
3)津田司監訳.困ったときに役立つ医療面接法ガイド.MEDSI. 2001.

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