医学界新聞

連載

2009.12.14

腫瘍外科医・あしの院長の
地域とともに歩む医療

〔 第15回 〕
コミュニティケア

蘆野吉和(十和田市立中央病院長)

腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る,
「がん医療」「緩和ケア」「医療を軸に地域をつくる試み」


前回よりつづく

 コミュニティケアという言葉を私たちは最近よく使います。“私たち”とは,現在,全国各地で積極的に在宅医療に取り組んでいる医療者で,その多くは開業医ですが,国公立の病院の勤務医や訪問看護師もいます。年齢的に40代後半から50代前半が多く,私は古参の部類に入ってしまいました。お互いが知り合うきっかけとなったのは在宅医療関連の学会や研究会で,誘い合わせて酒を飲み交わすうちに仲間が増えてきました。

「在宅医療推進フォーラム」の誕生まで

 この飲み仲間に大きな転機が訪れたのは,約6年前です。「在宅医療を進めるためには,関連する学会や研究会を含む各種団体が共同歩調をとる必要がある」という私の提案を受けて,在宅医療助成勇美記念財団が「在宅医療推進フォーラム」を企画してくれることになりました。このフォーラムを関連する団体で共同開催し,政府と国民にメッセージを発信することで,在宅医療推進の気運を高めるというのがその狙いです。

 しかし,共同歩調をとるといっても簡単に事は進みません。同じことを行っていても設立基盤が異なると,微妙に話がかみ合いません。そこで,私が在宅医療に託している思いや,1987年にがん終末期患者の在宅医療を始め,その後に亡くなった多くの人から学んだことを話しました。これからは“治すことを目標にする医療”ではなく“支える医療”が必要であること,医療の原点は在宅医療にあること,死は医療の問題ではないこと,看取りが地域社会にとって重要な役割を持っていること,地域に看取りを戻し新たな地域社会を作る必要があること,在宅医療は地域づくりでもあることなどを力説しました。

 そして,この時点で皆が同じ思いを持っていることがわかりました。活動する地域,経験,それまで専門にしてきた医療分野,年齢が違っていても,めざす医療は同じだったのです。そこで,この思いを皆で文書化しました。そうしてできたのが,現在,毎年11月23日に開催している「在宅医療推進フォーラム」の在宅医療推進のための共同声明です。声明は7項目ありますが,①市民とともに,地域に根差したコミュニティケアを実践する,②医療の原点を見据え,本来あるべき生活と人間の尊厳を大事にした医療をめざす,の2項目が最初に作られた文書で,その後,③医療・福祉・介護専門職の協力と連携によるチームケアを追求する,④病院から在宅へ,切れ目のない医療提供体制を構築する,などが付け加えられました。

自立を目標とした“生活を支える医療”へ

 この“コミュニティケア”という概念が出てきた背景には,昨今の社会状況があります。日本はすでに高齢化社会に突入,今後ますます高齢化が進むと同時に年間死亡者が急増し,多死の時代を迎えることが確実となっています。これまでの医療が病院完結型で病気を治すことを目標にしてきたために,治らない病気を持っている人や機能障害のために寝たきりとなった人は,医療施設の中に“隔離”されるか,病院では治せないという理由でかかりつけ医に“放り出される”か,いずれかの選択肢しかありませんでした。いずれの場合も,苦痛を緩和するための医療支援や,日常生活を維持するための生活支援体制のない状態のまま放置されている状況です。しかし,がん,慢性呼吸器疾患,慢性心疾患,糖尿病などの治らない病気や脳卒中後遺症などの機能障害を持った人が地域社会の中で急激に増加しており,医療に対する不満の声や医療不信がさらに高まりつつあります。

 そこで,今必要なことは,“病気を治す医療”から“生活を支える医療”への大変革です。この“生活を支える医療”体制の最終目的は一人ひとりの生活の質の向上にあり,さまざまな支援のもとでの自立が目標です。医療の提供場所は病院だけでなく,在宅を含めた地域全体に拡大されます。そして,病院を含めた医療施設および介護事業所や福祉施設の密接な連携とそれぞれの施設内および地域内の多職種協働での医療支援により行われるものです。

 この生活を支える医療の基本理念は,実は緩和ケアの基本理念(一人ひとりの生き方を支える,楽に生きることを支える,家族および介護者を支える,チームで支える)そのものと私は結論付けています。

つづく

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