新しい地域社会の創造に向けて(蘆野吉和)
連載
2010.01.25
腫瘍外科医・あしの院長の 〔
第16回(最終回)
〕 蘆野吉和(十和田市立中央病院長) 腫瘍外科医として看護・介護と連携しながら20年にわたり在宅ホスピスを手がけてきた異色の病院長が綴る, |
(前回よりつづく)
“コンクリート”から“人”へのシフトが始まった
いよいよ本連載も最終回となりました。開始から1年以上経ち,この間本連載に関連の深いことでいくつかの状況の変化がありました。大きく変わったのは,政権交代があったこと,緩和ケア研修会が全国各地で開催され緩和ケアが一大ブームになっていること,そして当院がいよいよ経営的に崖っぷちに立たされていることなどです。
特に政権交代は,地域医療および福祉介護の現場にとって大きな変革を予感させます。これまで,“コンクリート”に予算をつぎ込むことで国民が豊かになり幸せになれると考えられた時代が長く続きました。十和田市郊外でも,曲がりくねった道を広くまっすぐにする工事がいつもどこかで行われていますし,広域農道という立派な道路が人知れず山野や畑を縦断しています。訪問診療で郊外の広い範囲を効率よく短時間で回るには,本当に便利な道路網です。八戸や青森に行くときも,信号もなく車がほとんど通らない立派な道路を好んで使っています。
その際にいつも,この資金を医療や福祉介護に使えば,もっと多くの人が幸せになるのではないか,私も病院経営でこんなに苦労しなくて済むのではないかと思います。快適さを感じながらも怒りの感情が少し湧いてきます。これまで世界のどの国も経験したことのない超高齢化社会へのカウントダウンもすでに始まっていますが,ようやく“コンクリート”から地域のいのちや安心を支える“人”へのシフトが始まりそうです。このシフトがうまくいかないと日本の地域社会の崩壊は止められないと思います。
すべてのいのちが大切にされる地域社会をめざして
現在の緩和ケアブームは,「がん対策基本法」に基づいた国策として強制的に作られたものです。普及の戦略として,がん診療連携拠点病院を中心としたネットワーク構築をめざし,知識の均てん化を図るため,可能な限りエビデンスレベルの高い知識を提供することを念頭に置いています。一方,看取りを伴う在宅医療に関心を寄せる医療従事者および介護従事者も非常に多くなり,そのネットワーク(地域支援ネットワーク)も各地で誕生しています。
近年,在宅医療にかかわる専門職も「緩和ケアが大事である」と謳うようになりました。同じ緩和ケアという言葉が使われていますが,残念ながら同じ内容ではありません。構築をめざすネットワークの構図も同じですが,実際の中身は違っています。がんを対象に国家戦略として進められている緩和ケアと,地域医療の前線で活動している職種の活動理念として掲げられるようになった緩和ケアの違いは,その“視点”にあります...
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