爪切り事件第一審判決(井部俊子)
連載
2009.09.21
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
第13回日本看護管理学会が,勝原裕美子(聖隷浜松病院副院長兼総看護部長)大会長のもとに浜松で開催された。「可視化」をメインテーマとした年次大会は,興味深い講演やシンポジウムが組まれ刺激的であった。
2日目の第3会場における「特別セミナー」も満席であった。特別セミナーでは日本看護管理学会学術活動推進委員会(委員長=井部俊子)が主催して「『爪のケアに関する刑事事件』の一審判決を読み解く」ことを弁護士の荒井俊行氏(奥野総合法律事務所)に依頼した。爪切り事件第一審判決は福岡地裁小倉支部で2009年3月30日に,「懲役6月,執行猶予3年」の有罪(傷害罪)判決が出され,現在控訴中である。
一審で認定された“犯罪事実”は,以下のとおりである。
1)脳梗塞症等で入院中の患者A(当時89歳)に対し,その右足親指の肥厚した爪を,爪切りニッパーを用いて指先よりも深く爪の4分の3ないし3分の2を除去し,爪床部分の軽度出血を生じさせる傷害を負わせた(2007年6月11日)。
2)クモ膜下出血後遺症で入院中の患者B(当時70歳)に対し,はがれかかり根元部分のみが生着していた右足中指の爪を,同爪を覆うように貼られていたばんそうこうごとつまんで取り去り,同指に軽度出血を生じさせるとともに,右足親指の肥厚した爪を,爪切りニッパーを用いて指先よりも深く爪の8割方を切除し,同指の根元付近に内出血を,爪床部分に軽度出血を生じさせる傷害を負わせた(2007年6月15日)。
本件は当初,爪はがしや高齢者への虐待などとセンセーショナルに報道された。私は看護管理者として,本件はいったいどのような事件であったのか,一審判決で指摘されていることは何なのか,この事件からわれわれは何を共有しておくべきなのかを明らかにしておく必要があると考えて特別セミナーを企画した。
一審判決を読み解く
講師はまず,本件は傷害罪の成否の問題であり,業務上過失致死傷の問題でないことに注目すべきであると指摘した。傷害罪とは,「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(刑法204条)」と規定されていること。また,傷害とは,「他人の身体に対する暴行により,その生活機能に傷害を与えることをいう(最決1957年4月23日)」と説明した。
第一審判決抜粋から講師は以下の箇所を取り上げ...
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