医学界新聞

連載

2009.07.06

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第4回 〕

抗真菌薬の考えかた
-侵襲性深部真菌感染症での主な静注抗真菌薬

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回は前回に引き続き,真菌感染症の治療薬である抗真菌薬の使いかたについて考えてみたいと思います。


■CASE

ケース(1) 亜急性の経過の発熱,頭痛で来院したHIV陽性の40歳男性。髄液から墨汁染色陽性,血清・髄液クリプトコッカス抗原陽性。
ケース(2) 広域抗菌薬使用しているが発熱性好中球減少症が続き,発熱,咳・呼吸苦を訴える骨髄異形成症候群の65歳男性。喀痰KOH染色で糸状菌。血清アスペルギルス抗原陽性。
ケース(3) 大腸癌によるイレウスで中心静脈カテーテル管理の70歳女性。広域抗菌薬使用するも原因不明の発熱持続し,血液培養から酵母様真菌陽性。
ケース(4) 発熱,意識障害,鼻内黒色痂皮のある糖尿病性ケトアシドーシスの45歳男性。GMS染色病理標本で隔壁のない糸状菌。

→(1)~(4)で選択すべき抗真菌薬は?

抗真菌薬の分類
 侵襲性の深部真菌感染症の治療薬は,大きく表の4つに分かれます。今回はこれらの抗真菌薬の作用機序とスペクトラムを中心に取り上げます。

 主な抗真菌薬
1.ポリエン系抗真菌薬
-アンホテリシンB,アンホテリシンB脂質製剤
2.アゾール系抗真菌薬
-トリアゾール系:フルコナゾール,イトラコナゾール
-2世代トリアゾール系:ボリコナゾール,ポサコナゾール
3.エキノキャンディン系抗真菌薬
-カスポファンギン,ミカファンギン,アニデュラファンギン
4.フルオロピリミジン系抗真菌薬
-フルシトシン
※2009年5月現在,ポサコナゾール,カスポファンギン,アニデュラファンギンは国内未承認

抗真菌薬の作用機序
 真菌の細胞壁(図)は,外側からマンナンタンパク,βグルカン〔β(1,6)グルカンとβ(1,3)グルカン〕,細胞膜のリン脂質(ここにエルゴステロールがある)の3つから構成されます。

 抗真菌薬の作用部位

 細胞質内のエルゴステロール合成経路からエルゴステロールは作られ細胞膜に移動します。また,βグルカンは細胞膜に存在するグルカン合成酵素から作られます。

1.ポリエン系:真菌の細胞壁を構成するエルゴステロールに結合して膜を不安定化。
2.アゾール系:細胞質内エルゴステロール合成経路の合成酵素のひとつ,14αデメチラーゼを阻害。
3.エキノキャンディン系:細胞膜のグルカン合成酵素を阻害。
4.フルオロピリミジン系:核内のDNA合成を阻害。

抗真菌薬各論
 前回の3系統の真菌の分類,(1)酵母(カンジダ,クリプトコッカス),(2)糸状菌〔接合菌,アスペルギルス,その他(スケドスポリウム,フサリウム)〕,(3)その他(ニューモシスチス,地域流行型真菌),を確認してください。日常臨床の現場では,上記抗真菌薬が特に酵母ならどれを,そして糸状菌ならどれをカバーしているかを中心に整理していくと見通しがよくなります。

1.ポリエン系抗真菌薬
アンホテリシンB(AmB-D) 非常に古くから存在する抗真菌薬ですが,今でも侵襲性深部真菌感染症の治療に重要です。殺菌的に作用し,接合菌も含めほぼすべての真菌をカバーします。しかし,腎機能障害,電解質異常(低K血症,低Mg血症,尿細管アシドーシス),投与時の悪寒・血圧低下の副作用が問題となります。そのため,副作用を少なくしたアンホテリシンB脂質製剤の開発へとつながりました。

アンホテリシンB脂質製剤 脂質製剤として,Amphotericin B lipid complex,Amphotericin B colloidal dispersion,Lip...

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