医学界新聞

連載

2009.08.03

ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー

[ アドバンスト ]

〔 第5回 〕

カンジダ症の考えかた-播種性深部カンジダ感染症への治療ストラテジー

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)


前回からつづく

 今回は,真菌感染症の中でも,日常臨床で最も多く遭遇するカンジダ感染症についてふれます。カンジダ食道炎,膣炎,皮膚炎などの粘膜皮膚カンジダ症,カンジダ真菌血症,肝脾カンジダ症といった侵襲性の深在性カンジダ症に大きく分類されますが,ここでは深在性カンジダ症を中心に取り上げます。


■CASE

ケース(1) 広域抗菌薬使用するも発熱持続する大腸癌によるイレウスで,中心静脈カテーテル管理の70歳女性。血液培養で酵母様真菌陽性。カンジダ推定。
ケース(2) 4世代セフェム使用しているが発熱性好中球減少症が続き,徐々に好中球数改善傾向の急性白血病(AML:M2でイダルビシン,AraCで寛解導入後)の65歳男性。発熱,左季肋部痛および採血で胆道系酵素ALP上昇あり,腹部造影CTで肝臓・脾臓に多発する腫瘤影あり。血液培養で酵母様真菌陽性。
ケース(3) 糖尿病性ケトアシドーシスの85歳女性。コントロール不良の糖尿病を指摘され,神経因性膀胱で尿カテーテル留置。前日から食事摂取不良となり意識障害,発熱あり受診。敗血症合併の糖尿病性ケトアシドーシスで入院。セフォタキシムで治療開始するも,尿培養,血液培養2セットともに大腸菌とCandida kruseiが分離。
ケース(4) 大腸癌術後のイレウスにて中心静脈カテーテル留置中の65歳男性。5日前から38度台の原因不明の発熱持続し広域抗菌薬使用するも改善なく,昨日から目のかすみ,充血の訴えあり。血液培養2セットからC. albicans陽性。
→(1)~(4)で選択すべき抗真菌薬は?

カンジダ感染症理解のためのポイント
 カンジダは,ヒトに常在している点がポイントです。消化管,上気道,膣などの粘膜や,皮膚の間擦部位(腋下,陰部など)に常在菌として定着しています。そのため,日常診療での深在性カンジダ感染症は,(1)抗癌剤や腸管切除による消化管粘膜の破綻・損傷による血中への流出,(2)皮膚の中心静脈カテーテル刺入部位からの血行性の機序で起こることになります。消化管ではC. albicansやC. glabrata,皮膚ではC. albicansやC. parapsilosisが主な常在真菌であるため,(1)によるカンジダ腹膜炎ではC. albicansの頻度が多く,(2)でのカンジダ真菌血症では,C. albicansのみならずC. parapsilosisの頻度が多いのもそのためです。

 また,免疫不全となる基礎疾患により,カンジダ感染のパターンが異なることにも注意が必要です。例えば,HIVではカンジダ食道炎,糖尿病ではカンジダ皮膚炎,無症候性カンジダ尿症となります。

深在性カンジダ感染症の診断
 血液や腹水中など本来無菌の部位から培養陽性の場合,診断に大きく寄与する一方で,便や尿,口腔内,喀痰(特に人工呼吸器管理中)から分離された場合は病原性を臨床症状と照らし合わせて考える必要があります。また,カンジダ真菌血症で血液培養陽性は約半分といわれ,臨床的に疑って治療を開始せざるを得ない場合も多々あります。カンジダ抗原やβ-D-グルカンなどの血清代替マーカーは,患者背景を絞らないと感度・特異度ともに低くなることに注意が必要です。そのため,リスクファクターを含め臨床的に疑うことが大切です(長期の広域抗菌薬使用,好中球減少持続し原因不明の肝酵素上昇,長期のICU入室,2か所以上の部位からカンジダが分離され原因不明の発熱が持続している,など)。

カンジダの分類と治療
 カンジダは,C. albicansと非albicans(C. dubliniensis,C. glabrata,C. krusei,C. parapsilosis,C. lusitaniae,C. tropicalis,C. guilliermondii)の2つに分類されます。

 治療において,細菌が薬剤感受性試験に基づく抗菌薬選択であったのとは異なり,カンジダの場合,菌種ごとに大まかに有効な抗真菌薬が決まっている点を押さえる必要があります(表)。

 カンジダの抗真菌薬感受性
  フルコナゾール イトラコナゾール ボリコナゾール アンホテリシンB ミカファンギン
C. albicans S S S S S
C. dubliniensis S S S S S

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