真菌感染症の考えかた―日和見深在性真菌症のうまい!おさえかた(大野博司)
連載
2009.06.08
ジュニア・シニア
レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー
[ アドバンスト ]
〔 第3回 〕
真菌感染症の考えかた
-日和見深在性真菌症のうまい!おさえかた
大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,
感染症科,腎臓内科,総合診療科,トラベルクリニック)
(前回からつづく)
今回は,免疫抑制状態の患者で問題となる日和見真菌感染症について,おおまかな分類およびアプローチの仕方について考えていきます。抗真菌薬の使いかた,日常臨床で最も多く遭遇するカンジダ感染については別の機会にふれたいと思います。
■CASEケース(1) 2週間続く発熱,頭痛でER受診したHIV陽性の40歳男性。最近のCD4数は80/μl。HAARTとしてジドブジン,ラミブジン,インジナビルおよびニューモシスチス肺炎予防でST合剤内服中。身体所見:体温39.6℃,心拍数122,呼吸数12,血圧110/62。全身状態:傾眠がち,頭目耳鼻喉:瞳孔左右差なし,円形,対光反射あり,うっ血乳頭なし,鼓膜正常,鼻漏なし,咽頭軽度発赤あり,心臓:脈拍整,雑音なし,胸部:肺胞呼吸音,腹部:平坦・軟,圧痛・腫瘤なし,肝脾腫なし,四肢:浮腫なし,皮疹なし,神経学的所見:人と場所は言えるが時間が言えない,Kernig徴候陽性。 検査データ:白血球1,300,髄液所見:初圧300mmH2O,白血球600/μl(95%好中球,4%リンパ球,1%その他),蛋白100mg/dl,細菌グラム染色陰性,墨汁染色陽性。 経過:髄液クリプトコッカス抗原64倍のため,クリプトコッカス髄膜炎の診断で,アンホテリシンB0.6mg/kg/day+フルシトシン100mg/kg/dayスタート。2週間後,フルコナゾール400mg内服を行い,2週間の経過で発熱,頭痛は徐々に改善した。 ケース(2) 発熱,呼吸器症状が持続する,骨髄異形成症候群のあるADL自立した65歳男性。3日前からの発熱性好中球減少症で緊急入院加療となった。セフェピム静注により2日で解熱。入院時の培養(血液,尿,喀痰)はすべて陰性。3日後再度39.6度の発熱あり,呼吸苦と胸痛を訴えた。抗菌薬としてバンコマイシン,メロペネム,フルコナゾール投与中。 身体所見:体温39.6℃,心拍数130,整,呼吸数22,血圧140/80,全身状態:かなりきつそう,頭頸部:特に問題なし,項部強直なし,心臓:I・II音正常,胸部:両肺野に水泡音あり,腹部:平坦・軟,腫瘤なし,四肢:冷感・チアノーゼなし。 検査データ:Ht25%;白血球200/μl(分画検査不能);血小板60,000/μl;ヘモグロビン7g/dl,BUN/Cre30/1.6,血糖・電解質に異常なし,CRP8,髄液所見:白血球なし,蛋白,糖異常所見なし,胸部X線:両下肺野浸潤影,喀痰グラム染色陰性,喀痰KOH染色隔壁のある糸状菌+,胸部CT:両肺野にHaloサインを伴う結節影。 経過:胸部CTで辺縁鮮明な結節像陽性。喀痰KOH染色で隔壁のある糸状菌陽性であり,侵襲性肺アスペルギルス症疑いでボリコナゾール開始(初日6.0mg/kg×2,4.0mg/kg×2)した。その後,皮膚結節を合併したため,生検を行い隔壁のある糸状菌陽性。集学的治療にもかかわらず5日後に死亡。最終的にAspergillus fumigatusが分離された。 |
◆どのような免疫不全状態がどのような日和見深在性真菌症を起こすか
日和見深在性真菌感染症を理解するためには,どのような免疫不全状態で真菌が問題となるかをまず把握する必要があります。
臨床で免疫不全状態にアプローチする場合,(1)好中球減少症,(2)細胞性免疫不全,(3)液性免疫不全,(4)皮膚・粘膜バリア損傷の大きく4つに分類することが重要です。ここでは特に(1)~(3)についてふれたいと思います。表1をみてください。ポイントは,免疫不全のタイプごとに問題となる微生物が決まっているところです。ですので,臨床の現場でアプローチする場合,(1)患者がどのタイプの免疫不全なのか,(2)その免疫不全で問題となるa)細菌,b)真菌,c)ウイルス,d)原虫・寄生虫は何か,の2点を意識して感染臓器の決定と病原微生物のリストアップを行うことができれば,漠然とした免疫不全での臨床感染症への第一歩が踏み出せるようになります。
表1 各免疫不全状態でよくみられる病原体 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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◆臨床で重要な真菌の分類
臨床で重要な真菌の分類について,表2にまとめます。細菌では,グラム陽性菌,グラム陰性菌を軸とした分類が重要でした。多数ある真菌も効率よい分類を頭の中に入れておく必要があります。(1)酵母,(2)糸状菌,(3)その他の3系統に分けて,それぞれで重要な真菌を2-3個ずつ理解すると非常に見通しがよくなります。
表2 臨床で重要な真菌の分類 | |||
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酵母はカンジダとクリプトコッカスの2つに分かれます。カンジダは,Candida albicansと非alibicans(C. glabrata,C. krusei,C. parapsilosis,C. lusitaniae,C. tropicalis)の2つに分類されます。
糸状菌は隔壁の有無で,隔壁のない接合菌糸と隔壁のある糸状菌(アスペルギルス,フサリウム,スケドスポリウムなど)に分かれます。特に接合菌糸とアスペルギルスを押さえる必要があります。
その他の真菌では,以前は原虫に分類されていたPneumocystis jiroveciが重要で,特に細胞性免疫不全でニューモシスチス肺炎を起こします。治療薬にはST合剤,ペンタミジンがあります。
◆ケースをふりかえって
ケース(1)-クリプトコッカス症(特にクリプトコッカス髄膜炎)
Cryptococcus neoformansは酵母であり,経気道的に感染。肺炎,髄膜炎,皮膚,骨,前立腺,網膜脈絡膜が感染臓器となり,免疫不全者だけでなく時として健常者にも感染症を起こすことがあります。また,悪性リンパ腫,臓器移植患者,長期の高用量ステロイド投与患者,HIV患者といった細胞性免疫不全においてクリプトコッカス症が問題となり,特にクリプトコッカス髄膜炎は1-2週間持続する発熱,頭痛が主訴で,細胞性免疫不全で亜急性の経過の中枢神経系症状がある場合に疑う必要があります。
検査所見としては,髄液検査でリンパ球優位,蛋白増加,糖低下,初圧高値があり,髄液墨汁染色陽性率は50-90%,髄液クリプトコッカス抗原・血清クリプトコッカス抗原陽性90%以上といわれています。
アンホテリシンB+/-フルシトシン,フルコナゾールが治療薬となります。一方,ミカファンギンはクリプトコッカスには無効です。
ケース(2)-侵襲性アスペルギルス症
Aspergillus属は糸状菌であり,土壌・穀物などどこにでも存在し,経気道的ないし創傷部分からの経皮的に感染症を起こし,肺・気道,中枢神経,皮膚,副鼻腔が感染臓器となります。
単なる定着から劇症型までスペクトラムは広く,以下の4つに分かれます。
(1)アスペルギローマ
(2)アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
(3)慢性壊死性肺アスペルギルス症
(4)侵襲性アスペルギルス症
この中でも,特に(4)は免疫不全者(特に臓器移植,好中球減少症)に起こり,免疫不全となった基礎疾患のコントロールが不可能な場合,予後不良です。
アスペルギルス症の大部分はA. fumigatusによる感染ですが,そのほかにはA. flavus,A. niger,A. nidulans,A. terreusが重要です。症状は,持続する発熱,咳嗽,胸痛,血痰,喀血,胸膜摩擦音,呼吸困難と非特異的であり,特に長期に好中球減少症が持続する患者の呼吸器症状をみたときに本症を鑑別に挙げることが大切です。
重要な検査として,胸部X線で肺浸潤影(楔状影など)や胸部CTにおける辺縁鮮明な結節像(+/-halo sign),air crescent sign,空洞を伴う浸潤影・楔状影があり,また血清診断ではガラクトマンナン抗原(ELISA)があります。確定診断には組織診断が必要なため,気管支鏡下肺生検(TBLB)が行われますが,予後が悪い疾患のため疑った時点で治療を開始せざるを得ないケースも多くあります。
治療薬としては,ボリコナゾール,アンホテリシンB(A. terreusには例外的に効かない)があります。
Take Home Message
●日和見深在性真菌症が問題となる免疫不全状態を理解する
|
(つづく)
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