医学界新聞

連載

2009.04.20

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第52回〉
骨太の指摘

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 本学の4年生に課した「看護政策論」のレポートを,学士編入生Tは「外からみた看護界」と題した。「最後のレポートなので,常にまっすぐな言葉を届けてくださった井部先生に倣って正直にしたため」たという。今回は,内容について目的外使用ということの本人の承諾を得て,彼女の骨太の指摘を伝えたい。

学生がみた「看護界の閉塞感」

 「授業で投げかけられた看護職としての自立心,柔軟な発想,己を高めていくというようなことについて思いを馳せれば馳せるほど,しかしながら,いかに看護の世界が閉塞しているか,その虚しさが目立つばかりである」とし,「看護界がいかに特殊な団体となっているかということ,それを問題とし,それを打開する手立について」述べることが「このレポートのテーマ」だという。

 Tはまず看護大学での教育を次のように記している。

 「看護大学での教育は,看護師を育成するという大前提の下になされるものである。一般の大学は,卒業後にどんな職に就こうと自由であり,一切の前提はなく,そこが決定的に異なる。あらゆる授業において,またあらゆる話において,本大学の教育は看護職として自覚を持って躍進してもらいたいという意図で満ち溢れている」のであり,「明確な将来像を描いた無垢な学生が選択するのは,どこかしら看護に役立つ分野の学習」であり,「看護という枠に拘束され」ているという。「それでは,どこまでも自由闊達な学問精神と知的好奇心,冒険心は育たないのではないかというのが,3年間看護大学に在籍した私の率直な感想である」。「教養とは役に立たないもの」であり,「看護では役に立つことを重んじる」ので,「両者の共存を不自然にしている」と断じている(この点については私は異論がある)。

 「看護師の教育は学問分野というより,医療にまつわる業界のひとつという意味合いが強いことは否定できず,執拗なまでに伝統に固執する芳しくない傾向がある」とした上で,われわれがよく使用す...

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