受け継がれること
連載
2008.02.11
名郷直樹の研修センター長日記 |
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受け継がれること
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(前回2764号)
×月△×日
時が流れ,場所が変わったからといって,それ以外が変わるとは限らない。正しさと正しさが相容れないのはなぜか。なぜだというより,そりゃそうだ。こっちはこっちで,向こうは向こうで正しいというのだから相容れないのが普通だ。わからないのはお互い様。ただ攻撃を受けるというのは避けたい。どうしてそんなに攻めるのか。しかし世界史の勉強をすれば,まず真っ先に明らかになるのは,時が流れ,場所が変わっても,戦争が起こり続けるということだ。
戦争が起こるのは世界全体,国同士だけのことではない。どこでも戦争が起きる。組織のあるところ,争いが絶えない。国だって組織のひとつだ。もちろん職場だって組織のひとつ。国のために生きるかどうかというのと同じように,組織のために生きるかどうか。
人を集めるのはいいんだが,おままごとやられたんじゃあどうしようもないんだよ。こっちは組織を維持していかなきゃならない。例えばそんなふうに言われたら。どう応えるか。組織のため? まあ正論か。組織のためにがんばります。うそでもいいから,そう応えろということか。しかし,近頃は組織のために生きるなんて発想はないのが当たり前だったりする。組織のためなんて発想がないほうとしては逆で,組織を動かすために働いているのであって,組織に動かされるために働いているのではない。そういう理屈だろう。でもそれもうそだな。身を捨てるに値する組織というのは十分にあり得る。要するにそれに値しない組織であるということだ。だからそういう組織になるように,人が組織を動かしていく以外に道はない。しかしそれもまたうそだな。身を捨てるに値する組織なんてない。むしろ国のため,世界のため,そっちのほうがしっくり来る。といいつつそれもうそだ。特攻隊なんてなったら,真っ先に逃げ出すだろう。どういうことだ。
あらゆる組織はだめである。そういうことか。思えばずっと組織との戦いだ。家族という組織,学校という組織,公務員という組織,病院という組織,大学という組織,たぶんこれからも延々組織の中で生きるのだ。人間は1人では生きられない。あきらめろ,そういうことか。
気の合うものだけで作った組織,というのはどうだろう。それをおままごとというのか。そうかもしれない。堂々巡りの無限ループ。
唐突だが,アメリカというのは本当にひどい国だと思う。こんなことが許されていいのか。生物化学兵器は見つからない。見つからないのに,めちゃくちゃに攻撃をしかけたわけだ。でも別にそれはそれとして,日本なんかも,イラク支援とか言ってアメリカ支援をしている。世界というのも組織のトップがアメリカということなのだろう。そのトップである大統領が,生物化学兵器の保持は許さんとか言って,それを理由に攻撃して,壊滅させておいたあとで,生物化学兵器はなかったな,なんてのん気な発表をする。大統領はいいなあ。やはり大統領になることが重要なのか。自分で組織を作って組織を自分で動かす。何だ。そうだったのか。
しかしそんな話は実はどこにでもある。アメリカの医学を持ち込んで,散々日本のことを攻撃して,世界標準の医学教育を,なんていう人たちがいるが,どうして日本の教育がだめだと,攻撃を受けなきゃいけないのか。日本の教育を攻撃しないとアメリカの医学を持ち込めないのだろうか。それがイラクへの攻撃と同じ構図になっているということに気がついていないのか。まあそれとこれとは話が別だ,そういうことだろう。もっとうまいやり方があるのに。和魂洋才,ってそういうことだ。
別に政治の話なんかしたくない。身を捨つるほどの祖国はないのだし。さらに医学教育の話がしたいわけでもない。結局私の話がしたいのだ。それもまた例の無限ループ。
あきらめることは簡単だ。どんなことだって,小さいことだといえば小さいことだ。やめてしまうことだってできる。やめようがやめまいが,どっちにしろ,ただそれぞれ個人のこと,そういう小さなことだ。個人それぞれでなくたって,100年経てばみんな死んでいる。
でも死んでも受け継がれるものもあるだろう。小さくないこととはそういうことか。死んでも受け継がれるもの,あきらめないこと,組織,個人。板垣死すとも自由は死せず,そういうこと。自分が死んでも,死なせてはいけないもの。そのためにこそ生きている。そうだ。自分でも前に書いていたじゃないか。個体としての生物の死はあるが,生命自体が途切れることはなく受け継がれていく。命は「もの」ではない。「こと」である。受け継がれること。そこで何が受け継がれるのか。阿頼耶識。豊饒の海でももう一度読むか。
(次回につづく)
本連載はフィクションであり,実在する人物,団体,施設とは関係がありません。 |
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