脈絡のない話の脈略
連載
2008.01.14
名郷直樹の研修センター長日記 |
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脈絡のない話の脈絡
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(前回2760号)
■月×日
今日もまた2年目の研修医と外来だった。研修医とやる外来は相変わらず楽しい。人の不幸に向き合って楽しいとは,なんと不謹慎な。まあそう硬いことは言わずに。医師の仕事は基本的に不謹慎なものなのだ。人の不幸で稼いでいる,その不謹慎さを自覚することがせめて重要だ。不謹慎さをなくすことなどできないのだから。研修医は特にそうだ。今日は気胸の患者が来て,胸腔ドレーンを経験できたなんて,多くの研修医がうれしそうに語るのだ。それは確かに不謹慎だが,そこでうれしがるなといっても無理である。重要なのは,うれしがらないようにすることではなくて,人の不幸をうれしがるような中で研修していることをしっかり自覚すること,そっちのほうだ。
気がつくと当初書こうとしたこととまったく別のことになっている。すぐ脱線する。戻れないようなところへ行く前に,今日の外来の話に戻ろう。しかし戻るのが本当にいいことなのかどうか。またすぐに脱線する。医師の仕事の不謹慎さ,予期せず出てきた話題のほうが,実は重要だったりする。へき地医療だってそうだ。横道にそれたはずが,そこが王道だった。わが師匠から学んだ,人生最大の教訓。まさに「副腎に求めよ」である。脱線が止まらない。
しかし脱線はリアルなのだ。アクチュアルといったほうがいいか。どこかの本で,その二つの区別について読んだことがある。でもそれが何の本だったのか思い出せない。何だっけ? そこは脱線できない,行き止まりだ。そこでまた別の方向へ脱線する。リアルというかアクチュアルというか,「今」というともう少し一般的か。しかし一般的,と書くと,それで脱線は一応収束し,リアルでも,アクチュアルでもない,一般的な,今という言葉で,「今」が遠ざかる。でも「今」を書こうとしたら,こうなるほかはない。「今を生きる」,なんてよくありがちな言い回しだが,それは生半可なものじゃない。「今」とは,脱線に次ぐ脱線だからだ。一般的な何かに決して収束しないもの。過去や未来と容易につながりがわからないような,混沌としたもの。
もし脱線ということがあるとしたら,本線があるはずだ。例えば今日,日記を書き始めたときに,これを書こうというようなもの。そこに乗っかって書き始め...
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名郷直樹の研修センター長日記(終了)
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