医学界新聞

連載

2007.11.26

 

研究以前モンダイ

〔その(8)〕
新たな実践法のモンダイ

西條剛央(日本学術振興会研究員)

本連載をまとめ,大幅に追加編集を加えた書籍『研究以前のモンダイ 看護研究で迷わないための超入門講座』が,2009年10月,弊社より刊行されています。ぜひご覧ください。


前回よりつづく

古武術介護?

 医学界新聞で昨年まで連載され,単行本化された『古武術介護入門』(医学書院)は,古武術研究者である甲野善紀氏の身体技法の原理を,介護福祉士の岡田慎一郎氏が介護に応用し,新たな技術として提案したものです。甲野氏については,雑誌やテレビといったメディアを通してご存じの方も多いかと思いますが,その身体技法は各種スポーツのみならず,工学やロボットの開発など幅広い領域の注目を集めています。その応用例の一つが古武術介護といってもよいでしょう。

 ご存じのように,従来の介護技術では,要介護者の重症度の程度によっては介護者に過度な負荷がかかるため,介護者が身体を壊してしまい仕事を継続できないという深刻な問題があります。

 発表以来,古武術介護が注目を集めている理由の1つとして,介護にともなう身体的な負担を,従来よりも低減する可能性があると期待されている点が挙げられるでしょう。超高齢化社会が目前にせまり,介護者になる機会がますます増加しつつある現状において,できるだけ負担が少ないと期待される介護技術を求めるのは,自然なことだと思います。そのことは岡田氏の講習会が毎回キャンセル待ちの盛況となっていることにも現れているといえるでしょう。

 しかし,医療・介護関係者の中にはまだ少なからず,その実効性に疑問を感じている方がいらっしゃるようにも思います。また,その奇妙な(?)ネーミングへの印象だけで,その内実を検討することもなく,「いかがわしいトンデモ法」といったレッテルを貼ってしまう人もいるようです。

 こうしたことは,古武術介護に限ったことではなく,斬新な技法が提起された際には多かれ少なかれ問題にされることといえるでしょう。

科学的態度とは?

 もちろん,なんでもかんでも目新しい技法を提示すればよいというものではありませんが,自分が知らない技法が提唱された際に,きちんと検証することもなく,「インチキだ」「疑似科学だ」といった批判をするのはとても科学的態度とはいえません。

 ただし,新たな枠組みを批判的に吟味すること自体は科学的営みとして望まれる態度といえます。よってモンダイは,いかにして丁寧に検証していくかということになるでしょう。ここでは,科学性という観点から古武術介護を検証してみます。

古武術介護の科学性を検証する

 まず前回までお話ししてきた科学性の定義に基づき,「古武術介護」を検証してみます。池田清彦氏の構造主義科学論によれば,科学とは「現象をより上手に説明する構造を追求すること」と定義されます。古武術介護は,その「介護技術」をきわめて具体的に「構造化」して提示していますし,『古武術介護入門』には,広義の科学性を担保するために不可欠な「構造化に至る過程」も詳しく示されています。

 また狭義の科学性を担保するための条件の1つとして「再現性」があげられますが,『古武術介護入門』付属のDVDを見ても,著者である岡田氏が全国で行っている講習会においても,岡田氏は1つひとつの技術を何度でも「再現」することができます。また,講習会の参加者もその技術を習得し,ある程度再現性のある技術として身に着けています。もちろんどこまでの技術をどれだけの期間で体得できるかといった点に関して個人差はあるようですが,原則として,学習によって誰もが再現することができる「技術」といえるでしょう。

 何より,古武術介護の科学的な姿勢を担保しているのは,提案されている技術がすべてオープンソースとして開示してあるという点でしょう。書籍や講習会を通じて,誰もが実際に検証できる可能性を開いて...

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