医学界新聞

連載

2007.07.23

 

研究以前モンダイ

〔その(4)〕
理論とは何か?

西條剛央(日本学術振興会研究員)

本連載をまとめ,大幅に追加編集を加えた書籍『研究以前のモンダイ 看護研究で迷わないための超入門講座』が,2009年10月,弊社より刊行されています。ぜひご覧ください。


前回よりつづく

 「理論」と聞いて何をイメージするでしょうか? 「難解で使えない机上の空論」「何やら得体の知れないモノ」といった印象をもっている人もいるかもしれません。しかし,「理論」は上手に使いこなせば,研究実践,現場実践のいずれにおいても役立つものになります。そのために,ここではまず「すべての理論に通底すること」について考えてみましょう。

すべての理論は何でできている?

 理論と一口にいっても,物理学理論,心理学理論,宗教理論など多種多様なものがあります。しかし,すべての理論は「同じもの」でできています。さて,それは何でしょう? 紙面に余裕があれば,ヒントを出したりして,じらしたいところですが,そうもいっていられないのでいきなり答えをいってしまうと,それは「コトバ」です。「すべての理論はコトバでできている」。これは最重要ポイントとなりますので,頭に入れておいてください。

 ほんと? と思った方,たとえば,有名なアインシュタインの相対性理論は「E=mc2」と表現されます。Eやmは記号ですが,これもコトバです。日本語でいうと「質量(m)に,光の速度(c)を二回掛け合わせると,その質量の物体が持つエネルギー(E)と完全に等しくなる」となります。自然科学の理論も,人間科学の理論も,妥当な理論もそうじゃない理論も,すべからく「コトバ」でできているという点では,同じなのです。

理論とは現象理解のための構造である

 少し詳しくいうと,理論は「コトバとコトバの関係形式」でできています。相対性理論「E=mc2」は,Eとcとmの関係形式です。この関係形式のことを「構造」と呼びます。

 コトバでできた構造ということは,理論というのは最初からポツンと存在していたものではなく,人間が恣意的につくったものだということです。では,なんのために理論なんてつくるのか。それは「現象」を理解するためです。

 なぜ,リンゴは落ちてくるのに,月は落ちてこないのでしょうか? 考えてみるとこれは不可解ですが,ニュートンは,こうした事態を矛盾なく説明できる「万有引力の法則」をつくりました。ニュートンの理論が「天と地を統一する理論」といわれるのは,それが地上の運動と天体の運動を,同じ原理でうまく説明するものだったからです。

 以上のことから,「理論とは現象を理解するために人間がコトバによってこしらえた道具(構造)である」ということができるでしょう。

 この定義は,仮説でも,法則でも同じようにあてはまります。もちろん違いはあって,一般的に「仮説」とは検証されていない構造のことを指す場合が多く,実際に検証され,一般性が確認された構造は「法則」と呼ばれますし,「理論」とはある程度体系的な構造を指すことが多いといえます。しかし,これらの間に厳密な線引きをすることは不可能であり,理論や法則といっても,仮説的性質を完全には排除できないわけですから,原理的には,すべての理論や法則は仮説であるといってもいいわけです。さしあたってここでは,仮説や法則を含めたすべての理論は,いずれも「現象理解のためのツール」と考えておきましょう。

理論の使い方

 それでは理論はどのように使えばいいのでしょうか? 理論はツール(道具)だといいました。ツールである以上,理論の価値は,ユーザーの関心や目的に応じて(相関して)変わるということになります。どこかで聞いた話ですね。そう,これは第2回でお話しした「方法」の議論と同じです。たとえば相対性理論がいくら凄い理論だといっても,看護実践には役に立たなそうにみえるのは,ひとえにその理論の枠組みが,医療従事者の関心に沿ってい

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