医学界新聞

連載

2007.03.12

 

【連載】

はじめての救急研修
One Minute Teaching!

桝井 良裕
箕輪 良行田中 拓
(聖マリアンナ医科大学・救急医学)

[Case12]   心窩部痛,嘔吐,下痢は
急性胃腸炎??


前回よりつづく

この連載は…救急ローテーション中の研修医・河田君(25歳)の質問に救急科指導医・栗井先生(35歳)が答える「One Minute Teaching」を通じて,救急外来,ERで重症疾患を見落とさないためのポイントを学びます。


Key word
心窩部痛,腹痛,消化器症状,心筋梗塞

Case

 暖冬と言われるが救急外来は大繁盛。当直の河田君は今夜もすでにインフルエンザ5人,急性胃腸炎を4人診た。そんな中,58歳男性が「夕食後から急にみぞおちあたりが痛くなり,嘔吐と下痢もある」と訴えて来院した。河田君は「また急性胃腸炎だ」とため息をつきながら患者を診察室へと案内した。

 昼食はきつねうどん,夕食はビール1本とハンバーグで,生ものの摂取はない。食後にテレビをみていたら急に心窩部に重苦しい痛みを感じた。食べ過ぎかと思って我慢していたら徐々に悪心・嘔吐が出現,トイレに行くと便も軟便であったことから救急外来を受診した。痛みはかなり辛いようで患者は冷や汗をかいている。既往としては10年程前に指摘された高血圧,高脂血症があり,近医で治療を受けている。家族歴では父親が高血圧で亡くなったという。喫煙は20本/日,飲酒は機会飲酒程度。

 身長168cm,体重78kgでBMIは27.6,意識清明,体温36.4°C,血圧182/96mmHg,脈拍52/分整,呼吸数16/分でルームエアーでのSO2は99%。腹部も平坦・軟で心窩部中央の自発痛はあるが明らかな圧痛はない。腸蠕動は亢進。貧血や黄疸はなく,咽頭所見も正常,表在リンパ節は触知しない。呼吸音や心音にも異常なし。

■Guidance

河田 主訴は心窩部痛と悪心・嘔吐,下痢です。急性胃腸炎だと思いますが,痛みが強そうなので点滴を始めようと思っています。

栗井 重要な疾患が鑑別できていないのが気になるから,即断は避けよう。まず,心窩部痛の性状だけど,もう少し詳しく,OPQRSTで教えてもらえるかな?(Check Point1

河田 えーと,Onset(発症)は比較的突然,Provocation(誘因)は食後なので食事だと考えます。Quality(質)は持続的な鈍痛でRadiation(放散)はありません。Severity(強さ)は辛いらしく,冷や汗もかいています。Time course(時間経過)は痛みの程度としては変化がない様子で増悪も軽快もみられていません。悪心・嘔吐,下痢は心窩部痛からしばらくして出現してきたみたいです。嘔吐物は食物残渣のみで,血液の混入はありません。

栗井 既往歴で糖尿病などは?

河田 ふふふ。僕もいつまでもできない研修医ではありませんよ。糖尿病性ケトアシドーシスも考えましたが,近医で定期的に採血検査をしてもらっており,糖尿病や耐糖能異常を指摘されたことはないそうです。

栗井 身体所見の異常は?

河田 腸蠕動が亢進していることと血圧が高いことぐらいしかありませんね。一応,四肢での血圧測定を行いましたが差はありませんでした。

栗井 閉塞性動脈硬化症を想定して四肢の血圧を測定するとは……成長したね。では,いつものように鑑別診断を列...

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