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  • がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で(8)せん妄かもしれないと思った時に看護師ができること(小林成光)

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がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で

連載 小林成光

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

 「昨日まで普通に話していたのに様子が急におかしくなった」「夜になると落ち着かず,点滴を抜こうとする」。このような変化に直面した時,私たち看護師は「せん妄かもしれない」と考えます。せん妄は,急性に発症し,時間帯によって症状が変動する意識・認知の障害であり,がん患者においても周術期や治療中など,さまざまな場面で認められます。しかし実臨床では,「せん妄かもしれない」と気づいても,何を優先して対応すべきか迷うことも少なくありません。本稿では,『がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版』を踏まえながら,さまざまな臨床場面で共通して求められる「初動の考え方」に焦点を当て,せん妄発症時に看護師がまず行うべき対応,原因アセスメント,非薬物的な初期介入の方法について解説します。

 せん妄を疑った時,最初に行うべきは安全の確保です。転倒や転落,点滴やドレーンの自己抜去といったリスクを評価し,必要に応じて見守りの強化や環境調整を行います。特に夜間は症状が顕在化しやすく,早期に対応することが重要です。また,安全確保と同時に状態を把握します。意識レベル,バイタルサイン,呼吸状態,苦痛症状の有無,睡眠状況などを確認し,「いつから変化があったのか」という時間経過をとらえることが重要です。時間軸の把握は,原因を推定する上で重要な手がかりとなります。ここで大切なのは,せん妄を精神症状としてとらえるだけではなく,身体の変化が表面化したサインとしてとらえる視点が重要です。「何かがおかしい」という違和感の背後には,身体的変化・薬理的な影響が潜んでいる可能性があります。

 せん妄の関連因子は,背景特性の準備因子,脆弱性に拍車をかける促進因子,発症の最終的な引き金となる直接因子に大別されます。がん患者のせん妄では,これら複数の因子が重なり発症することが多いとされています1)。そのため看護師は,日常的な観察をもとに原因となり得る要素を系統的に確認していく必要があります。

 まず確認すべきは,身体的な要因です。脱水,感染,高カルシウム血症などの電解質異常,低酸素,疼痛などはせん妄につながる頻度が高く,見落とされやすい要因と言えます。さらに,便秘や尿閉といった排泄の問題も重要です。これらは単独では軽微に見えることもありますが,複数が重なることでせん妄を引き起こします。こうした要因は,侵襲度の高い周術期に限らず,入院加療中のどの時期でも共通してみられます。

 次に薬剤の確認です。ベンゾジアゼピン受容体作動薬の使用や,オピオイドの導入・増量,ステロイドの使用などは,せん妄の誘因となることがあります1)。「薬剤の変更後に症状が出現していないか」という視点は特に重要であり,看護師が早期に気づくべきポイントの一つです。さらに,睡眠障害や環境の確認も重要です。病室の移動,照明や物音といった夜間の刺激,昼夜逆転などは,見当識の低下を招き,せん妄の原因となります。

 このように,せん妄は複数の要因が重なった結果として現れます。看護師の役割は,それらを断片的な情報としてではなく,つなぎ合わせて患者の状態を総合的にとらえることにあります。

 せん妄への対応では薬物療法も重要ですが,非薬物的な介入は初動対応としてすぐに実施できる大切なかかわりです。まずは環境調整です。時計やカレンダーの設置に加え,昼は明るく,夜は暗くすることで時間の感覚を保ちます。騒音や不要な刺激を減らすことも重要です。

 次に,現在の状況(場所や日時など)を患者に繰り返し伝え,見当識の維持を支援するかかわりです。「ここは病院です」「今日は〇日です」といった情報を,短く,繰り返し伝えることがポイントです。また安心感の提供も求められます。せん妄状態の患者は,不安や恐怖を感じていることが少なくありません。「大丈夫ですよ」「ここにいますよ」といった声かけは,情動の安定につながります。

 可能な範囲での離床や活動の促進も有用です。理学療法士による歩行や関節可動域運動訓練は,せん妄の軽減につながる可能性が示唆されており2),看護実践においても離床や活動を支えるかかわりが重要と考えられます。さらに,早期離床や視聴覚障害への補助など,複数の促進因子への介入を行うことでせん妄の予防効果を認めたとの報告3)もあります。この報告は,主に発症予防を目的とした介入ですが,これらの介入は,せん妄の発症に関与する複数の因子に同時に働きかけるものであり,発症後においても症状の軽減につながる可能性があります。

 一方で,せん妄対応の中で身体拘束が検討される場面もあるかと思います。身体拘束は身体的・精神的苦痛を伴うだけでなく,せん妄の発症リスクを高める可能性があり,身体拘束がない場合と比較して約2.9倍にそのリスクが上昇したとの報告がなされています4)。そのため身体拘束は安易に行うべきではなく,三原則(切迫性・非代替性・一時性)に基づき慎重に判断しましょう。

 せん妄は,家族にとって戸惑いの大きい症状です。「人が変わってしまった」と感じることもあり,不安や混乱が強まります。せん妄が「一時的な脳機能の変化であること」「身体状態や薬剤が関係している可能性があること」「適切な対応で改善する可能性があること」を丁寧に看護師から説明する必要があります。家族がせん妄について理解することは安心感につながり,その安心感は患者にも伝わります。家族のかかわりは患者の安心感を高める重要な要素です。普段通りに声をかけることや,慣れ親しんだ物品の持参は有用です。また,時計やカレンダーを見やすい位置に置くことや,眼鏡や補聴器の使用を確認することなど,環境や生活リズムを整えるかかわりも,見当識を支える一助となります。

 入院中の場合,家族の面会は患者に安心感をもたらすことが多く,可能な範囲での関与が望まれます。せん妄の症状がみられる場面でも,否定せず落ち着いた態度で接することが大切であり,そうした関与がせん妄の改善や回復を支える一助となります。看護師は,家族が安心してかかわれるよう支援していくことが求められます。

事例 入院中に生じたせん妄

がん治療中の70歳代の男性入院患者。日中は会話も成立していましたが,夜間になると「帰らなければならない」「仕事がある」と繰り返し,ベッドから降りようとする様子がみられました。看護師が声かけをしても落ち着かず,点滴ルートに手を伸ばす場面も認めました。今後の対応方法についてカルテに記載し,ケアを統一できるようにしました。

患者の安全確保を最優先に

 看護師はまず転倒・自己抜去のリスクを評価し,見守りを強化しました。また,疼痛の悪化を背景にオピオイドを増量したばかりであることや,前夜の不眠に気づき,薬剤調整の経過を記録から確認しました。これらの情報から,疼痛,薬剤,睡眠障害といった複数の要因が関与したせん妄を疑い,医師へ報告しました。鎮痛薬の調整が行われるとともに,看護師は日中の離床を促し,夜間は照明や物音に配慮するなど睡眠リズムが整えられるよう環境調整を行いました。

せん妄ケアに家族も参画してもらう

 家族に対し状況を説明し,日中の声かけやかかわりへの協力を依頼しました。時計を設置するなど環境を整え,混乱がみられる場面では「ここは病院ですよ」「入院中ですよ」と伝えて見当識を支えるかかわりも行ったところ,数日で夜間の興奮は軽減し,見当識も徐々に改善しました。本事例は,初期対応を含めた原因のアセスメントとそれに基づく対応が,せん妄の改善につながったことを示す一例です。

 せん妄が起こった時,看護師は最も早く変化に気づき,最初にかかわる存在です。重要なのは,「何が起こっているのか」を考えること,そして「今できることをすぐに始めること」です。せん妄はどの場面でも起こり得る症状であり,その初動対応は共通しています。看護師ができることは何かを常に考えながら,患者のケアにあたることが大切です。

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・せん妄は「身体からのサイン」としてとらえる。

・原因は複数の要因が重なっていることが多い。

・非薬物的介入は看護師がすぐに実践できる重要なケアである。


1)日本サイコオンコロジー学会,日本がんサポーティブケア学会.がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版.金原出版;2025.
2)Support Care Cancer.2011[PMID:20429015]
3)JAMA Intern Med.2015[PMID:25643002]
4)Crit Care Med.2013[PMID:23263581]

東邦大学看護学部がん看護学研究室 准教授