診断に役立つ心エコー図検査レポートの書き方
寄稿 小谷 敦志
2025.09.09 医学界新聞:第3577号より
MRIやCT検査は身体(臓器)全体を撮影したあとで病変を診断するが,心臓超音波検査(心エコー図検査)に限らず超音波検査は,検査者が病変を映し出さなければ(病変に気が付かなければ)診断できず,レポートにも記載できない。したがって,超音波検査では検査中に得られた超音波所見を解釈しながら必要な画像を描出し,検査中に頭の中でレポートを完成させることが求められる。
心エコー図検査は,心腔サイズや血流速度など多くの計測を行う。それらの計測値と共に弁や心腔サイズについての所見をレポートに記載するのが一般的であるが,その際に検査者の総括コメントも記載することが肝要と筆者は考える。例えば,病変の経過観察を目的とした心エコー図検査の依頼では,前回検査と比較し今回がどう変化しているのかを明記する。また,心エコー図検査で重症度を評価する場合では,各計測値を照らし合わせ,考えられる重症度を記載する必要があるだろう。以上を踏まえ本稿では,実際の診断に役立つ心エコー図検査のレポート作成の要点を解説していく。
レポート作成で押さえておきたいポイント
1)長軸断面と短軸断面を含めた多断面で評価する
心エコー図検査の評価断面には,心基部から心尖部への心臓軸に対しての長軸断面と,それに直交する短軸断面という概念がある。この2段面で病変を評価することで詳細な評価が可能となる。例えば,弁の逸脱による逆流部の評価では長軸断面と短軸断面でカラードプラ法も含めて観察することで病変部の特定が可能となる。また,左室のregional asynergy(局所壁運動異常)について,胸骨左縁左室短軸断面と胸骨左縁左室長軸断面もしくは心尖部四腔・二腔・長軸断面のそれぞれにおいて多断面評価することで病変部位の診断の再現性を向上させることができる。
2)視野と時相を意識した画像を記録する
超音波検査は局所を観察することに優れており,拡大することで数mm単位の評価が可能である。その際,病変部周囲の組織や血管など空間的位置関係が理解できるよう広角視野の画像を記録しておくことが大切である。例えば,感染性心内膜炎では疣腫サイズを拡大し計測記録するが,周囲の弁や心臓組織,心腔を含めた広角視野での記録を追加することで客観的な病変部位の同定が容易となる。
また心エコー図検査における静止画の記録では,収縮期と拡張期の時相の理解が重要である。疾患や病態によっては収縮中期や拡張末期といった,細かな時相分析を行う場合もあり,それぞれの特徴的な時相を知った上で静止画の記録を行う。例えば,僧帽弁逆流(MR)の大きさをカラードプラ法で記録する場合,成因によってMRが最大に表示される時相が異なる。器質性MRであれば収縮中期が最大であるが,機能性MRでは収縮末期であることもあり,それぞれに適した時相で静止画を記録することが求められる。
3)疾患・病態別のひな形を作成しておく
心エコー図検査では,症例や病態ごとに評価する項目,注意点は大体決まっており,これはレポートに記載する所見も同様である。したがって,目にする機会が多い疾患や病態について,所見やコメントのひな形を事前に作成しておくと,すばやくレポートを完成させることができる。また,ひな形の用意があると評価するポイントが検査者間で共有できるため,計測忘れ防止にも役立つ。例えば,僧帽弁狭窄症(MS)例において「planimetry法から求めた僧帽弁口面積はA cm2,平均圧較差はB mmHgであり,中等症MSを疑う」のようなひな形では,計測値を入力するだけで一つのコメントが完成する1)。
4)押さえておくべき国際分類や基準値
心エコー図検査を行うには,ガイドラインに準じた評価を行うことが大切である。ガイドラインには,疾患の重症度評価や診断・治療について記載したものと,心エコー図検査の計測方法や検査手技・手順について記載したものに大別される。前者は,日本循環器学会が主導する合同学会で公示されているものが日本では広く用いられている。このガイドラインは臨床向けの内容ではあるが,心エコー図検査が有用な疾患や病態においては,基準値や重症度分類が詳細に記載されており病態を把握するためにも是非とも確認しておく必要がある。後者は,アメリカ心エコー図学会(ASE)のものが広く用いられている。日本心エコー図学会ではASEのガイドラインを翻訳して公示しているものがある。
心エコー図検査における計測基準値は,体格を考慮し日本で作成されたものが主として用いられており2),ASEのものも一部用いられている3)。基準値は心エコー図検査を進めていく過程において非常に重要である。正常か否かの判定はもちろん,重症度のカットオフ値を知らなければ,検査中に重症度に応じた追加計測を行うことができない。
評価・レポート作成時のピットフォール
1)「病変が認められないこと」をあえて記載しているか?
ある病変について,想定される合併病変がないことをあえてレポートに記載することは意外と見落とされがちである。例えば,心筋梗塞で広範囲の心尖部asynergyを認めた例では,左室内の血流うっ滞による心尖部血栓形成の可能性を考慮し「心尖部血栓形成は認めない」と追記するようにする。そのほかにも左室内腔が狭小化した肥大大型心筋症例において「左室内に血流の亢進は認めない」と追記し収縮期左室内閉塞を否定しておくなど,依頼医がどんな情報を知りたいかを念頭に置きながらレポートを作成することが求められる。
2)画像ではなく解剖に沿った表現をしよう
エコー画像で病変部位の位置の特定をする際,記録したエコー画像(画面)の上下左右ではなく解剖に沿った表現をすることが大切である。例えば,胸骨左縁左室長軸断面では,エコー画像における上下は解剖学的に前面と背面(後面)であり,左右は解剖学的には心尖部側と心基部側である。
具体的な例として,重症MRを有する例を挙げれば,心尖部四腔断面において「MRは左房の下まで到達する」といったエコー画像上での表現ではなく,「MRは左房上部にまで到達する」といった解剖学的なレポート記載が必要である。
3)依頼医の目的と内容がずれていないか?
心エコー図検査では,依頼医の目的に沿ったレポートを作成することが大切である。依頼目的よりも重要な病変が見つかり,そちらに注力するあまり本来の依頼目的に対する評価やコメントが疎かにならないように注意する。例えば,膠原病内科から「右心負荷の評価」の目的で心エコー図検査が依頼されたにもかかわらず,明らかな右心負荷所見はなかったが,左室に陳旧性心筋梗塞を疑うasynergyを発見したためそれらの評価に注力してしまい右心負荷所見についてのコメントを失念するようでは,依頼目的に沿っておらず良いレポートとは言えない。
これがあればワンランク上のレポートに!
レポートの作成は,解剖学用語で記載する。また,所見を羅列しただけのレポートはあくまで最低限のレベルである点にも留意したい。いくつかの所見を組み合わせて診断に導くコメントを記載することで,依頼医により伝わるワンランク上のレポートとなる。例えば,心室中隔欠損(膜様部欠損)症例において「膜様部に入口部C mm×凹部D mmの三尖弁嚢(tricuspid pouch)を形成し,先端にE mmの欠損孔を認め,膜様部欠損を疑います」のように簡素に記載するのがポイントである1)。
また,いくつかの所見を総合的に検討し,想定される病態や重症度を指摘できれば理想的である。例えば,心房中隔欠損症例において「右室拡大と心室中隔の奇異性運動があることから右室の容量負荷を疑います」や,大動脈弁逆流症(AR)例において,「大動脈弁の大動脈側にARの吸い込み血流を認め,vena contracta幅は6.2 mm,腹部大動脈血流波形は全拡張期逆行性血流を認めることから重症ARを疑います」といったように,ガイドラインに準じた複数の評価項目から疾患や病態を総合的に疑うことで具体性が高まる1)。
*
心エコー図検査に限らず,超音波検査は検査者が疑う所見やコメントを記載しなければ依頼医に伝わらない。検査者の総括コメントを記載することが早期診断に向けての鍵となる。
参考文献
1)小谷敦志編.病態・類似疾患別心エコー図検査のルーティン.医学書院.2025.
2)Circ J. 2008[PMID:18827372]
3)J Am Soc Echocardiogr. 2015[PMID:25559473]

小谷 敦志(こたに・あつし)氏 近畿大学奈良病院臨床検査部 技師長代行
1989年から近畿大病院中央臨床検査部に勤務。2015年より現職。18年同大大学院医学研究科心血管機能外科学博士課程修了。血管診療技師(CVT),日本心エコー図学会認定専門技師(JRDCS),日本超音波医学会認定超音波検査指導士(血管領域)などの認定資格を取得。日本超音波検査学会理事,奈良県臨床検査技師会副会長。編書に『改訂第2版 これから始める血管エコー』(メジカルビュー社),『病態・類似疾患別心エコー図検査のルーティン』(医学書院)。
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