医学界新聞

寄稿 西山 知佳

2025.06.10 医学界新聞:第3574号より

 心臓突然死を予防したい。心臓突然死で大切な人を亡くす家族・友人の悲しみを減らしたい。そんな思いから日本循環器学会救急啓発部会は,「市民意識の向上による心臓突然死減少へのアプローチ」と題するステートメントを日本語,英語の両言語で発表しました1, 2)。医療が進歩した現在においても,心停止はいったん起こってしまうと救命が極めて難しい現実があります。一方で救える命も確実に存在します。例えば「前兆に気づき早く受診する」「AEDを使える環境と人を増やす」「居合わせた市民が心肺蘇生を行う」といった備えと行動です。

 本ステートメントは,心臓突然死の予防と対応に関する取り組みを,①国内外のエビデンス,②地域や現場での具体的な実践例,③政策への提言,④今後の課題という4つの柱で構成され,「自分でできる行動」を皆さんが見つけられるようにしています。

 本ステートメントは全7章から成ります。ポイントはおよび下記に示す通りです。

3574_06_illust.png
図 心臓突然死を減らすための取り組み(制作:日本循環器学会救急啓発部会)

第1章 ステートメント作成の背景

第2章 急性冠症候群による心停止の前駆症状と受診の促進,心筋梗塞予防キャンペーン(STOP MI)の紹介,致死性不整脈による心臓突然死の予防

第3章 市民への心肺蘇生教育

第4章 学校で発生する心停止への備えとしての児童生徒や教職員へのBLS教育,心臓検診,緊急対応計画(EAP)策定

第5章 スポーツ現場における心停止対応

第6章 市民の救命行動を支援するデジタル技術を活用したAED搬送アプリなど新たな仕組み

第7章 客観的データと評価に基づく改善および今後の政策立案

広告

 どの章にも共通していることは,「心臓突然死を予防する主役は市民,医療者だけでは救えない」というメッセージです。市民が前駆症状に気づき受診行動につなげられるよう,目の前の患者やその家族に対してわかりやすく情報を伝えることは,医療者に求められる大切な役割です。さらに病院の外にも目を向け,市民が命をつなぐ役割を果たせるよう地域や学校,職場で心肺蘇生やAEDを使える人を育てる取り組みを支援し,正しい知識を社会全体に広げ命を守る文化を築いていくことも医療者に求められている重要な役割です。

 日本語版は平易な表現とイラストで,循環器専門医だけでなく,看護師,救急隊員,保健師,教員,行政職,スポーツ関係者,そして市民にも読みやすく工夫されています。「自分にできることはあるだろうか」と思った方,さあ今すぐ携帯を取り出してステートメントをご一読ください。あなたの行動が大切な命を守る一歩につながります。


1)日本循環器学会救急啓発部会.心臓突然死を減らすための取り組みに関するステートメント.2025.
2)Circ J. 2025[PMID:39721709]

3574_0501.jpg

日本循環器学会救急啓発部会 委員

2002年滋賀医大看護学科卒。大津赤十字病院で看護師として勤務した後,京大大学院医学研究科社会健康医学系専攻へ進学し,専門職学位課程,博士後期課程修了。米ワシントン大ハーバービュー・メディカルセンターでのリサーチフェローなどを経て,19年より京大大学院医学研究科人間健康科学系専攻クリティカルケア看護学分野准教授。心臓突然死の疫学研究,特に市民への心肺蘇生教育についての研究に携わり,国内外の心肺蘇生のガイドライン作成や市民への心肺蘇生の普及に従事している。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook