医学界新聞

書評

2025.03.11 医学界新聞:第3571号より

《評者》 杏林大教授・消化器・一般外科学
同大病院上部消化管外科診療科長

 一通り目を通し,さて,書評を書こうかと思ってリビングで本書を広げていると,医学部4年生の息子がやってきて本書を手に取り,しばし目を通した直後に「何これ。めっちゃわかりやすいじゃん。講義でこの領域聴いたけど,何が何だかわからなかった。知識が整理できるなあ。ちょっとしばらく借ります」と言って自室に持っていってしまった。書評を書こうかとせっかく重い腰を上げたのに出鼻を挫かれた感があったが,すぐさま,このエピソードは使える,と思い直した。この愚息の放った一言は本書の本質を突いたものであった。

 胃の内視鏡治療・外科治療に携わる私の仕事の多くは胃癌に関するものであるが,胃の粘膜下病変(subepithelial lesion:SEL)の診療に当たることも少なくない。胃SELには多彩な病変が含まれており,鑑別診断が時として難しく,治療方針も病変によって大きく異なる場合が少なくない。頻度が低いことからも,体系的に学べる成書は極めて少なく,消化器内科関連雑誌の特集号が散発的に発刊されるだけである。そのような中,満を持して本書が刊行された。本書では,長年にわたり胃SELの診療に携わってきた著者の平澤俊明氏が持つ豊富な経験を通じ,SELの分類や頻度,(質的・鑑別)診断の実際,各々の病態,病理像,重要なリサーチ結果,治療法などが,満載される美しい画像とともに網羅・整理・解説されている。

 平澤氏は本書を作成するにあたり,受験生のときに巡り合った「予備校講師の実況中継」というシリーズ参考書からヒントを得たという。実況中継とはどういったものなのか? 文書で実況中継が可能なのか? といった思いで読み進めた。そしてすぐにわかった。とにかくわかりやすい。レイアウトにも工夫が凝らされ,視覚的に理解がどんどん進む。混乱あるいは理解が十分でなく頭の中で?が浮かんでいると,本書ではすかさず「Point!」「さらに掘り下げ!」「まとめ」「Note」「コラム」などが差し込まれ,読者が抱くであろう(素朴な)疑問点に対して鮮やかに知識が補填され,まさに「腹落ちする」方向で読者を満足させていく。これが本書の真髄となる「実況中継」ということであり,あたかも読者が手を挙げて質問するであろう内容の回答が用意されているのである。見事な構成と言わざるを得ない。自身が3回も経験したアニサキス症とアニサキスの生態に関する記述もここまで掘り下げて記述されたものはなく,執念すら感じて実に微笑ましい。楽しく読める,これも本書の大きな特徴であろう。

 評者は胃SELに関しては日常臨床に携わるだけでなく,医学部3年生の講義も担当している。本書を読んで,ああ,このように講義すればいいよな,と再考させられた。このように,本書は年代・職位にかかわらず,SEL診療に関与する全ての消化器内科医,消化器外科医に大いに役立つものとなろう。全ての読者が「腹落ち」し,満足すること間違いなし,必読の書として自信を持ってお薦めする。また,医学生や研修医などの初学者が手に取れるよう,医学部図書館や医局単位での所蔵も望まれる。良書との出合いはいつでも素晴らしいものだと実感できる,そんな一冊である。


《評者》 自治医大教授 / 同大さいたま医療センター教授・血液学

 医療統計解説書のベストセラー,『今日から使える医療統計』の待望の第2版が刊行された。本書は皆さんご存じ,大阪公立大学大学院医療統計学の新谷歩先生の著書である。

 新谷先生は米国ヴァンダービルト大学から帰国されて以来,日本の生物統計学の脆弱な基盤を改善するために教育的活動に熱心に取り組まれている。多くの医師が感じる医療統計の高い壁。本書を読むことでその壁が徐々に崩れ落ち,視野が広がっていく。そんな一冊である。

 10年ぶりの改訂となった第2版では,リスク比やオッズ比,回帰分析のメカニズム,欠損値の補完,繰り返し計測データの解析,ベイズ法などの実践的な項目が追加された。偶然か否かを示す値に過ぎないP値は,効果の大きさを表すことはできない。やはり,重要なのはリスク比,オッズ比などのエフェクトサイズを理解し,活用することである。また,後方視的研究において必然的に生じる欠損値をどのように考えるか,補完しない場合/補完する場合の問題点がわかりやすく解説されている。ベイズ法は臨床医の日ごろの感覚に,より近いと感じられるかもしれない。

 巻末には新谷先生のYouTubeチャンネルの教育動画のQRコードが掲載されている。なんとその数は122本である。これだけでも新谷先生の医療統計教育にかける情熱が伝わってくる。かたや私は血液内科医であり,代表著書は同じ医学書院から刊行の『血液病レジデントマニュアル 第4版』である(宣伝)。医療統計の専門家ではない私がなぜ本書の書評を執筆させていただいているのか。それは,私が個人的趣味で開発し,無料公開している統計ソフト「EZR」を新谷先生も教育現場で積極的に活用してくださっており,私自身もEZRのバージョンアップ作業においてしばしば新谷先生に相談させていただいているつながりからだろう。

 新谷先生が「EZR」に関連する書籍を出版された際には,私のEZR書の売り上げが落ちるのではないかと心配したが,逆にEZRの知名度を高めてくださることで拙著の売り上げも上昇した。おかげさまでEZRの開発を紹介した論文の被引用回数は1万2000回を超えている。

 新谷先生にはこれからも,医師を正しい医療統計解析へと導いてくださる架け橋としてご活躍を続けられることを期待している。


《評者》 おうちの診療所目黒院院長 / 医師

◆アセスメントからケアプランまでを階層的に導く

 『インターライ方式 看取りケアのためのアセスメントとケアプラン』は,20か国の研究者(フェロー)で構成されるインターライ(本部は米国)が開発した国際標準のアセスメントツールのうちの1つである。このたび池上直己氏らにより翻訳され,このたび医学書院から出版された。

 インターライ方式の特徴は,アセスメント担当者の職種や力量によって偏らない評価が行えるだけでなく,その評価から自動的に導き出されるケア指針まで階層的になっている点である。

 まず第1章のアセスメント表は,医学,心理,ACP(アドバンス・ケア・プランニング)など,さまざまな側面に関する項目で構成されている。そしてケア指針選定表(縦軸を各アセスメント項目,横軸をケア指針とした一覧表)では,該当するアセスメント項目がそれぞれのケア指針につながるため,評価者は指示されたケア指針を読み込むことになる。

 第2章では,アセスメント項目の解釈を一貫させるための記入要項が細かく記載されている。また,そのためにモデルケースが複数示されており,それぞれのケースを基にトライアルできる仕様となっている。

 最後の第3章では,せん妄,呼吸困難,疲労感,気分,栄養,痛み,褥瘡,睡眠障害といった,終末期によく扱う8つのテーマでケア指針が書かれており,それらを読み込むことで具体的なケアプランを検討することが可能となっている。

◆病院以外での看取りケアの共通の物差しに

 多死社会を迎えるわが国において,病院以外の場所での看取りは大きなテーマとなっており,特に自宅以外の介護施設や居住系サービスはその受け皿としてニーズが高まっている。

 しかし,そこで働く人の多くは介護福祉職であり,一般的には医療的知識が不足している場合が多い。一方で医療職の多くは看護師であり,病院勤務経験者が多く,経験のある診療科や領域に偏りがあることに加え,生活の場におけるケアの視点が欠けやすいことが特徴として挙げられる。

 その結果,属人的なアセスメント&ケアになることは想像に難くない。実際に私の臨床現場においても,施設看護師が1名入職・退職するだけで,その後のケアの質が大きく変化することは珍しくなく,前々から何か共通の物差しが欲しいと考えていたところ,このインターライ方式に出合うことができた。今後は同じような課題意識のある施設職員と,この方式を共有し,活用していきたいと考えている。

 本書は全国の多くの在宅医療の現場,特にホームホスピスのように常に看取りケアをしているわけではなく,時々そのようなケースが発生するような施設において,非常に有用であると考えられる。このツールが活用され,多職種連携の質が向上し,患者にとってより質の高い看取りケアが提供されることを願う。


《評者》 鳥取県倉吉保健所長

 本書を手に取り,まず強いインパクトがあったのが,冒頭の節でした。乳幼児健診の「基本的な心構え」として,「健診は医療の延長ではありません」という文章から始まります。最近では子育てが「孤育て」としばしば表現されるように,孤立した育児環境に伴う保護者の育児不安や育児負担感の増大は社会課題の一つであり,そこから発展し得る児童虐待のリスクが指摘されています。乳幼児健診の意義として,子どもの健康状態の確認や疾病スクリーニングとともに,子育て支援の意味合いがますます大きくなってきました。また,2024年から始まった国民健康づくり運動プラン「健康日本21(第三次)」では,ライフコースアプローチとして胎児期から高齢期に至るまでの生涯を踏まえることが必要とされ,乳幼児健診はそのキーポイントの一つとなります。本書はこうした社会ニーズにコミットしており,冒頭の言を通じて,乳幼児健診に向かう医師の構えを疾病志向型から健康志向型へ切り替える,実践者のための指南書であると感じました。

 本書の内容も充実しています。初めに総論として「乳幼児健診の実際」が示された後に,各論として「月齢別の健診のしかた」に続きます。各月齢の健診における診察方法が手順に沿ってわかりやすく解説されており,シンプルな図表とかわいらしいイラストにより理解が進みます。また,それぞれの月齢の保健指導の要点やよくある質問への対応についても解説があります。健診現場ですぐに使える具体的な指導法が簡潔に記され,後に続く「育児相談・育児支援」の詳細な解説により理解が深まるよう工夫されています。さらに,「各月齢の発達の目安・ポイント一覧」が本書の見開きにあり,健診直前にサッと確認事項をおさらいするのに役立ちます。この内容はしおりとして付録にもなっていて,読者への細やかな配慮を感じました。

 さらに本書の特徴は,情報の適時更新にもあると思います。第7版が改訂された2024年度現在,「こどもまんなか社会」の実現をめざして国がこども家庭庁を設置して1年が経過しました。母子保健行政において,これまでにない勢いでさまざまな政策が打ち出されています。乳幼児健診についても,こども未来戦略「加速化プラン」において推進することが明示され,1か月児健診と5歳児健診が国庫補助事業となりました。本書はこうした状況を遅滞なく捕捉して内容を更新し,コラムに新項目も取り入れられています。一般的に医療現場に新しい政策情報は届きにくいものです。本書は改訂を重ねることにより時勢をとらえ,現場において必要な情報を遅れることなく紹介しています。本書の編集委員会である福岡地区小児科医会のご尽力はいかばかりかと心からの敬意を表するとともに,小児科医はもとより多くの乳幼児健診関係者に広くご活用いただきたい一冊であると思います。


《評者》 独立行政法人国立病院機構熊本医療センター 看護部長

 改善したい課題があるのに,周囲を納得させる資料が作れない。数字や統計が苦手でデータ分析に自信がない。本書は,そのような悩みを持つ看護管理者や,初めてデータ分析に挑戦する方にもぜひ手に取ってほしいデータ分析の入門書である。

 著者の一人である森脇睦子氏は,看護師の経験を経て,現在は研究者として病院運営の可視化や質改善の活動に従事されている。なぜ「看護をデータで示すことを難しい」と感じるのか,臨床現場の状況や困り事を知り抜いている著者だからこそ,わかりやすく明確な解説が可能となっていると感じた。

 本書は3つのChapterでシンプルかつ実用的に構成されている。「ChapterⅠ データ分析を行うために『必要な思考』―6ステップで考える」では,データ分析に取り掛かる段階から改善活動までの考え方・取り組み方を6つのステップで解説している。中でも「肝」とされているのは,ステップ①「思考の整理」である。これはデータ分析において,「目的」と「問い」を抽象的なイメージから具体的な表現に変換する過程である。

 本書のユニークなところは,この「思考の整理」の過程が「病棟の忙しさをなんとかしたい!」という看護業界の永遠のテーマを用いて説明されていることだ。しかも,「忙しさ」の要因を突き詰めず,「上層部に夜勤の増員をお願いして情に訴えても状況は改善にはつながらない」とハッキリ(!)書かれている。評者はここで過去の自分の失敗を想起し,少々ガックリ(!)きた。しかし,続けて,曖昧な「問い」ではなぜ失敗するのか,「忙しさ」を具体的で分析可能な「問い」にするにはどうすれば良いのかが明快に解説される。そのため,自己の失敗体験を客観視し,頭の整理をしながら次のステップへ読み進めていくことができた。また,Chapterの最後にはまとめとワークが準備されているので,すぐに自己の課題にチャレンジできる仕様である。

 続く,「ChapterⅡ データ分析を行う前におさえておきたい『データの見方・捉え方』」は,データの見方や意味を理解するための基礎的知識が解説されている。データの種類や種類に応じたまとめ方(集計),視覚的な表し方(グラフ)が,インシデント件数や超過勤務時間など,臨床現場でよく目にするデータを用いて解説されている。そのため,日常の業務の中でデータを整理する際にも活用できる内容となっている。

 最後に,「ChapterⅢ 事例で学ぶ臨床的疑問から改善策立案までの一連のプロセス」では,日々の疑問から質の評価までの6ステップに沿った2つの事例が紹介されている。初学者においては,ChapterⅠ・Ⅱと行きつ戻りつしながら,データ分析経験者は,自分なりの分析の視点を考えながら読み進めるとより理解が深まると感じた。

 質改善のマネジメントを行う上でデータ分析は難しいものと考えがちだが,今ある知識とフレームワークでも可能だと著者は述べている。臨床現場にあふれるデータを利活用し,根拠のある看護マネジメントが行えるよう,あらゆる看護管理者に薦めたい一冊である。


  • 在宅医療 治し支える医療の概念と実践

    在宅医療
    治し支える医療の概念と実践

    • 横倉 義武,大島 伸一,辻 哲夫,新田 國夫 監修
      蘆野 吉和,太田 秀樹 編
    • B5・頁292
      定価:4,180円(本体3,800円+税10%) 中央法規出版
      https://www.chuohoki.co.jp/

《評者》 日本プライマリ・ケア連合学会理事長

 医学書にはさまざまなタイプがある。病棟診療で迅速に知識を確認するためのポケット本,ある領域や疾患の診断・治療のプロセスを系統的に確認するための実践本など。本書はそのどちらでもなく,「在宅医療」という診療分野を貫く考え方を歴史・政策・思想・学術などのさまざまな観点から俯瞰して概説する標準テキストといってよいだろう。評者が医学生の頃に愛用していた医学書院の「標準医学シリーズ」のいわゆる在宅医療版である。

 在宅医療は循環器科,小児科,リハビリテーション科のような領域と異なり,診療が行われる「場」そのものが診療分野として表現されているというユニークさがある。例えば,「外来医療」や「病棟医療」もあるわけだが,それはあくまでも「……科」の外来医療や病棟医療であり,独自の診療分野と位置付けられているわけではない。では,なぜ「在宅医療」がそのように位置付けられるのか? そこにこそ本書が執筆された理由がある。

 本書が主として発する3つのメッセージは,日本社会の変化に伴う「治す医療」から「治し支える医療」へのパラダイムシフト,そして,「治し支える」医療に欠かせない基盤としてのプライマリ・ケア(地域包括ケアシステム,多職種連携),さらに,医療そのものを患者のライフ(生命・生活・人生)の視点から再構成するという視点の変化である。本来,この3つのメッセージは外来,在宅などの区別なく伝えられるべきものだが,臓器別に細分化され分業化された現代の医療において理解し実践することはますます難しくなりつつある。それゆえ,「在宅医療」を学び実践することを通じて,全ての医学生や医療者にこうした概念を理解してほしいというのが著者たちの願いであろう。

 近年,医学部の教育カリキュラムも変化しつつあり,前述の3つのメッセージに関連する「総合的に患者・生活者をみる姿勢」「社会における医療の役割の理解」といったテーマも組み込まれている。医学生の皆さんにとっては,本書をひもとくことによってまず基本的な在宅医療の知識を得ることができ,さらに医学部で提供される地域医療実習などで実際の在宅医療に触れることができた場合には,その実践の意味を深く理解することができるだろう。また,医学部において在宅医療に関する教育プログラムを提供する教育者にとっては,教育内容を言語化して伝える際に本書は最適なガイダンスとなるだろう。

 ただ,本書はそれ以外にも地域のニーズに応えて在宅医療を提供し始めた臨床家の皆さんにとっても大いに役に立つ。特に,第Ⅱ部の「具体的な症例を用いた演習」はいくつかの典型的な症例パターンでの具体的なマネジメント方略を詳述しており,明日からでも現場で使える内容といってよいだろう。

 本書が日本の医療を支えるための基盤の一つとして,多くの医療者に愛され活用されることを期待したい。

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