今日から使える医療統計 第2版
進化する統計手法を実践的に学ぶための決定版、待望の第2版!
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臨床研究から論文抄読まで、医療統計の広範な知識を深める信頼の一冊が待望の改訂! 「医療統計は難しい」と感じる方向けに、よくある疑問や陥りやすいピットフォールに丁寧に答え、確実な理解へと導く。数式をできる限り避けた実例を豊富に取り入れ、手順を明快に解説。改訂版では新しい統計手法にも対応し、今の時代に即した知識が身につく。医療統計を実践的なツールとして活用したい方に必携の書!
著 | 新谷 歩 |
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発行 | 2025年01月判型:A5頁:248 |
ISBN | 978-4-260-05758-5 |
定価 | 3,740円 (本体3,400円+税) |
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序文
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第2版の序
『今日から使える医療統計』の初版刊行から,早いもので10年が経ちました。初版は,私が20年間過ごした米国で,母国を思いながら執筆した『週刊医学界新聞』の連載をまとめたものです。帰国後まもなく出版されたので,この10年の年月は私が日本で生物統計家として奮闘してきた10年と重なり,非常に感慨深く思います。
10年という年月は,医療と統計の両分野において大きな変化をもたらしました。医療の現場では,電子カルテや画像診断システム,さらには健康保険のデータなど,扱うデータの量が飛躍的に増大し,その複雑さも増しています。さらに,ビッグデータや人工知能(AI)といった技術革新が急速に進み,データ解析の重要性がかつてないほど高まっています。データサイエンスが現代の医療における意思決定の中心となり,医療従事者が統計学を理解し,実践的に活用する力は,医療の質向上や臨床研究の発展において不可欠な要素となっています。
しかし,私が10年前に感じた日本の臨床研究を取り巻く環境,特に生物統計家の不足という課題は,現在も依然として深刻です。米国の大学病院では,臨床研究を支えるために数十人規模の統計家がチームを組んで支援を行っていますが,日本ではその数は非常に限られています。また米国では,私が教鞭をとったヴァンダービルト大学臨床研究修士コースのように医療従事者向けに医療統計学のみならず,疫学や臨床試験学を教える大学院も多くあり,このような教育格差などからも,臨床研究の数や質において大きな差が生まれている現状です。日本の臨床研究基盤の脆弱性はコロナ禍でも,顕著に表れたと思います。
新型コロナウイルス感染症の治療薬として世界で初めて承認されたレムデシビルの臨床試験は,米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の主導で2020年2月に開始され,2か月間で1,062人の患者が登録されました。このような大規模臨床試験が迅速に行われたのも,米国には臨床研究基盤がしっかりとできていたからにほかなりません。諸外国との差を日々痛感しながら,私は日本の医療従事者が自ら統計学の知識を身につけ,臨床研究において医療統計学や疫学臨床試験学の知識をマスターすることが,今後ますます重要になると考えています。
こうした背景のもと,本改訂版では,初版のコンセプトである「わかりやすく,実践的な医療統計学」を引き継ぎつつ,さらに充実した内容となるように加筆しました。具体的には,現代の医学研究に対応するために,5つの新たなトピックを追加しました。
1.リスク比やオッズ比,レートの解析
初版では,疫学研究で多く用いられるイベントデータの解析では生存率解析をご紹介しましたが,それに加え本改訂版では,疫学で非常に重要なリスク比やオッズ比,レートといった考え方について解説しています。
2.回帰分析のメカニズム
多変量解析を行う場合,回帰分析が必要不可欠となりますが,回帰分析の使い方は関連書ではあまり解説されていません。本改訂版では,線形回帰を例にして,単変量解析と線形回帰の関連性や,交絡因子や効果修飾を回帰分析で考慮する方法についても説明しました。回帰分析をマスターすることで,単純なデータ分析から一歩進んで,複雑な関係を解析するスキルが習得できます。
3.欠損値の補完
実際の臨床研究では,欠損値は避けて通れない問題です。本改訂版では多重補完法など,最近注目されている欠損値の補完方法を追加し,データの信頼性を高めるための手法を紹介しています。
4.繰り返し計測したデータの分析
医薬品の開発時に行われる治験などでは,非常に多くの被験者を組み入れる必要がありますが,これは,死亡など1人につき1回しか計測できないアウトカムを用いているからです。実際の臨床現場では1人の患者さんから,繰り返し計測されて得られた検査値などのデータに基づき意思決定がなされているにもかかわらず,臨床研究ではこのようなデータを解析で使いこなせていません。正しい解析手法をマスターすることで,被験者間のデータの違いを考慮し,より少ない症例数でも,統計的有意差を検出できるようになります。
5.ベイズ法
P値による解析手法は,統計学の世界ではその使いづらさが近年議論されています。より優れた解析手法として近年注目を集めているのが,ベイズ法を用いた統計学です。ベイズ法による新しい統計学の視点についてマスターすることで,よりフレキシブルな確率の考え方が身につきます。
統計は決して難しいものではなく,実践的なツールとして理解すれば,日常業務や研究の質を向上させる強力な武器になります。本書が,その道筋を照らす手助けとなることを願っています。
最後に,この10年の間に私を支えてくださったすべての方々,そして常に応援してくれている家族に深い感謝の意を表します。この改訂版が,日々患者さんの命を救うために奮闘している読者の皆様のお役に立つことを,心から願っています。
2024年12月
新谷 歩
目次
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Lesson 1 統計の基礎知識──統計って何だろう
Excelを使ってデータセットを作成してみよう
データを記述してみよう
標準偏差の意味と計算の仕方,使い方
データの傾向をとらえる平均と中央値──いつ平均・中央値を使う?
正規分布を取らない歪んだデータの記述の仕方
標準誤差はデータの記述ではなく,統計的な推測に用いられる
信頼区間
仮説検定──どうして「薬が効かない」からはじめるの?
P値──出会いが運命? ミラクルが起こる確率
信頼区間とP値
標準偏差と標準誤差,信頼区間,どれを使うか?
Lesson 2 同等性・非劣性の解析
同等性を示すにはどのような手続きが必要か
信頼区間を使って,同等性,非劣性を見てみよう
非劣性マージンをどう決めるか
信頼区間を用いた症例数の計算方法
Lesson 3 グラフの読み方・使い方
研究で一番よく使われる棒グラフ,比較の精度はわからない
棒グラフにエラーバーを付けてみよう
データの分布を表すグラフ
箱ひげ図の読み取り方
平均値の群間比較のエラーバーとP値の関係
Lesson 4 単変量統計検定の選び方
異なる検定で,異なる結果が出る。どうして?
誤った解析結果は医療スキャンダル
Let's Try──研究に適した統計手法を選んでみよう!
差をみるのか,相関をみるのか?
比較データは対応しているか?
アウトカムは,連続変数,2値変数,順序変数,名義変数のいずれに分類できるか?
アウトカムが連続変数の場合,その分布は正規分布であるか?
比較群間で比較を行うとき,比較群の数は2つか,3つ以上か?
データの総数は?
Lesson 5 リスク比,オッズ比,レート
リスクでは発生率を用いる
割合とレート
比なのか差なのか
割合とオッズ
オッズ比はリスク比に比べて必ず1より離れた値を取る
そもそもなぜオッズ比なのか?
Lesson 6 生存時間解析
カプランマイヤー曲線の活用方法
累積生存率とリスク
打ち切りのデータは計算上どう扱うか
カプランマイヤー曲線で用いるパラメータ
ハザードとは何か
比例ハザード性とは何か
Lesson 7 交絡と多変量解析
見せかけの相関
リンゴとミカンを比べない交絡のコンセプト
回帰分析手法の選択の仕方
回帰分析で調整する説明変数はどう選ぶか?
交絡除去に対応できる症例数の確保を
Lesson 8 交絡と傾向スコア
疑似無作為化とは
傾向スコア逆確率重み法
Lesson 9 症例数とパワー計算
症例数を増やせばいつか必ず有意差が出る
研究を始める前に知っておいてほしいこと──解析プランはデータを見ずにすべて立てておく
1型エラーと2型エラー,無実の人が罪に問われるエラーと真犯人が野に放たれているエラー
症例数計算に必要なデータ
さあ,症例数計算してみよう──EZRの使い方
アウトカムが生存,死亡のような2値変数の症例数の計算──NEJM研究例を用いて,さあトライ!
よくある質問
Lesson 10 多重検定
ボンフェローニの呪い
見過ぎによる出過ぎ?
比較群が多い場合の補正法(偽発見率法)
補正すべきか,否か,今でも高まる論争の行方は?
Lesson 11 中間解析
過剰な中間解析は誤った結果を導きかねない
「見過ぎによる出過ぎ」をいかに補正するか
中間解析について研究計画書に詳細な記載を
Lesson 12 無作為化比較試験(RCT)におけるデータ解析
患者背景表にP値は必要か?
無作為化の本当の意味──全体的なバランスをみる
アウトカムのベースライン値は調整すべき?
Lesson 13 インターアクション(交互作用)
インターアクションを交互作用と理解するとわかりづらい
Lesson 14 感度・特異度
解釈が難しい感度・特異度解析
陽性的中率は検査の理由によってここまで変わる?
診断検査ツールを検証する際のチェックポイント
感度・特異度でよく使われるROC曲線
あまり使えないROC曲線に代わる統計量
Lesson 15 回帰分析のメカニズム
線形回帰とは
スチューデントのt検定は,説明変数が2値のカテゴリー変数の線形回帰と同じ
ピアソンの相関検定は,説明変数が連続変数の線形回帰と同じ
分散分析は,説明変数が3値以上のカテゴリー変数の場合の線形回帰と同じ
回帰分析では,説明変数を複数考慮できる(多変量解析)
Lesson 16 欠損値の問題
データの欠損は情報エラーを引き起こす
情報エラーは起こってもバイアスにならなければOK
情報エラーは比較群間で偏らなければバイアスにはならない
多変量解析による欠損値の問題
データの欠損から起こる選択バイアス
そもそも実臨床データを用いた研究で欠損のないデータを入力するのは無理
欠損の3つのパターン
Lesson 17 繰り返し計測したデータの解析
個体間のデータのバラつきと個体内のデータのバラつき
固定効果モデルと混合効果モデル
Lesson 18 統計学の新たな手法──P値を用いないベイズ法
ベイズ法を用いた検査前後の確率のアップデート
頻度法を用いた確率計算
ベイズ法を用いた臨床研究事例
YouTube動画リスト
索引
コラム
確率が事実に変わる瞬間
紅茶を飲み分ける女性
世界のトップジャーナルにアクセプトされるまで
米国のシラミ騒動で実感したデータの関連と確率
司法における1型エラーと2型エラー
P値至上主義を撲滅すべき
ゲートキーピング法
新型コロナウイルス感染症ワクチン開発で用いられたベイズ法
書評
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医療統計に立ちはだかる壁が崩れ,視野が広がる一冊
書評者:神田 善伸(自治医大教授/同大さいたま医療センター教授・血液学)
医療統計解説書のベストセラー,『今日から使える医療統計』の待望の第2版が刊行された。本書は皆さんご存じ,大阪公立大学大学院医療統計学の新谷歩先生の著書である。
新谷先生は米国ヴァンダービルト大学から帰国されて以来,日本の生物統計学の脆弱な基盤を改善するために教育的活動に熱心に取り組まれている。多くの医師が感じる医療統計の高い壁。本書を読むことでその壁が徐々に崩れ落ち,視野が広がっていく。そんな一冊である。
10年ぶりの改訂となった第2版では,リスク比やオッズ比,回帰分析のメカニズム,欠損値の補完,繰り返し計測データの解析,ベイズ法などの実践的な項目が追加された。偶然か否かを示す値に過ぎないP値は,効果の大きさを表すことはできない。やはり,重要なのはリスク比,オッズ比などのエフェクトサイズを理解し,活用することである。また,後方視的研究において必然的に生じる欠損値をどのように考えるか,補完しない場合/補完する場合の問題点がわかりやすく解説されている。ベイズ法は臨床医の日頃の感覚に,より近いと感じられるかもしれない。
巻末には新谷先生のYouTubeチャンネルの教育動画のQRコードが掲載されている。なんとその数は122本である。これだけでも新谷先生の医療統計教育にかける情熱が伝わってくる。かたや私は血液内科医であり,代表著書は同じ医学書院から刊行の『血液病レジデントマニュアル 第4版』である(宣伝)。医療統計の専門家ではない私がなぜ本書の書評を執筆させていただいているのか。それは,私が個人的趣味で開発し,無料公開している統計ソフト「EZR」を新谷先生も教育現場で積極的に活用してくださっており,私自身もEZRのバージョンアップ作業においてしばしば新谷先生に相談させていただいているつながりからだろう。
新谷先生が「EZR」に関連する書籍を出版された際には,私のEZR書の売り上げが落ちるのではないかと心配したが,逆にEZRの知名度を高めてくださることで拙著の売り上げも上昇した。おかげさまでEZRの開発を紹介した論文の被引用回数は1万2000回を超えている。
新谷先生にはこれからも,医師を正しい医療統計解析へと導いてくださる架け橋としてご活躍を続けられることを期待している。