• HOME
  • 書籍
  • Dr. 平澤俊明の白熱講義実況中継 胃SEL/SMTの診断と治療 


Dr. 平澤俊明の白熱講義実況中継 胃SEL/SMTの診断と治療

もっと見る

胃SEL(subepithelial lesion)の診断と治療についての実践的な知識を体系的にわかりやすく解説。「豊富な症例」と日々の診療で生じる疑問点や初学者がつまずきがちなポイントに焦点を当てた「腹落ちする解説」を、工夫を凝らした「視覚的に理解しやすいレイアウト」と自然に引き込まれるような語り口かつ明快な「実況中継」形式で、読む人のわかりやすさにこだわってまとめ上げた、他に類を見ない一冊!

平澤 俊明
病理監修 高松 学
発行 2024年11月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-05732-5
定価 7,920円 (本体7,200円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

推薦の言葉

 本書は著者である平澤俊明先生の18年間にわたる多くの経験と実践してきた治療への深い考察のうえに執筆されたものである.平澤先生はもちろんがん研有明病院上部消化管チームの仲間であり,長らく臨床をともにしている.内視鏡治療全盛の時代であるなかで,一貫して診断に対する厳格な姿勢を崩さずに治療をされている.それもそのはずで,消化管の治療は外科治療だけでなく内視鏡治療も診断があって初めて適切になされるものだからである.通常の胃癌は組織の多様性はあるが,深達度や範囲診断が主に問題になる.一方今回取り上げられた胃SEL/SMTは診断そのものが難しいのである.疾患も多岐にわたりGISTだけにとどまらない.そこで平澤先生が丁寧に培ってきた診断力が力を発するのである.
 「はじめに」の著者の言葉にもあるように実践に即し本領域を網羅した成書はなかなか見当たらない.また,通り一遍の解説書では体系的に学ぶことができない.総論から各論へ,多くの内視鏡写真とイラストを駆使して展開される本書は本当に数少ない名著となるであろう.「実況中継」として予備校有名講師の講義を彷彿とさせる本書は初学者を対象としたように思われるかもしれないが,病理学的な側面を高松学先生がしっかり監修されているのでベテランが手に取っても知識の整理に大いに役立ち,新たな発見が生まれるであろう.
 本書を手に取れば,軽快な語り口とわかりやすい内容にあっという間に読み進めてしまう,その間にどんどんと頭の中が体系化されていく,そんな経験を味わっていただきたいと思う.

 がん研究会有明病院(がん研有明病院) 胃外科部長
 布部創也


はじめに──がん研の経験を届けたい──

 レフリーのホイッスルが灼熱のサッカーグラウンドに響き渡り,試合終了を告げた.0-1の惜敗であった.滴る汗が乾いたグラウンドに吸い込まれていく.1992年夏,私の高校生活のほとんどを占めたサッカーが終わったあの日は,今でも鮮明に思い出される.
 さて,気持ちを切り替え,受験勉強に本腰を入れなくてはいけない.しかし,予備校の夏期講習はすでに始まっており,今更入れるところもない.私の通っていた県立高校は,大学受験に関しては放任主義.高校生活を3年間満喫して,1年浪人して大学に入るのが定番コースだ.
 受験勉強の仕方もわからぬまま書店で参考書を立ち読みしていると,「有名予備校講師の実況中継」というような本が目に飛び込んできた.何気なくページをめくると,まるで有名講師が教えてくれているかのような,生き生きとした授業が文字になっていた.
 「これはわかりやすい! 高校の先生もこの本を読んで,教え方勉強しろよ……」──高校の先生に失礼ではあるが,実際に私が抱いた感想である.
 そして,『実況中継』シリーズ(語学春秋社)を購入して,擦り切れるまで読み返した.教える人がうまいと,こんなにも勉強が楽しくなるのかと実感した.『実況中継』シリーズのおかげで,翌春には高知医科大学(現高知大学医学部)に入学することができた.
 時は流れ,30年後の現在,私はがん研有明病院(がん研)で内視鏡医として働いている.当院で開発された胃上皮下病変(subepithelial lesion ; SEL)への新治療法であるLECS(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery)は全国的に認知されており,さまざまな病態のSELの患者さんが紹介されてくる.SELの診断と治療は時として困難であり,個々の症例に対する適切な対応が求められる.私にとって,この難題に立ち向かうことは大きなやりがいとなった.臨床研究にも力を注ぎ,特に神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)の診断と治療,そしてLECSについては多くの学会発表を行い,論文にまとめてきた.がん研での18年間の経験を通じて,SELの診断と治療に自信を深めることができた.
 当院には,後期研修を終えた医師たちが、がん診療を学ぶために毎年入局してくる.若手医師たちの指導を行うなかで,多くの医師がSELに関する経験や知識が不足していることに気付いた.後輩たちからは「SELに関するおすすめの本はありませんか?」とよく尋ねられるが,SELを体系的に,かつわかりやすく解説した良書は少ない.
 それなら,「自分で書いてみよう!」と決心した.高校時代に影響を受けたあの『実況中継』シリーズのスタイルを取り入れ,よりわかりやすく,実践的な医学書を執筆することにした.過去に多くの胃SELに関する講演を行っていたため,その経験を生かして書籍を構想した.読者が自然と内容に引き込まれるような語り口の文体で,理解を助けるために豊富な内視鏡画像とシェーマを用意した.さらに,単なる事実の羅列にとどまらず,その疾患の病態の背景や,なぜ特定のEUS画像が重要なのかについても深く迫った.その結果,読者が情報をただ受け取るだけでなく,理解し,納得し,自らの知識として定着させることを目指した.この執筆には3年の歳月を費やし,ついに本書を完成させた.
 このように胃SELの豊富な症例と明解な解説を兼ね備えた書籍は他に類をみない.私が高校時代に読んだ『実況中継』シリーズのように,多くの読者に「目から鱗が落ちる」ような体験を提供したいと願っている.私のがん研の18年間の経験と学びから生まれた本書が,医療現場で実際に役立ち,患者さんの命や生活の質の向上に貢献すること──これが,私がこの書籍を通じて成し遂げたい最終目標である.

 2024年9月
 がん研有明病院 上部消化管内科 胃担当部長
 平澤俊明

開く

第1章 SEL/SMTについて
  1 SEL/SMの違い
   ① SELとは?
   ② 粘膜下腫瘍(SMT)と上皮下病変(SEL)の違い
   ③ 粘膜と上皮の違い
   ④ 胃の上皮と粘膜の関係
   ⑤ 胃のSMTとSELの比較
   ⑥ 胃SELの問題点

第2章 胃SELの診断と治療(総論)
  1 胃SEL診断の基礎知識
   ① 胃SELの主な疾患
   ② 胃SELの頻度
   ③ 胃SELの発育形式
   ④ 胃SEL診断のストラテジー
  2 通常内視鏡
   ① 胃SELの通常内視鏡所見
   ② 胃SELの通常内視鏡で観察すべき所見
   ③ 占居部位(鑑別に役立つ好発部位)
   ④ 多発病変
   ⑤ 色調
   ⑥ 粘膜表面の性状(びらん,潰瘍,陥凹)
   ⑦ 立ち上がり(急峻,なだらか)
   ⑧ 硬さ,可動性
   ⑨ 胃SELの生検は必須なのか?
  3 EUS
   ① 超音波の原理
   ② 周波数による特徴
   ③ EUS機器の使い分け
   ④ きれいな画像を出すコツ!
   ⑤ 正常な胃壁のEUS所見
   ⑥ 超音波画像の表現(エコーレベル)
    [Q&A] 高エコー,低エコー,無エコーの違いは?
    [Q&A] 細径プローブの画像が暗くてみえません…….どうすればいいですか?
   ⑦ 胃SELのEUS診断で観察すべき所見
   ⑧ EUSによる胃SELの鑑別
   ⑨ EUSの読影
  4 CT
   ① 胃SELのCT診断で観察すべき所見
  5 組織診断
   ① 組織診断
   ② ボーリング生検
   ③ EUS-FNA
   ④ 粘膜切開生検
   ⑤ EUS-FNA vs 粘膜切開生検
   ⑥ がん研の粘膜切開生検の適応
    [Q&A] 粘膜切開生検の適切な検体数は?
  6 胃SELの治療方針
   ① 胃SELの治療方針
    [Q&A] 悪性所見がよくわかりません…….
   ② 内視鏡検査における悪性所見
   ③ EUSの悪性所見
   ④ CTの悪性所見
   ⑤ 悪性所見の非典型例
    [Note] 内視鏡検査で初回指摘された胃SELのストラテジー

第3章 胃SELの診断と治療(各論)〈腫瘍性〉
  1 胃SELの主な疾患(腫瘍性)
  2 消化管間葉系腫瘍(GIST,平滑筋腫,神経鞘腫)──GIMT
   ① 間葉系とは?
   ② 消化管間葉系腫瘍(GIMT)
   ③ カハールの介在細胞
   ④ カハールとは?
   ⑤ GIMTの病理組織像
   ⑥ 紡錘とは?
   ⑦ GIMTの病理診断
  3 GIST
   ① GISTとは?
   ② GISTの画像診断
   ③ GISTの治療
   ④ 症例提示(GIST)
   ⑤ 胃GIST術後のリスク分類
    [Note] 顕微鏡的GIST
  4 平滑筋腫
   ① 平滑筋腫とは?
   ② 症例提示(平滑筋腫)
  5 神経鞘腫(schwannoma)
   ① 神経鞘腫(schwannoma)とは?
   ② 症例提示(神経鞘腫)
  6 SELの形態を示す胃癌
   ① SELの形態を示す胃癌とは?
    [Note] 一般型胃癌と特殊型胃癌
   ② SELの形態を示す胃癌の内視鏡像
   ③ 症例提示(SELの形態を示す胃癌:一般型胃癌)
   ④ 特殊型胃癌(リンパ球浸潤癌)
   ⑤ リンパ球浸潤癌の内視鏡像
   ⑥ 症例提示(特殊型胃癌:リンパ球浸潤癌)
   ⑦ 特殊型胃癌(胃底腺型腺癌)
    [Note] 胃底腺と胃底腺型腺癌の関係
   ⑧胃底腺型腺癌の内視鏡像
   ⑨症例提示(特殊型胃癌:胃底腺型腺癌)
  7 悪性リンパ腫
   ① 悪性リンパ腫とは?
   ② 正常なリンパ球
    [Note] 粘膜関連リンパ組織(MALT)とは?
   ③ B細胞の分化とB細胞型リンパ腫の対応
   ④ 胃悪性リンパ腫における組織型の頻度と予後
   ⑤ 胃悪性リンパ腫の内視鏡像
   ⑥ 胃悪性リンパ腫のEUS像
   ⑦ 症例提示(悪性リンパ腫:EUS像)
  8 MALTリンパ腫
   ① 胃MALTリンパ腫とは?
   ② 胃MALTリンパ腫の内視鏡像の分類
   ③ 胃MALTリンパ腫のEUS像
   ④ 胃MALTリンパ腫の予後
    [Note] 最近,ピロリ菌未感染のMALTリンパ腫が増えている?
   ⑤ 症例提示(胃MALTリンパ腫)
    [コラム] 用語の落とし穴:「MALTリンパ腫」と「MALT」の違いを正しく理解しよう!
   ⑥ 解説と経過
    [Note] LEL──MALTリンパ腫の特徴的な病理組織所見
  9 神経内分泌腫瘍(NET)
   ① 神経内分泌腫瘍(NET)とは?
   ② NETの概念の変遷
   ③ 胃の内分泌細胞の分布
   ④ NETの発生
   ⑤ Rindi分類
   ⑥ Rindi分類における診断のストラテジー
   ⑦ ガストリンと胃NET Type1,Type2の関係
   ⑧ 胃NET Type1の発生機序
    [Note] 自己免疫性胃炎
   ⑨ 胃NET Type2の発生機序
   ⑩ 胃NET Type3の発生機序
   ⑪ 胃NET内視鏡像の特徴
   ⑫ 症例提示(胃NET)
   ⑬ 胃NETの治療(症例検討)
   ⑭ ガイドライン別にみる胃NETの治療方針
   ⑮ 症例の経過
    [さらに掘り下げ!] なぜ幽門洞切除術で残胃のNETが消失するのか?
   ⑯ 胃NET Type3の治療(症例提示)
   ⑰ 胃NET Type3の多施設共同研究
   ⑱ 胃NET Type3の全国多施設共同研究の論文
   ⑲ 新しいタイプの胃NET:壁細胞機能不全症(症例提示)
   ⑳ 壁細胞機能不全症
    [Note] プロトンポンプ(H/K-ATPase)とは?
   ㉑症例の経過
   [さらに掘り下げ!] NECについて
   ① NECとは?
   ② NETがNECに変わるのか?
   ③ NECの内視鏡像
   ④ 症例提示(NEC)
    [Note] NET,胃底腺型腺癌,MALTリンパ腫は内視鏡像が似ている?
  10 グロムス腫瘍
   ① グロムス腫瘍とは?
   ② 症例提示(グロムス腫瘍)
  11 転移性腫瘍
   ① 転移性腫瘍とは?
   ② 症例提示(転移性腫瘍)
  12 脂肪腫
   ① 脂肪腫とは?
   ② 症例提示(脂肪腫)

第4章 胃SELの診断と治療(各論)〈非腫瘍性〉
  1 胃SELの主な疾患(非腫瘍性)
  2 異所性膵
   ① 異所性膵とは?
   ② 症例提示(異所性膵)
   ③ 異所性膵は癌化するのか?
  3 炎症性類線維ポリープ
   ① 炎症性類線維ポリープとは?
   ② 症例提示(炎症性類線維ポリープ;IFP)
  4 粘膜下異所性胃腺
   ① 粘膜下異所性胃腺とは?
   ② 症例提示(粘膜下異所性胃腺)
  5 囊胞
   ① 囊胞とは?
   ② 前腸由来の囊胞
   ③ 症例提示(前腸由来の囊胞)
  6 hamartomatous inverted polyp
   ① hamartomatous inverted polypとは?
   ② 症例提示(HIP)
  7 アニサキスなどの異物による肉芽腫
   ① アニサキスによる肉芽腫とは?
    [Note] アニサキスアレルギー
    [さらに掘り下げ!] アニサキスの成虫をみたことがありますか?
   ② 胃アニサキス症の内視鏡像
   ③ 症例提示(アニサキスによる肉芽腫)
    [Note] アニサキスについてのよくある疑問点
  8 壁外圧排
   ① 壁外圧排とは?
   ② 症例提示(壁外圧排)
   ③ 壁外圧排を診断するちょっとしたコツ
    [さらに掘り下げ!] 脾動脈瘤について

第5章 胃SEL治療の実際
  1 胃SELの治療方針
  2 広義のLECS
   ① Classical LECS
   ② Inverted LECS
   ③ CLEAN-NET
   ④ NEWS
   ⑤ 各LECSの特徴
  3 胃SELに対するLECS
   ① 噴門部の管内発育型SEL
   ② 噴門部のLECS
   ③ 噴門部のLECSの限界
   ④ EFTR

欧文索引
和文索引

開く

手技開発に根差した知恵と情熱が結晶化した名著
書評者:比企 直樹(北里大主任教授・上部消化管外科学)

 本書は,これまで体系立てて語られることが少なかった胃SEL(subepithelial lesion)およびSMT(submucosal tumor)の診断と治療に関する初めての本格的な教科書と言っても過言ではありません。胃SEL/SMTは粘膜下に潜む病変であるため,その診断はしばしば困難を極めます。加えて,適切な治療を選択し実施する上でも高い専門性が要求されます。本書では,こうした課題に対して,粘膜を切開したり,穿刺したりといった通常の診断法とは一線を画すアプローチが丁寧かつ具体的に解説されています。

 胃SEL/SMTと一口に言っても,代表的なGIST(消化管間質腫瘍:gastrointestinal stromal tumor)だけでなく,場合によっては胃癌など多様な病変が含まれます。そのため,的確な診断が極めて重要となります。本書では,この多様な病変の特性を正確に把握し,診断に結び付けるための「実践的なコツ」を,著者である平澤俊明先生ならではの臨場感あふれる講義形式で学ぶことができます。このアプローチにより,経験の浅い医師から熟練した医師まで,誰でも胃SEL/SMTの正しい診断方法を習得できる構成となっています。

 さらに,治療法についても,胃SEL/SMTの位置が胃壁内に隠れているため,外側からのアプローチでは病変の同定が困難であり,過剰または不十分な切除が起こりやすいという課題があります。本書では,こうした課題を克服する手段として,腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS:Laparoscopic and Endoscopic Cooperative Surgery)をはじめとした先端的な手技が,具体例とともにわかりやすく説明されています。LECSは,私ががん研有明病院に在籍していた際に,平澤先生と共に開発した画期的な手術手技です。当時,この手技は一部の医師から批判を受けたこともありましたが,平澤先生は常にその価値を信じ,改良を重ね,今日の安全かつ効果的な手技へと進化させる中心的な役割を果たされました。特に,内科からの提案や共同研究によって,合併症の発生をゼロに抑えることができたのは,平澤先生のたゆまぬ努力の賜物です。

 LECSは一見すると簡単で患者さんに優しい手技に見えるかもしれませんが,実際には噴門付近や幽門直下,さらには食道に接する病変など,高度な技術が要求されるケースも多く存在します。こうした難所においても,平澤先生は適切なアプローチ方法を開発し,外科医が自信を持って手術に臨める環境を築きました。このように,LECSの発展に多大な貢献をした平澤先生の経験が凝縮された本書は,まさに「手技開発に根差した知恵と情熱が結晶化した名著」と言えるでしょう。

 胃SEL/SMTはGISTに違いない,LECSは簡単な手技にすぎない――このような固定観念を持つことは非常に危険です。本書を通じて,平澤先生の魂がこもった講義を追体験することで,診断・治療の一つひとつに込められた深い考察と技術の真髄を学び取っていただきたいと思います。この一冊が,読者にとって胃SEL/SMTの診断および治療技術を磨く上での確かな道しるべとなることを確信しています。


消化器内科・外科問わず読むべき,胃腫瘍全般における名著
書評者:平澤 欣吾(横浜市大附属市民総合医療センター内視鏡部部長)

 平澤俊明先生の著書『Dr. 平澤俊明の白熱講義実況中継 胃SEL/SMTの診断と治療』に出合ったのは,2024年のJDDWの書籍販売コーナーである。赤い表紙が目を引く本書は,その人気を反映するかのように最前列に展示されていた。俊明先生がこの書籍を執筆されたという噂を耳にしたとき,「SMTだけの書籍? かなりニッチなところを攻めたなぁ」という印象を受けた。しかしながら,いざ手に取ってみると,その印象は「すげぇ面白い」に一変したのである。

 本書の書評を執筆する機会をいただいたのは,僭越ながら私が同じ“平澤”という姓を名乗っているからか,あるいは胃SMTに対してEFTR(endoscopic full thickness resection)を実施しているからかはわからないが,いずれにせよ,このような貴重な機会をいただいたことに感謝の念を抱いている。

 もともと国際的にはSEL(subepithelial lesion)という用語が使用されていたが,本邦ではSMT(submucosal tumor)が主流であり,最近ではこの呼称も少しずつ統一されつつある。本書の冒頭部分では,SELとSMTという2つの表現の定義や違いが非常に丁寧に説明されており,多くの医師が抱えていた「もやもや」を見事に解消してくれる。この書名が「SEL/SMT」となっているのは,現在もSMTという表現に慣れ親しんでいる国内医療現場への配慮と,両者の違いを明確にする意図が込められているのだろう。

 GIST(消化管間質腫瘍:gastrointestinal stromal tumor)を代表とする筋層由来の腫瘍は狭義のSMTに該当するが,俊明先生の狙いは単にこれらを解説することではないだろう。推測するに,SMT様の形態をとる腫瘍,すなわちSELには多くの鑑別診断が存在し,それを正確に診断することの重要性や面白さを,著者自身の経験を通じて伝えたかったのではないだろうか。「これなんだろう?」と疑問を抱いたとき,とことん追及する俊明先生の姿勢が随所に表れており,本書では多岐にわたる鑑別診断が体系的かつ網羅的に記載されている。「SELには癌が含まれる」という事実をここまで明確に示した書籍は今まで存在せず,これだけでも本書の価値は極めて高い。

 さらに特筆すべきは,「画」の美しさである。内視鏡写真,病理組織,シェーマに至るまで,全ての画像の質が非常に高い。ただ眺めているだけでも興味深く,さらにその画像に「腹落ちする解説」がついているのだからたまらない。なぜその腫瘍がSELといった特殊な形態をとるのか,その詳細な解説はまさに「腹落ち」そのものである。パッと開いたページの画像を見て,「これはなんだ? へぇ,なるほど!」と思わず感嘆する瞬間が何度も訪れる。これだけの症例を集め,それを解説できるだけの高品質な画像をそろえるには,相当な労力がかかったであろうことは想像に難くない。

 本書は,SELという枠組みにとどまらず,胃腫瘍全般における名著といえる一冊である。


良書との出合いはいつでも素晴らしいものだと実感できる,そんな一冊
書評者:阿部 展次(杏林大教授・消化器・一般外科学/同大病院上部消化管外科診療科長)

 一通り目を通し,さて,書評を書こうかと思ってリビングで本書を広げていると,医学部4年生の息子がやってきて本書を手に取り,しばし目を通した直後に「何これ。めっちゃわかりやすいじゃん。講義でこの領域聴いたけど,何が何だかわからなかった。知識が整理できるなあ。ちょっとしばらく借ります」と言って自室に持っていってしまった。書評を書こうかとせっかく重い腰を上げたのに出鼻を挫かれた感があったが,すぐさま,このエピソードは使える,と思い直した。この愚息の放った一言は本書の本質を突いたものであった。

 胃の内視鏡治療・外科治療に携わる私の仕事の多くは胃癌に関するものであるが,胃の粘膜下病変(subepithelial lesion:SEL)の診療に当たることも少なくない。胃SELには多彩な病変が含まれており,鑑別診断が時として難しく,治療方針も病変によって大きく異なる場合が少なくない。頻度が低いことからも,体系的に学べる成書は極めて少なく,消化器内科関連雑誌の特集号が散発的に発刊されるだけである。そのような中,満を持して本書が刊行された。本書では,永年にわたり胃SELの診療に携わってきた著者の平澤俊明氏が持つ豊富な経験を通じ,SELの分類や頻度,(質的・鑑別)診断の実際,各々の病態,病理像,重要なリサーチ結果,治療法などが,満載される美しい画像とともに網羅・整理・解説されている。

 平澤氏は本書を作成するにあたり,受験生のときに巡り合った「予備校講師の実況中継」というシリーズ参考書からヒントを得たという。実況中継とはどういったものなのか? 文書で実況中継が可能なのか? といった思いで読み進めた。そしてすぐにわかった。とにかくわかりやすい。レイアウトにも工夫が凝らされ,視覚的に理解がどんどん進む。混乱あるいは理解が十分でなく頭の中で?が浮かんでいると,本書ではすかさず「Point!」「さらに掘り下げ!」「まとめ」「Note」「コラム」などが差し込まれ,読者が抱くであろう(素朴な)疑問点に対して鮮やかに知識が補填され,まさに「腹落ちする」方向で読者を満足させていく。これが本書の真髄となる「実況中継」ということであり,あたかも読者が手を挙げて質問するであろう内容の回答が用意されているのである。見事な構成と言わざるを得ない。自身が3回も経験したアニサキス症とアニサキスの生態に関する記述もここまで掘り下げて記述されたものはなく,執念すら感じて実に微笑ましい。楽しく読める,これも本書の大きな特徴であろう。

 評者は胃SELに関しては日常臨床に携わるだけでなく,医学部3年生の講義も担当している。本書を読んで,ああ,このように講義すればいいよな,と再考させられた。このように,本書は年代・職位にかかわらず,SEL診療に関与する全ての消化器内科医,消化器外科医に大いに役立つものとなろう。全ての読者が「腹落ち」し,満足すること間違いなし,必読の書として自信を持ってお薦めする。また,医学生や研修医などの初学者が手に取れるよう,医学部図書館や医局単位での所蔵も望まれる。良書との出合いはいつでも素晴らしいものだと実感できる,そんな一冊である。

消化器にかかわる医療関係者のための情報サイト
“gastropedia(ガストロペディア)” はこちら


  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。