医学界新聞プラス
[第2回]疾患編:慢性虚血性心疾患――冠動脈の狭窄評価 MRI
『心臓疾患のCTとMRI 第2版』より
連載 中村哲士,石田正樹
2024.11.22
心臓疾患のCTとMRI 第2版
前版となる『心臓血管疾患のMDCTとMRI』が2005年に刊行されてから19年が経過した2024年,待望の第2版となる『心臓疾患のCTとMRI』がこのたび刊行されました。この間,心臓CTやMRIの有効性に関するエビデンスの蓄積が進んだことから,さまざまな心疾患のガイドラインにおいて心臓CTやMRIの存在感が高まっており,検査に必要な解剖と撮影断面,撮影法の基礎と実践,画像解析と表示法,画像診断の適応となる疾患の基礎と読影のポイントを紹介した本書は,日々の臨床に役立つこと間違いなしです。医学界新聞プラスでは,本書の中から4項目をピックアップし,ご紹介していきます。ぜひご覧ください。
●冠動脈MRAの特徴
冠動脈MRAは,MRIを用いて冠動脈の形態を非侵襲的に描出する画像診断法である.冠動脈MRAが有する冠動脈造影CTにはない特長として,①放射線被曝がないこと,②冠動脈高度石灰化のある症例でも狭窄病変の診断が妨げられないこと,③心拍数の調節が不要であること,④造影剤投与を行わない非造影検査も可能であること,などが挙げられる.日本循環器学会の「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン」では,冠動脈高度石灰化症例,造影剤が使用できない腎不全症例,冠動脈奇形や川崎病冠動脈瘤の診断およびフォローにおいて第1選択となりうる診断法であると示されている1).一方,冠動脈MRAの弱点として,撮影に時間がかかること,CTと比較して空間分解能が低いこと,冠動脈ステント内腔の評価が困難なことなどが挙げられる.
●1.5T冠動脈MRAの診断能
冠動脈MRAの撮影には3D whole-heart coronary MRAとよばれる心臓全体を含む三次元画像を一度に収集する方法が広く用いられている.冠動脈MRA画像を読影する際は,sliding thin-slab maximum intensity projection(sliding thin-slab MIP)を用いて多方向から冠動脈狭窄の有無を評価することが重要である.1.5T MRIによる冠動脈MRAではsteady-state free precession(SSFP)法が用いられ,造影剤を使用せずにコントラストの高い画像を得ることができる.Sakumaら2) により,非造影の1.5T冠動脈MRAが侵襲的CAG検査との比較において感度82%,特異度90%,PPV 88%,NPV 87%という診断能を有することが示された.また,わが国における多施設共同研究3) では,非造影の1.5T冠動脈MRAは高い検査成功率(92%)を有するだけでなく,侵襲的CAG検査との比較においてAUC(area under the curve)0.87,感度88%,特異度72%,PPV 71%,NPV 88%という診断能が示されている.2016年に発表されたメタ解析では1.5T冠動脈MRAの診断能は感度88%,特異度68%であった4).冠動脈造影CTとは対照的にMRAでは,冠動脈の信号強度への石灰化による影響を最小限に抑えることができるという特徴を利用して,1.5T冠動脈MRAにおける血管に沿った信号強度のプロファイルに基づいて狭窄の有無を定量的に解析する方法も発表されている5).その結果は,冠動脈MRAと侵襲的CAG検査で測定された狭窄度の相関係数は0.84と良好であった(セグメントベースで診断能はAUC 0.96,感度90%,特異度91%).
●3.0T冠動脈MRAの診断能
3.0T MRIでは1.5T MRIと比べ信号対雑音比が優れているため,冠動脈MRA画像の画質が向上する.ただし,3.0T MRIでは静磁場の不均一性やラジオ波照射による加温などにより1.5T MRIで用いられているSSFP法では良好な冠動脈MRA画像が得られないため,gradient echo(GRE)法が用いられる.GRE法による3.0T冠動脈MRAでは,非造影で撮影すると冠動脈のコントラストが不十分であるものの,ガドリニウム造影剤投与によって血液のコントラストが大幅に向上する.そのため3.0T冠動脈MRAでは,造影剤を使用したGRE法で撮影を行うことが一般的である.造影剤の持続静注中に冠動脈MRAを撮影する方法を用いて行われた研究では,3.0T冠動脈MRAは感度94%,特異度82%と冠動脈狭窄病変の高い検出能を有すると報告されている6).しかし,そのようなアプローチは撮影プロトコールが複雑で臨床利用しにくいため,わが国では一般的に包括的心臓MRI検査の一部として遅延造影MRI終了後の造影平衡相に冠動脈MRAが撮影されている.この方法では,T2-prepと選択的脂肪抑制プレパルス(SPIR)を併用して,静脈や脂肪の信号を抑制し冠動脈のコントラストを増加させることにより,良好な画質の冠動脈MRA画像が得られる(図9).メタ解析によると3.0T冠動脈MRAは感度93%,特異度83%を有すると報告されている4).
●冠動脈MRAの撮影時間を短縮するための試み
冠動脈MRAの問題点として撮影時間が長いことが挙げられ,時間短縮のためにいくつかの試みがなされている.32チャンネルコイルおよびセンスファクター4を用いた1.5T冠動脈MRAでは,5チャンネルコイルおよびセンスファクター2を用いた場合と比べて平均検査時間が約12分から約6分に短縮された(p=0.005).また,32チャンネルコイルと5チャンネルコイルの両者で検査成功率が100%で画質スコアは同等であり,32チャンネルコイルでは冠動脈狭窄診断の感度は85%,特異度は96%であった7).1心拍内のデータ収集時間も32チャンネルコイルを用いることによって短縮され,高心拍症例においてもブレの少ない良好な画像が得られることが示されている.
近年,冠動脈MRAの撮影時間短縮のために圧縮センシングが利用されるようになっている.遅延造影MRIの待ち時間中に圧縮センシングを用いた3.0T冠動脈造影MRAを行い,遅延造影後に従来法で撮影した冠動脈MRAと比較した最近の研究によると,遅延造影MRIの待ち時間に行った冠動脈MRAはすべての症例で撮影が良好であり8),そのうえ,圧縮センシングを用いた冠動脈造影MRA(平均撮影時間3分27秒)は従来法での冠動脈MRA(平均撮影時間13分5秒)と比較して,画質を維持したままスキャン時間を大幅に短縮することができた.
●冠動脈MRAの予後予測における有用性
冠動脈MRAの予後予測に関する有用性について,いくつかの報告がなされている.Yoonら9) の研究では,1.5Tの冠動脈MRAを受けた冠動脈疾患の疑いのある患者207人の予後が追跡され,観察期間の中央値は25か月であった.その結果,冠動脈MRAにおける有意狭窄の存在は,主要心血管イベント(心臓死,心筋梗塞,不安定狭心症,晩期の再灌流療法)と強く関連していることがわかった.年間心血管イベント発生率は,有意狭窄のある患者では6.3%,有意狭窄のない患者では0.3%であった.これは冠動脈MRAで有意狭窄がない場合,心血管イベントのリスクが非常に低いことを示している.
Nakamuraら10) の研究では,心筋梗塞の既往や冠動脈再灌流の既往のない患者506人において,1.5Tあるいは3.0Tの冠動脈MRAの長期予後への影響が調べられた.冠動脈MRAは長期観察期間(中央値5.6年)においても主要心血管イベント(心臓死,心筋梗塞,不安定狭心症)および心臓死のリスクと関連し,従来の冠動脈危険因子と比べ予後予測能が向上すると示された.また,冠動脈MRAによって検出された冠動脈狭窄の罹患枝数は予後不良と関連し,年間心血管イベント発生率は三枝病変で3.6%,二枝病変で2.3%,一枝病変で1.5%であった.長期観察期間においても,冠動脈MRAで有意狭窄が検出されない患者では年間心血管イベント発生率は0.6%と予後良好であった点は重要である.また1.5Tあるいは3.0Tそれぞれのサブグループで解析した場合でも,冠動脈MRAは予後層別化に有用であることがわかっている.
●冠動脈造影CTとの比較:診断能,予後予測能
冠動脈MRAを冠動脈造影CTと比較した研究は限られている.Hamdanら11) は3T冠動脈MRAと64列マルチスライス冠動脈造影CTの診断能を比較し,侵襲的冠動脈造影検査を予定している患者において同等の診断精度で冠動脈の有意狭窄を同定することができることを示した.診断能は冠動脈MRAでAUC 0.78,感度87%,特異度77%,冠動脈造影CTでAUC 0.82,感度90%,特異度83%であった.左冠動脈主幹部(left main trunk;LMT)あるいは三枝病変の症例では,冠動脈MRAと冠動脈造影CTのいずれにおいても正確に冠動脈狭窄が同定された.
また,Hamdanら12) は冠動脈MRAと冠動脈造影CTを受けた患者の予後を比較し,検査陰性に対する検査陽性のハザード比は冠動脈MRAで3.17,冠動脈造影CTで4.69であることも示している.冠動脈MRAと冠動脈造影CTの間で無イベント生存率に有意差はみられなかった(p=0.97).心血管イベント予測に関する能力に関して,冠動脈MRAはAUC 0.64,冠動脈造影CTはAUC 0.70であった.
文献
1)日本循環器学会,他:慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版).
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/10/JCS2018_yamagishi_tamaki.pdf
2)Sakuma H, et al:Detection of coronary artery stenosis with whole-heart coronary magnetic resonance angiography. J Am Coll Cardiol 48:1946-1950, 2006
3)Kato S, et al:Assessment of coronary artery disease using magnetic resonance coronary angiography:a national multicenter trial. J Am Coll Cardiol 56:983-991, 2010
4)Di Leo G, et al:Diagnostic accuracy of magnetic resonance angiography for detection of coronary artery disease:a systematic review and meta-analysis. Eur Radiol 26:3706-3718, 2016
5)Yonezawa M, et al:Quantitative analysis of 1.5-T whole-heart coronary MR angiograms obtained with 32-channel cardiac coils:a comparison with conventional quantitative coronary angiography. Radiology 271:356-364, 2014
6)Yang Q, et al:Contrast-enhanced whole-heart coronary magnetic resonance angiography at 3.0-T:a comparative study with X-ray angiography in a single center. J Am Coll Cardiol 54:69-76, 2009
7)Nagata M, et al:Diagnostic accuracy of 1.5-T unenhanced whole-heart coronary MR angiography performed with 32-channel cardiac coils:initial single-center experience. Radiology 259:384-392, 2011
8)Hirai K, et al:Feasibility of contrast-enhanced coronary artery magnetic resonance angiography using compressed sensing. J Cardiovasc Magn Reson 22:1-10, 2020
9)Yoon YE, et al:Prognostic value of coronary magnetic resonance angiography for prediction of cardiac events in patients with suspected coronary artery disease. J Am Coll Cardiol 60:2316-2322, 2012
10)Nakamura S, et al:Long-term prognostic value of whole-heart coronary magnetic resonance angiography. J Cardiovasc Magn Reson 23:1-9, 2021
11)Hamdan A, et al:A prospective study for comparison of MR and CT imaging for detection of coronary artery stenosis. JACC Cardiovasc Imaging 4:50-61, 2011
12)Hamdan A, et al:Comparison of coronary magnetic resonance and computed tomography angiography for prediction of cardiovascular events. JACC Cardiovasc Imaging 7:1063-1065, 2014
心臓疾患のCTとMRI 第2版
心臓疾患の画像診断の決定版となるテキスト
<内容紹介>画像解剖から、CT・MRIの撮影法、各疾患への適応とプロトコール、診断までを網羅した心臓の画像診断の決定版となるテキストの改訂版。この間のモダリティの進化を踏まえて、掲載画像と記載内容を全面的に刷新した。心臓疾患の臨床に携わるすべての循環器科医、放射線科医、診療放射線技師にとって必読の1冊。
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