医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2024.04.09 医学界新聞:第3560号より

 おかげさまで,本連載が始まってからあと少しで2年が経過しようとしています。これまで心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)に関連する話題を2回取り上げましたが,その間にもガイドラインは次々と更新されました1, 2)

 今回は,変わらぬ重要ポイント,陥りやすいピットフォール,そして今後スタンダードになり得る内容を総まとめします。ぴっかぴかの研修医1年目から心停止に直面する可能性のある全医療従事者にとって,必読の内容です!

 CPRにおいて最も重要なのは「質の高い胸骨圧迫」です。心停止を認識し,胸骨圧迫を開始するのには勇気が要りますが,心配は無用! 心停止していない患者にCPRを行うことに伴うリスクは心停止患者にCPRを行わない場合よりもはるかに低いという原則を覚えておきましょう3)。十分な脈拍が触知できない場合,無反応で呼吸がないか,異常な呼吸(死戦期呼吸)を呈する場合には心停止と判断して直ちに胸骨圧迫を始めます。

 さて,CPRにおける胸骨圧迫の重要ポイントを確認しましょう。

● 胸骨中央に圧迫者の体重がかかるようにする。
● 1回の圧迫で5~6 cmの深さまで圧迫する。
● 圧迫と圧迫の間には胸部を完全に元に戻す。
● 1分間の胸骨圧迫回数は100~120回を目標にする。
● 患者の下に硬い板を置く。
胸骨圧迫を中断する頻度と時間を最小限にする

 「胸骨圧迫の中断時間を最小限にする」ことは実際には難しいものの,救命を行う上では極めて重要性が高い項目です。これまでのCPRは,救命率を高めるために胸骨圧迫の中断時間を最小限にすることに焦点を当ててきました。現場での工夫を確認しましょう。

◆胸骨圧迫中断時間を最小限にする工夫①:パルスチェックをしない

 CPRを行う際,2分ごとのサイクルでリズムチェックをすることが一般的です。これは除細動を行うべきかどうかを判断するため,すなわち除細動が可能な波形(shockable rhythm)の存在を確認するために不可欠です。

 しかし,この段階においてルーチンでパルスチェック(頸動脈を触知できるかどうか判断する行為)を行う必要はありません。皆さんも「本当に脈拍を感じているのだろうか?」と迷った経験があるかもしれませんが,そうした迷いに時間を費やすことは無益どころか有害です。実際,パルスチェックの正確性は約80%,脈拍の有無を判断するのに約20秒かかるとする研究結果もあります。さらに,心停止状態であるにもかかわらず「脈拍あり」と誤診したケースが14%も報告されており4),これは致命的な転帰につながる可能性があります。パルスチェックをルーチンに行うことから卒業しましょう!

◆胸骨圧迫中断時間を最小限にする工夫②:パルスチェックに超音波を使う

 2分ごとのリズムチェックでshockable rhythm以外の波形が検出された場合,パルスチェックが必要になります。しかし前述の通り,パルスチェックは正確性に欠ける上,胸骨圧迫の中断時間を延長する原因ともなり得ます。この問題を解決するために超音波を用いたパルスチェックを試してみましょう! 従来の方法と比較して時間を半分に短縮できるだけでなく,操作も簡単です。プローブを頸動脈に当てておくだけです。

 頸動脈が圧迫されてつぶれる場合はROSC(return of spontaneous circulation)には至っていないと判断できます逆に,頸動脈がつぶれないか拍動がある場合はROSCと判断できます。この方法は胸骨圧迫中にも使用でき,頸動脈がつぶれていなければ次のリズムチェックでROSCが期待できる可能性があります5)。ROSC後の対応も迅速に行えるため非常にオススメです。

◆胸骨圧迫中断時間を最小限にする工夫③:挿管にこだわらない

 CPR中に気管挿管を行うことには潜在的に大きなメリットがあり,酸素化や換気の改善,BMV(bag mask ventilation)による胃内容物の誤嚥防止,非同期換気による胸骨圧迫の中断時間短縮などが挙げられます。一方で,気管挿管施行中の胸骨圧迫の中断時間の延長,食道挿管などのリスクも伴います。実際には,CPR中に積極的に高度な気道確保を行うことがBMVを上回るほどの利点を持つことは示されていません6)

 結論としては,医療従事者は自身の経験値と現場の状況に応じて対応を変えて良いと筆者は考えています。技術があり迅速に挿管できる状況であれば気管挿管を選択するのが良いでしょう。そうでない場合にはBMVのみで「逃げて」しまうのも蘇生率を高めるための重要な判断となります。気管挿管に固執して時間を費やすことで,胸骨圧迫の質が低下したり原因の特定と介入が遅れたりすることがあれば本末転倒。このような悪循環に陥るケースは珍しくないため注意が必要です。時には,引き算の発想をしたりシンプルなアプローチをめざしたりすることも重要ですね。

◆胸骨圧迫中断時間を最小限にする工夫④:除細動器のpre-chargingをしておく

 リズムチェックの直前,具体的には1分50秒ほどの時点で,除細動器を事前に充電しておく(pre-charging)ことをお勧めします。これによりshockable rhythmが確認された場合,直ちに除細動を実施でき,効率的に処理することが可能です。Pre-chargingを行うことで,除細動前後の胸骨圧迫の中断時間を約5秒短縮でき,ROSC率が向上することが報告されています7)。なお,除細動直後に効果判定としてリズムチェックをしたい気持ちはよくわかりますが,避けるべきです。直ちに胸骨圧迫を再開し,次の2分間を待つようにしてください。

◆アドレナリンの投与タイミング

 アドレナリンは初期波形にかかわらず投与が推奨される薬剤です。Non-shockable rhythmの場合にはできるだけ早い投与が望ましいですが,shockable rhythmのときは投与タイミングに注意が必要。「初回の除細動が成功しなかったあと」にアドレナリンを投与します。つまり,2回の除細動後がアドレナリンを投与する適切なタイミングとなることを意味します(初回除細動→2分後のリズムチェック→shockable rhythmなら除細動をしてからアドレナリン投与)。特に院内心停止の場合,環境が整っているためアドレナリンを即座に投与することが可能ですが,この点には注意が必要です。初回除細動から2分以内にアドレナリンを投与すると,ROSC率や生存退院率,良好な神経学的転帰を伴う生存率が低下する可能性があると報告されています8)

◆院内心停止に対するVSE療法

 VSE(vasopressin-steroids-epinephrine)は,CPRサイクルごとにアドレナリン1 mgに加えバソプレシン20 IUを投与,初回CPRサイクルではメチルプレドニゾロン40 mgを投与する方法を指します。院内心停止に対して使用することでROSC率が高まることが報告されていますので9),もし事前準備できる環境であれば使用を検討してみてもいいかもしれません。

◆除細動器を2台使うDSED戦略

 難治性心室細動は,3回連続で除細動に反応がないことで定義されます。この状況に対処するために,2組のパッドと除細動器を連続して使用する方法であるDSED(double-sequential defibrillation)戦略があります。これは本連載第8回(第3500号)でも紹介しました。

 2台の除細動器を使用し,可能な限り同時にショックボタンを押しましょう。除細動器が故障する可能性を心配されるかもしれませんが,ショックボタンを同時に押すことによる故障率は約0.1%と非常に低いです10)。これなら一般的に許容される範囲内と考えられます。院内での準備や事前の練習が必要になるので,緊急時にこの方法を成功させるためにチームトレーニングをしておきましょう。


1)Circulation. 2023[PMID:37942682]
2)Circulation. 2024[PMID:38108133]
3)Circulation. 2020[PMID:33081529]
4)Resuscitation. 2010[PMID:20227813]
5)Resuscitation. 2022[PMID:35792305]
6)Acad Emerg Med. 2022[PMID:35064725]
7)Resuscitation. 2021[PMID:34627866]
8)BMJ. 2016[PMID:27053638]
9)Am J Cardiovasc Drugs. 2022[PMID:35314927]
10)Resuscitation. 2024[PMID:38092182]

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