ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第24回] 尿管結石の疼痛管理から学ぶ! ERにおける鎮痛のためのヒント集
連載 徳竹雅之
2024.05.14 医学界新聞(通常号):第3561号より
私自身が尿管結石の疼痛に悩まされたことがありますし,救急医としても患者さんが激しい痛みを訴える姿を数えきれないほど見てきました。連載最終回である今回は,尿管結石による腎疝痛への対応方法を通じて,ERでの鎮痛のポイントをシェアしたいと思います。鎮痛薬は,使わない日がないくらい一般的なため,あまり勉強したことがなく上級医に言われるがまま「一子相伝」の伝統的な方法に従って使用している方もいるかもしれません。日常診療では医師の興味は確定診断することに向かいがちですが,目の前の患者さんの声に耳を傾けて,副作用を最小限に抑えた迅速かつ効果的な鎮痛が行えるようにしていきましょう。
痛みの根源を知る
まず,尿管結石がなぜそんなに痛いのかを理解することが重要です。結石が尿の流れを阻害することで尿管が伸展されプロスタグランジンの放出が促されます。これにより血管拡張や利尿が誘発されることで腎内圧が上昇し,結果的に疼痛が引き起こされるとされています。
なお,尿の産生は日中に上昇し夜間に低下するという概日リズムがあります。夜間に尿が濃縮される結果として尿管結石が生じることが多いと考えられています。面白いことに,尿管結石による疼痛を発症するピーク時間は朝の4時32分とされています1)。朝方に腰を押さえてやってくる患者は尿管結石かも!?(重要な疾患を見逃さないよう注意!)
痛みのマネジメントの基本multimodal approachの実践
痛みのマネジメントには,1種類の薬物療法だけでなく,異なる作用機序を持つ鎮痛薬を組み合わせたり,非薬理学的手法や局所麻酔などを併用したりするmultimodal approachが推奨されます。効果を最大限,副作用を最小限とするための手法です。患者さんの状況に合わせて最適な方法を組み合わせて選択しましょう(表)。

◆NSAIDs
尿管結石の疼痛管理における第1選択薬はNSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)です。オピオイドをはじめとした他の薬剤と比較して少なくとも同等の効果があり,有害事象発生率(特に嘔気や嘔吐)が低いことが特徴です。NSAIDsはCOX-1およびCOX-2を阻害することによりプロスタグランジンの産生を抑え,尿管平滑筋を緩めることで鎮痛作用がを発揮します。36件のRCT,4887人を対象とした2018年のメタ解析では,NSAIDsはアセトアミノフェンやオピオイドと比較して,30分時点での疼痛軽減に効果的であり,追加の鎮痛薬を必要とする割合も少なかったと報告されています2)。
投与経路も考慮する必要があります。静脈内投与は迅速に鎮痛効果を発揮しますが,有害事象のリスクが少し高まります(その上,日本の添付文書では尿管結石への静脈内投与は適応がありません)。一方,直腸投与は経口投与が困難な場合の良い選択肢で,尿管結石の際には嘔気・嘔吐を伴うことが多いためリーズナブルな選択肢になるでしょう。筋注も◎です。オピオイドやアセトアミノフェン点滴静注と比較して迅速かつ十分な鎮痛が期待できます3)。
しかし,NSAIDsは万人向けではないのが注意点です。特に消化器(消化性潰瘍),心血管(心筋梗塞,心不全など),腎臓(急性腎障害)への影響が致命的にならないか,立ち止まって考えなければなりません。消化性潰瘍はNSAIDs使用から最短7日間で発症することがあり,短期間での使用を心がける必要があります。消化性潰瘍リスクがある場合(消化性潰瘍既往,高齢者,抗凝固薬やステロイドの常用者)には,COX-2阻害薬であるセレコキシブを選択しましょう。心臓への影響も重大で,こちらもNSAIDs投与から1週間程度で心筋梗塞リスクが上昇します。いずれのNSAIDsを使用しても急性心筋梗塞への進展リスクは変わらないようですが,機序から考えてCOX-2阻害薬は少し旗色が悪く使用しづらい印象を持っています。冠動脈疾患をはじめとする心血管疾患のリスクが高い患者には処方を避けたほうが賢明です。また,高齢者+ACE阻害薬常用者では特に急性腎障害のリスクがあります。既存の腎障害がある場合や脱水がある場合にも避けたほうがいいでしょう。イブプロフェンは比較的腎...
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