ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第21回] 一触即発! 興奮する患者との上手な付き合い方を伝授!
連載 徳竹雅之
2024.02.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3553号より
忘年会や新年会シーズンの医療現場では,さまざまな困難に直面されたことと思います。特に,興奮した状態で来院した患者にどう対応するかは,緊急性がありかつチャレンジングな課題です。今回は,そんな困難に立ち向かうためのちょっとしたコツを紹介します。
暴言・暴力への対応は安全第一!ディエスカレーションが鍵
まず覚えておくべきは,安全が最優先だということです。患者が大声を出したり暴力的になったりしたらどうしますか? 1人で対応しようとせず,人を集めて対応しましょう。警備員へ連絡する(当院では夜間常駐の警備員の他に,ERの至るところに警備会社へ直通連絡できるボタンが設置されています),院内コール(コードホワイト)をかける,警察に通報するなど状況に合わせて介入を検討しましょう。肝は,「怖い!」と感じたら躊躇せずに(患者への承諾は不要!)上記対応をすることです。介入が遅れると,興奮がエスカレートして暴力に及んだ場合に甚大な被害を負うことになりかねません。
そうした対応を取った上で,ディエスカレーションを行って患者を落ち着かせることが必要です。これは,言葉や非言語的コミュニケーションを使って患者の怒りや衝動を和らげる技術です。ディエスカレーションのテクニックとして米国精神科救急医学会は表の10項目を推奨しています1)。
他にSAVEというテクニックもあります。サポートする(Support):一緒に考えましょう,認める(Acknowledge):あなたにとってつらいことだったのですね,検証する(Validate):私があなたの立場だったらおそらく同じように反応するでしょう,感情に名前を付ける(Emotion naming):怒っているのですね,といった声掛けならできそうです。普段の診療から心がけておいても損はないでしょう。
それでもだめなら――最終手段の拘束?
拘束は,身体拘束と薬物的拘束に分類されます。いずれの拘束手段においても患者の権利を脅かす行為であることに留意し,可能な限り回避または最小限にする配慮を忘れないようにしましょう。身体拘束に加えて薬物的拘束を行った医師が患者に訴えられ,介入が必要最小限ではなかったとして敗訴した判例もあります2)。患者の興奮や攻撃性が強いために自傷他害の恐れがあること,(特に患者にとって)安全な医療介入のために拘束を要することをチームで協議したという旨をカルテに記載し,自分を守りましょう。
そして,拘束は必要最小限に,同時ではなく段階的に行い,不要となった段階で即座に解除する必要があります。身体拘束は窒息,鈍的外傷,突然死などと関連し,薬物的抑制は呼吸抑制や不整脈などのリスクとなることが知られています。
◆身体拘束の詳細
身体拘束は,患者が自傷他害のリスクが高い場合に限り,最後の手段として考慮されます。この方法は以下の手順で行われます3)。
①チームの準備:最低5人のスタッフが必要です。頭部と各大関節をそれぞれ1人が押さえます。
②力の適正な使用:患者に過剰な力を加えないよう注意し,外傷や呼吸抑制を防ぎます。
③拘束位置の調整
④追加措置:下肢の運動が強い場合には足首を交差させて拘束することを検討します。また,患者が噛みついたり唾を吐きかけたりなどの行動を取る場合は,酸素マスクを装着します。手袋をしたまま口元をふさぐと窒息のリスクになるので注意しましょう。
◆薬物的拘束のコツ
薬物的拘束は,患者の興奮や攻撃性を抑制するために薬剤を投与する方法です。興奮していることを自覚して内服薬を飲んでくれる患者も中にはいますが,それ以外の場合には薬剤投与は原則として静注ではなく筋注で行います。暴れる患者のルート確保は針刺し事故のもと! 米国救急医学会の声明では以下のように推奨されています4)。
● 効果とその迅速さからドロペリドール5 mg筋注+ミダゾラム5 mg筋注の併用を推奨する。
● ドロペリドールが使用できない状況では,オランザピンや他の抗精神病薬の併用が代替手段となる。
● 非定型抗精神病薬,特にオランザピンはハロペリドールなどの従来の抗精神病薬よりも良好な効果がある。
● ベンゾジアゼピン系薬剤として,ミダゾラムはロラゼパムより効果発現が早く推奨される。
● 単剤使用の際にはミダゾラムより抗精神病薬の使用を推奨する。
日本の添付文書では,外来でのドロペリドール使用は禁忌と記載があります。そのため国内で最大効果を発揮する薬物的拘束は,オランザピン5 mg+ミダゾラム5 mg筋注となりそうです。薬剤準備までのスピードや手軽さなどから,筆者はミダゾラム5~10 mg筋注を第一選択にすることが多いです。声明によればベンゾジアゼピン系薬剤を単独で使用すると薬剤の追加投与の必要性や呼吸抑制の発生率が高くなることから,単剤使用の場合は抗精神病薬を投与することが推奨されています。解説はしましたが,結局は使い慣れた(もしくは病院ごとに定めた)薬剤を使用するのが良いと思いますので,柔軟に対応してください。呼吸抑制や不整脈といった副作用があるため,必ずモニタリングを密に行いましょう。
*
興奮する患者への診療は,患者と医療従事者の安全を確保するために上記のように手の込んだステップを踏まなければなりません。鎮静化できたら終わりではなく,そこから器質的疾患(主に“意識障害”としての鑑別を進めていくことになります)がないかを検索し,必要に応じて治療を行わなければならないことも忘れてはいけません。
今回の勘どころ
✓ 「怖い!」と感じたら躊躇せずにその場を離れ,人を集めよう。
✓ ディエスカレーションのテクニックを身につけよう。
✓ 必要最小限かつ段階的な拘束を心がけよう。
✓ 身体拘束は頭と四肢に1人ずつ必要になる。
✓ 薬物的拘束は原則筋注! いざというときに備えてシミュレーションしておこう(勤務している病院のプロトコルも確認しておこう)。
参考文献・URL
1)West J Emerg Med. 2012[PMID:22461917]
2)蒔田覚.暴れる精神障害患者に鎮静剤投与は違法.日経メディカル.2012.
3)J Am Coll Emerg Physicians Open. 2020[PMID:33145538]
4)Ann Emerg Med. 2024[PMID:38105109]
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