医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2024.01.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3548号より

 寒さがいよいよ厳しい季節となりました。低体温症の患者さんの救急搬入も増えてきたことでしょう。低体温症とは体温が35℃以下に低下した状態を指しますが,背後にさまざまな緊急事態が隠れていたり,治療に特別な配慮が必要だったりと,少し戸惑うことが多い領域だと思います。評価・治療のポイントを押さえて,一緒にこのさむ~い世界を暖かく照らしていきましょう。

 患者の体表に触れて冷たいと感じた時,または寒冷環境へ曝露した病歴があれば,深部体温を測定して重症度評価を行いましょう。外来での評価ではよく使うデバイスを用いればOKです。一般的には,手軽さから膀胱温計や直腸温計が頻用されると思います。治療方法は重症度に応じて異なるため,低体温であることを認識した際は,重症度を把握することが重要です。

 また,心停止のリスクに注意しましょう。心停止のリスクが高まる体温は,健康な成人で30℃未満,高齢者や合併症のある患者では32℃未満です1)

 低体温症は重篤な背景疾患による徴候が垣間見えているだけ,まさに「氷山の一角」かもしれません。治療と同時に原因検索を行いましょう。偶発性低体温症は,寒冷環境にさらされることによって引き起こされる一次性低体温症と,他の病態によって引き起こされる二次性低体温症に分類されます。二次性低体温症の原因はさまざまですが,ERにおいては1にも2にも3にも敗血症! 白血球数を見てから……なんてまかり通りません。低体温症では感染症があったとしても白血球数が低値~正常範囲内になることが多いです。にあるような重症度分類と生命徴候の間に差異がある場合には,特に敗血症合併の可能性が高いかも。個人的には各種培養採取と抗菌薬投与の閾値は低めに設定しています。

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 重症度ごとの症状と復温方法

 敗血症より頻度は低くなりますが,脳血管疾患や甲状腺機能低下症/副腎不全/高血糖緊急症や低血糖,外傷などの重篤な疾患が隠れていることもあるので要注意2)。雪が降る弘前,飲み屋街で酔っ払ったあとに暖を取ろうとしたのか自動販売機の隙間から発見された中年男性に急性硬膜下血腫と著明な横紋筋融解症を認めた,なんてこともありました。二次性低体温症は高齢者や複数の合併症を持つ患者でよくみられる現象として認識されており,日本は世界に先駆けた高齢社会であることから世界的に注目を浴びています3)。低体温を見たら「冷えてるだけ」で終わらせてはいけません。

 低体温症の治療は「温める」ことが中心ですが,その方法は患者の重症度によって異なります(表)。復温方法は受動的復温(外因性に熱を与えずに患者自身が体温を上昇させる)と能動的復温(外因性の熱を与える)に大別され,後者はさらに体外復温と体内復温に分類されます。軽症であれば濡れた衣服を脱がし,部屋を暖め,温かい飲み物を飲んでもらう程度の受動的復温でよいですが,中等症にもなるとより積極的な能動的体外復温を要します。当院では,ベアーハガーなどの装置による温風を循環させる方法に電気毛布を組み合わせて使用しています。また,40~44℃に温めた輸液を使用することで体温のさらなる低下を防ぐことや,後述のafterdropへの備えを考えてもよいでしょう(輸液だけで体温が上昇することはほとんどありません)。生食またはリンゲル液500 mLをレンジで温める場合には,500 Wで1分40秒チンすると約44℃の輸液を作成できます。大部分の症例はここまでで事足りることが多いです。

 重症低体温症や心停止を伴う場合は,さらに積極的な能動的体内復温が必要になります。不整脈を誘発する恐れがあるためなるべく急激な動きをさせないように細心の注意を払いながら,ECMOを含めた治療ができる施設に搬送しましょう。日本で行われた多施設前向き観察研究であるICE-CRASH試験では,低体温症で心停止した患者において,ECMOによる治療はそれ以外の治療と比較して生存率や良好な神経学的転帰を有意に増やす結果が報告されています4)。この試験では,来院時に循環があった患者を対象とするとECMOが他の治療と比較して有効であるという結果は得られませんでしたが,治療中に心停止になった場合でも心拍再開(ROSC)を超えて循環や呼吸のサポートができるという優位性があるため,VA-ECMOは重症度の高い患者群には有効な治療である可能性が高いと考えています。

 低体温患者が,救出または搬送中に心停止となることをrescue collapseと言い,これを避けることが非常に重要です。やりがちなミスとして,患者に突然の刺激を与えること(乱暴に扱うことは避けなければなりませんが,時にはベッド移乗などのちょっとした動きであっても)によって心停止が起こり得ることは認識しておいたほうがよいでしょう5)。また,中心静脈カテーテルで心室性不整脈が誘発されることがあるので,ガイドワイヤーが心室内に入らないように細心の注意を払う必要がありますし,その他の侵襲的処置についても愛護的に行うことが要求されます6)。さらに,加温を始めるとrewarming shockにより血圧が低下します。加温によりそれまで過剰に収縮していた血管が拡張することや,そもそも低体温では寒冷刺激による利尿作用で血管内脱水となっていることなどが関与しているとされます。加温した輸液を必要量投与することに加え,必要であれば(時に高用量の)血管収縮薬投与を要します。

 Afterdropにも言及しておきます。加温が開始されたあとに末梢から中枢へ低温の血液が流入することによってさらに冷却が進行してしまう現象です。Afterdropの臨床的意義については議論がありますが,少なくとも四肢を過度に動かしてしまうと中枢への血液の戻りが多くなりafterdropが進行するという理論が存在するため,この観点からも急激な動きをさせないよう意識しなければなりません

 重症低体温(30℃未満)による心停止の管理についても触れておきましょう。この状況では,一般的な心肺蘇生(CPR)とは異なるアプローチが求められることがあります。AHA(アメリカ心臓協会)とERC(欧州蘇生協議会)のガイドライン1, 7)では,胸骨圧迫と人工呼吸の手順は低体温以外の心停止へのCPRの手順と一致しています(胸骨圧迫により不整脈が誘発されるリスクはありますが,胸骨圧迫のメリットはこのリスクを常に上回ります)が,除細動と薬剤の使用に関しては異なるアプローチが必要になり得ます。AHAでは,除細動・アドレナリン投与ともに一般的なCPRと同様の方法を推奨しています。一方,ERCは,除細動・アドレナリン投与ともに体温が30℃以上になるまで控えることを推奨しています。個人的にはAHA派です。だって,緊急の現場ではシンプルに考えたいんですもん……。




1)Resuscitation. 2021[PMID:33773826]
2)Acute Med Surg. 2021[PMID:34567577]
3)Emerg Med J. 2018[PMID:29886414]
4)Resuscitation. 2023[PMID:36509361]
5)Resuscitation. 2021[PMID:33930504]
6)Resuscitation. 2019[PMID:30771451]
7)Circulation. 2020[PMID:33081529]

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