医学界新聞

書評

2024.01.22 週刊医学界新聞(看護号):第3550号より

《評者》 横市大大学院看護学

 このたび本書の第2版が出版されることを発行前に知り,どのような内容になるのかと待ち遠しく,書籍が届いた後は,やはり初版と同じように,すぐに下線や丸印,付箋ばかりになりました。私が付箋を貼ったり下線を引いたりする部分は,①これまでの自身の臨床経験の中で患者や家族に役立ちそうだが半信半疑で実践しているケアについて,最新の研究結果を納得できるよう紹介している部分です。「こんな研究がなされているんだ,テーマに新規性があり,しかも最新データが載っている」という感じで,臨床実践と研究結果がマッチしているところが面白いです。そして,②引用文献に加えられた森田達也先生のコメントです。短い文章で研究内容を紹介していることも勉強になるのですが,時折「〇〇が話題になった古典です」「△△を明確にした~~っぽい」などのカジュアルなコメントに親近感があり,気に入っています。さらに③各章の見出しの部分(エビデンスの要所,臨床でのボトムライン,今後追加されるエビデンス)は多くの臨床現場での状況を映し出しており,私たちの病院の実践の目標値にもなり,安心します。

 第2版では,初版で紹介されている内容も共有されています。例えば,最期のお別れの場面に間に合うか・間に合わないかと,遺族の抑うつとの関連についての研究が紹介されています。看護師として,私は最期の旅立ちに間に合うようにご家族の身体的な疲労を考慮して,あまり早く連絡をし過ぎず,息を引き取る瞬間に間に合うタイミングを見計らって連絡することを心掛けていますが,連絡が間に合わずに先に旅立たれることがあります。間に合わなかった家族に対して,看護師としての判断への自責の念が大きく,責任を感じることが多いのですが,本書には間に合うことが重要なのではなく,お別れが言えているかどうかが,家族の抑うつや悲嘆に影響することが示されています。私たち看護師は,この研究結果にどれだけ救われていることでしょうか。この10年で看護師のグリーフケアの重要性が言われていますが,看護師は最善のケアをしたつもりでも,患者のケアに後悔したり,振り返ったりするたびに「もっと違う方法があったのではないか」と考えることがあります。その意味でも,本書は看護師のグリーフケアに役立つ書籍だと思います。

 本書著者の森田先生より今回の書評執筆のお話を頂いた際には,「林さんのこの領域に関する思いみたいなものも記載してほしい」とのご依頼でしたが,看護師としての私は,緩和ケアは「ケアリングや愛」なのではないかと思うときがあります。このようなことを文字で記載するのは少々気恥ずかしいのですが,緩和ケアは病気は治せないものの,少しでも目に見えない「幸せ」を感じていただけるように,ケアリングを通じて「愛」を注ぐことではないかと思います。ケアリングや「愛」の表現・形はいろいろですが,身体症状緩和に対しては薬物療法や神経ブロック,日常生活の場面における看護師のちょっとした所作が大きいのではないかと考えています。例えば,優しくにっこりした声の掛け方,掛け布団の扱い方でも丁寧で身体に優しく掛ける動作,飲水用の飲み物は患者さんの嚥下えんげや腕の力に応じた容器をセットすること,そっとドアを開閉することなど,いろいろな形があります。温かさや愛が重要だと思います。

 また本書では,第3章の「望ましい看取り方についてのエビデンス」において看護師の看護実践となる入浴の項目が取り上げられており,「終末期の入浴は患者の倦怠感を緩和し,生命予後には影響しないようである」と記載されています。日ごろ,看護師は,ご自身で湯につかる入浴ができない終末期のがん患者さんが,入浴後にリラックスして休養している姿を見て実践しようとしたり,清潔感や快刺激によるがん患者さんの幸せを願い愛護的にケアしたりしています。このように本書では,臨床で実際に経験していることが研究結果として紹介されており,本書を通じて臨床実践とエビデンスがマッチするため,日ごろの実践に役立つことは間違いないです。

 森田先生,白土明美先生がこの素晴らしいバイブルとなる書籍を執筆くださったことに,改めて感謝の思いでいっぱいです。


《評者》 日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程課程長

 著者は本書のメインターゲットを「医療関連感染の予防と制御(IPC)にかかわる初学者」に想定しているようだが,中堅からベテランが日々活動する中でも大いに助けとなる内容になっている。

 本書はIPCの基本となる8つの章,すなわち,①標準予防策,②感染経路別予防策,③医療器具関連感染予防,④職業感染予防,⑤洗浄・消毒・滅菌,⑥医療環境管理,⑦サーベイランス,⑧新興感染症のパンデミックに分類され,各章は質問と回答で構成されている。60の質問(Question)はどれも院内でよく聞かれるシンプルなものだが,これに対する著者の回答(Answer)がとにかく勉強になる。回答は国内外の多数の文献を参考に,さらに理論編と実践編に分かれている。

 理論編は質問に関する基礎知識であり,初学者であればここでエビデンスに基づいた体系的知識を学ぶことができる。実践編では臨床におけるその知識の活用の仕方を紹介しているため,IPC領域のベテランでも具体的な活動に役立てることができる。

 例えば,第1章「標準予防策」にはQ02「手指衛生はいつ行うのですか?」という質問がある。この回答の理論編では,WHO版手指衛生の5つのタイミングとカナダ版手指衛生の4つのタイミングを説明している(本文p7,8)。どちらを使っても良いのだが,比べてみると,カナダ版のほうが患者と患者環境を一つにとらえた考え方をしていてシンプルでわかりやすい。「もしかするとスタッフが手指衛生のタイミングを理解するのにはカナダ版のほうが良いかもしれない……」と考えたりする。

 回答の実践編では,日常的に行う作業中の手指衛生の適応場面とタイミングをつなげるための「つなげる練習」が紹介されている。院内研修でさまざまな想定場面について,「手指衛生の適応場面とタイミングの『つなげる練習』をしたら盛り上がるだろう」と想像が膨らむ。こうした理論編と実践編という構成が,単に知識を得るだけにとどまらず,実際の状況に対応するための活動をイメージさせてくれる。

 このように示唆に富む質問と回答が60もあるのだから,読者諸氏が所属する施設でもIPCの問題解決のヒントになることは間違いない。読者は最初から読むのも良し,自分が気になる問題を探して読むのも良し。本書を通じて,問題解決の糸口を得ることができるだろう。

 著者は本書の中で,職員の「腑に落ちる」ことの重要性を伝えている。大人は現実的で自身の仕事や生活に役立ち,重要だと感じる知識・技術は積極的に習得しようとする一方で,必要性や重要性が見いだせないことの学習や実践には抵抗を感じる特徴がある。医療関連感染対策のエビデンスとそれに基づく実践が,職員の「腑に落ちる」形で記載されている本書は,課題を抱える現場を改善に導くさまざまな手掛かりが詰まった一冊である。

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