医学界新聞

医学界新聞プラス

『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』より

連載 長澤将

2023.11.24

 輸液・水電解質は難しい,一見わかったようでも,やっぱりよくわからない……。電解質異常の患者を診た際,何の検査をオーダーし,その結果はどう解釈し,どう対応すればいいのでしょうか?

 『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』は1章の総論,2,3章(各論)の20にも上る珠玉の症例から輸液・水電解質の症例に対応する際の考え方をわかりやすく解説。経験豊富なDr.長澤の思考回路が1冊に詰め込まれています。

 医学界新聞プラスでは,総論より「身体のバランスは『完璧なラーメンの味付け』である」,各論より「肝硬変・CKDで低Na血症を来している70歳代女性」「救急受診後の再診で低K血症を来していた40歳代女性」「腎機能低下を伴う高Ca血症を来した80歳代女性」をピックアップし,4回に分けて本書を紹介します。

水電解質・輸液の領域は正解にグラデーションがある(必ずしもエビデンスがない)ので, 問題集(2,3章)の解答には

正解 いかなる条件でも正答の可能性が高い選択肢

条件付き正解    確固たる理由があれば正答になりうる選択肢

の2パターンを用意しました.
条件付き正解の場合は,解説にその「条件」を示しています.

 エビデンスが乏しい領域については,長年臨床を行ってきた私の感覚も入っているので, 正解・不正解で一喜一憂するのではなく,解説もあわせて珠玉の症例を紙上体験ください.

  • 80歳代後半,女性.
  • 現病歴
    乾癬に対して少量のシクロスポリン(CyA)(50〜60mg/日)でコントロールされてきた.3か月前にeGFR 48mL/分/1.73m2となり,CyA腎症を考えて減量したが,2か月前には28mL/分/1.73m2と低下した.CyAを中止してプレドニゾロン(PSL)5mgに変更したが,1か月前にはさらに24mL/分/1.73m2に低下した.CyAが原因ではない可能性も考え内服薬をチェックしたところ,近医整形外科よりエディロールが出されていた.これによる腎障害と考えたため中止を指示し,コンサルトとなった.Ca 12.3mg/dLであった.
  • 身体所見
    146cm,43kg,血圧110/50mmHg,心拍数78bpm(整).JCS 0,特記事項なし,上腹部に手術跡,下腿浮腫なし.
  • 生活歴
    飲酒歴・喫煙歴:なし,妊娠・出産歴:2妊2産,妊娠高血圧症候群なし.ADL:自立,認知機能:年相応
  • 家族歴
    母:腎臓が悪かったと聞いている.7人兄弟:特に異常なし
  • 既往歴
    60年前に胆石で手術,46年ほど前から高血圧,6年ほど前から糖尿病.心血管イベントはなし
  • 内服薬
    アタラックスP,ビラノア,PSL,レバミピド,ニフェジピン,グラクティブ,酸化マグネシウム
  • 血液検査
    Na 136mEq/L,Cl 107mEq/L,K 4.5mEq/L,Cr 0.97mg/dL,BUN 19mg/dL, Ca 8.5mg/dL,P 2.7mg/dL,Mg 2.6mg/dL,Glu 101mg/dL,UA 5.7mg/dL
  • 尿検査
    尿比重 1.004,尿潜血−,尿タンパク 0.6g/gCr
  • 画像検査
    心胸比(CTR)55%,腎臓・尿管・膀胱画像(KUB):問題なし,心電図:左室肥大
Q1
  • この患者に追加するべき検査はどれか?
     ①    HTLV-1
     ②    血清蛋白分画
     ③    甲状腺機能(TSH,fT4
     ④    ACE活性
     ⑤    wPTH(またはiPTH)

 

Q2
  • Q1の検査結果は概ね正常であった.この患者の治療はどうするか?
     ①    生理食塩水の輸液
     ②    ビスホスホネート製剤の投与
     ③    エルカトニンの投与
     ④    何もしない(経過観察)

 

Q3
  • Q2の対応で腎機能はある程度回復した.以降の介入はどうするか?
     ①    腎生検
     ②    RA系阻害薬の導入
     ③    SGLT2阻害薬の導入
     ④    何もしない(経過観察)

 

    解説

    A1  正解   ②,③,⑤   条件付き正解   ①,④ 
    A2  正解   ④   条件付き正解   ①〜③   
    A3  正解   ④

    Q1の解説

     この患者さんは皮膚科の先生からの紹介でした.ほぼ完璧な紹介です.しかも,すでにビタミンDを中止していて紹介時には基準範囲内になっているという……こういう内科マインドをもった皮膚科医に憧れます(今世は腎臓内科ですが,もう一度やり直せるならば皮膚科に進みたいです).それはさておき解説して参りましょう. これは病歴からビタミンD中毒でよさそうな印象です.ただし,やはり腎機能が低下するような高Ca血症がぶり返すと困りますので,決着はつけておきたいところです. まず高Ca血症をみたときに確認すべきこと

    ●血清P値
    ●薬歴を含む病歴


    です.原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism;pHPT)であれば,過剰に産生されたPTHにより基本的にはCa↑,P↓になることから,低P血症を伴う場合にはpHPTっぽくなってきます.pHPTについては▶書籍『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』Case 15(☞143頁)で解説しましょう.

     高Ca血症の原因としては,ビタミンD中毒,悪性腫瘍が多いです.ただし,宮城県の石巻市や気仙沼市,福岡市などの港町ではHTLV-1に伴う高Ca血症が多いとされているので,該当するようであれば,こちらは調べたほうがよいでしょう.①は条件付き正解でよいと思います.HTLV-1感染症は多彩な表現型を来す疾患の1つなので,診断に難渋する患者さんが来たときには鑑別に挙げる必要はあります.最近出た文献1のレビューは内科医ならば読んでおいて損はないです.

     この患者さんにおいては軽度の腎障害もあることから,多発性骨髄腫や意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance;MGUS),腎障害を伴う単クローン性γグロブリン血症(monoclonal gammopathy of renal significance;MGRS)などを考え,年齢的にも一度,免疫電気泳動でMピーク〔▶書籍『Dr. 長澤印 輸液・水電解質ドリル』コラム(☞148頁)参照〕をチェックしたほうがよいかと思います.②も正解にします.なお,本症例ではMピークはありませんでした.

     甲状腺機能はいかがしましょう.教科書などを読むと甲状腺機能亢進症は高Ca血症の鑑別疾患に挙がっていることが多いですし,最近もケースレポート 2,3)があります.病態としては,甲状腺機能亢進症はCa代謝に影響します 4)(ALPが上昇することはしばしば経験します).副甲状腺機能亢進症と甲状腺機能亢進症が合併した日本のケースレポート 5)のDiscussionに“Hypercalcemia is reported to occur in up to 20% of hyperthyroid patients”とあるので,やはり意外といるのかもしれません(ただし根拠としては海外の文献6が引用されています).日本内科学会雑誌の文献7でも,鑑別としてはHPTに主眼が置かれています.

     この辺を念頭に置いたうえで,比較的簡便に調べることができる,また異常を認めた場合に有効な治療手段があることなどを考えると,甲状腺機能をチェックしてもよいかと思います.③は正解にします(とらないから誤りというわけではないです).

     さて,ACE活性についてはどうでしょうか? これはサルコイドーシスを念頭に置いて測るものですが,サルコイドーシスはなかなか診断に難渋する疾患です.この疾患は,冒される臓器が多彩であり,有名なところでは眼,心臓,肺,腎臓ですが,皮膚,神経,内分泌,筋骨格にも及びます.20年以上前の論文ではサルコイドーシスに伴う高Ca血症は3.7%とそこまで高くありません 8).ただし,サルコイドーシスのケースレポートはこの20年で2倍近くになっており,正確な高Ca血症の有病率はわからないと捉えたほうがよいです 9,10)(引用文献が孫引きであり,たどり着いた論文には何も書いていないということが往々にしてあります.正しい情報を得るにはこのような点を詰めておく必要があります).

     話が脱線しましたが,ACEを測るのは構わないですが,サルコイドーシスを疑うような所見があり,そこに介入していく気があるならばということになります.実際,私はこの患者さんではACEは測りませんでした〔ただしサルコイドーシスに特徴的な両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy;BHL)や腎障害が進行するならば測ると思います〕.④は条件付き正解です

     この症例ではiPTHは66.1pg/mL(基準値:15〜57pg/mL)と若干高いくらいですが,背景に慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)があることをふまえれば,ビタミンDで抑制されていると捉えました.そのあたりを鑑別するためにもPTHは外せないでしょう.⑤は正解です

     さて,病歴ではビタミンDの投与歴が大事です.多いパターンは「複数の医療機関でビタミンDをもらっていた」「サプリメントを追加でとっていた」「ビタミンD入りの牛乳がとても好き」などがあります.日本人成人のビタミンDの推奨摂取量は8.5μg/日です 10).この量をとっていない人が多いとも書いてありますが,魚(サケやマスが多いようです)を大量に食べる人や干し椎茸が好きな人,卵黄ばかりたくさん食べる人(信じられないけどいるのです!)などは注意が必要です.本症例ではこのようなビタミンD負荷はありませんでしたが,ビタミンD中毒による高Ca血症⇒急性腎障害(acute kidney injury;AKI)として対応することになりました.

    Q2の解説

     さて,実際にこの患者さんの治療はどうすればよいでしょうか? 通常,脱水を伴っていれば,生理食塩水の輸液となりますが,本症例では脱水の所見は明らかではありませんでした.また,元気だったためにあえて輸液するまでもないだろうと考えました.そのため①は条件付き正解になります

     Ca値もおおよそ基準範囲内(8.5mg/dL)に戻っていたため,慌ててエルカトニンやビスホスホネート製剤を投与する必要もないと考えました.よって②,③も条件付きでの正解となります

     高Ca血症⇒生理食塩水,エルカトニン,フロセミド!と覚えられているかもしれません.それはそれでよいのですが,臨床では常に患者さんが困っているか?この先困るか?をイメージしながら治療にあたる必要があります.本症例では皮膚科の先生のファインプレーでビタミンDが中止になって腎機能が回復しており,患者さんが元気だったため,特に何もしないでよいという判断になりました.よって④は正解です

    Q3の解説

     さて,ビタミンD中止により,この患者さんのeGFRは41.3mL/分/1.73m2まで回復しました.ここまでの経過を図1にまとめておきます.

    図1 体液量とNa濃度からみたNa異常
    図1 本症例の経過

     ただ,まだある程度の腎機能低下があります.以降の介入はどうすればよいでしょうか?

     このような超高齢者の治療は焦らないことも大事です.まず,家庭血圧もわからない,動脈硬化の具合もわからない,少なくとも急速進行性糸球体腎炎(rapidly progressive glomerulonephritis;RPGN)やネフローゼのない80歳代後半の症例に腎生検をする必要はないでしょう.①は不正解です

     降圧薬はどうでしょうか? こちらも家庭血圧を測ってからの対応になります.そもそもRA系阻害薬の適応はあるのかを確認する必要もあります(詳しく知りたい方は拙著 11)をご覧ください).SGLT2阻害薬はこの上乗せになるので,不正解ではないにせよ,本症例のような一過性の高Ca血症に伴うAKIに対して②,③を急いで使う必要はないでしょう.そうなると正解は④としておきます

     このような症例で念頭に置いてほしいのは,ビタミンD中毒と捉えて中止でよくなりましたが,背景疾患が存在する可能性があるため,Caが上がるタイプの薬はあまり使わないでおこうということです.具体的には,サイアザイド系利尿薬は高Ca血症を来すことがあり,特にこの患者さんのように体格が小さい方は電解質異常を来しやすいので避けたほうがよいかと思います.このようなことをコメントし,かかりつけ医にお返ししました.

     余談ですが,高Ca血症ではなぜ腎機能障害が起こるのでしょうか? おそらく,Ca結晶が間質に沈着し間質性腎炎を起こすためではないかと考えています.なかなか症例がないのですが,文献12のケースレポートは参考になりそうです.運がよいとKossa染色で染まる針のような結晶が腎臓の間質に沈着している像に出会えるかもしれません.

    • Learning Point
    • 高Ca血症のアプローチは,まずは病歴とPTH値の測定.
    • 地域によってHTLV-1感染の可能性を念頭に置く.
    • ビタミンDの摂取歴に注意! 特にサプリメントはお薬手帳に載っていないことがしばしばある.
    • 超高齢者の治療は焦らないこと.薬の導入も慎重に.
    • 文献
    • 1)    J Clin Oncol 37:677-687, 2019[PMID:30657736]
    • 2)    BMJ Case Rep 15:e251454, 2022[PMID:35985738]
    • 3)    BMJ Case Rep 14:e238898, 2021[PMID:33462034]
    • 4)    Endocr Pract 9:517-521, 2003[PMID:14715479]
    • 5)    Intern Med 54:813-818, 2015[PMID:25832948]
    • 6)    Clin Biochem 45:954-963, 2012[PMID:22569596]
    • 7)    日内会誌 109:740-745, 2020
    • 8)    最新医学(別冊):92-101, 2002
    • 9)    Front Med(Lausanne)9:990714, 2022[PMID:35983097]
    • 10)  日本人の食事摂取基準(2020年版),https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf [2023年8月閲覧]
    • 11)  長澤先生,腎臓って結局どう診ればいいですか?,p22,羊土社,2022
    • 12)  日内会誌 93:1448-1450, 2004[PMID:15298285]
 

輸液・水電解質のリアルに挑め。経験豊富なDr.長澤の思考過程がみえる20症例。

<内容紹介>輸液・水電解質のリアルに挑め。経験豊富なDr.長澤の思考プロセスがみえる20症例!つまずきやすい輸液や水電解質をDr.長澤が初学者にもわかりやすく解説。1章(総論)で学んだあとは、2,3章(各論)の症例問題を解いて、どんどん実践すべし。わからないところがあったらいつでも1章(総論)に立ち返ろう。解き終えた後は付録の関連検査値・式、逆引き疾患目次、Learning Pointまとめもご活用ください。

目次はこちらから

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook