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『トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法』より

連載 向川原充,金城光代

2023.02.17

臨床で出合った症例を報告するのは,臨床医として大切な役割である――。

一人でも多くの患者さんを助けるため,あるいは医学の発展に貢献するためにケースレポートの執筆は必要である。そう理解しながらも,「この症例は報告に値するのだろうか?」「どうすればアクセプトされるのか?」といった悩みから,二の足を踏んでしまう人も少なくないだろう。 そんな時に手に取りたいのが『トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法』だ。臨床医の多忙な業務の合間でも執筆を進められる戦略とは何か。本書では,初学者向けの基礎から,熟練者による指導方法まで,効果的な執筆プロセスを解説する。

医学界新聞プラスでは,本書の「序章」の内容を抜粋し,症例報告の種類と考え方,本書の目的と活用方法を4回に分けて連載していく。


本書の内容は,症例報告執筆の基礎から指導方法まで多岐にわたります。したがって,初めて症例報告を執筆する方から,熟練した執筆者に至るまで,臨床現場からその成果を発信しようとする全ての方の役に立てるのではないかと私たちは思っていますし,またそうなることを心から願っています。そして臨床や執筆に関する経験に合わせて,本書はさまざまな形で活用していただけると思っています。本書は多忙な臨床業務の合間に読まれることを想定しており,つまみ食いのような形でも十分に活用できるよう配慮しています。例えば臨床経験年数と執筆経験によって2×2表を作るとすれば(図1),各章のターゲットは次のようになります。

図1.png

第一に,臨床経験と執筆経験いずれもあまりない場合は,指導医から手取り足取り教えてもらいつつ,文献の主たる執筆者となることが最も多いでしょう。この場合,症例の教訓(第1章),症例のストーリー性(第2章),ディスカッションの構築(第4章),投稿のための体裁(第5章)が,特に執筆の助けとなるのではと思います。

第二に,臨床経験はあるが執筆経験があまりない場合は,臨床での意義深い教訓については,経験的に十分理解されていることと思います。したがって,症例のストーリー性(第2章),執筆チーム構成(第3章),ディスカッションの構築(第4章),投稿のための体裁(第5章),フォローアップ(第6章)が,その役に立てるのではと考えています。

第三に,近年では学生のあいだに執筆経験を複数持った上で,臨床での修練を始める方も珍しくありません。この場合,学術文献執筆に共通する要素は既に十分理解されていることと思います。その一方で,筆頭あるいは責任著者としてフォローアップまで行うことは,学生のあいだではさほど多くないでしょう。したがって,症例の教訓(第1章),症例のストーリー性(第2章),執筆チーム構成(第3章),フォローアップ(第6章)が,症例報告執筆の一助となるはずです。

最後に,臨床経験と執筆経験がある場合,今後の目標としてNEJMJAMAなどトップジャーナルへの掲載を考えているかもしれません。この場合,本書の最も特徴的な内容──すなわち,症例のストーリー性(第2章)と執筆チーム構成(第3章)──が,それを叶える手助けになるのではと,私たちは考えています。

臨床経験と執筆経験いずれもあまりない場合(図2)

症例報告執筆には,ある程度まとまった時間が必要な作業と,限られた時間で行える作業のふたつが必要です。前者には,例えば教訓やストーリー性の抽出があります。また後者には,症例やディスカッションの執筆などがあります。臨床と執筆いずれの経験も乏しい場合は,これらの作業工程に着目し,まずは2か月程度で本書を参照しつつ,初回原稿を執筆することを目標としてみましょう。

あくまで一例ですが,本書の活用方法として,例えば以下のようなスケジュールが考えられます。まず,教訓やストーリー性の抽出について,本書を読みながら週末を使って検討しましょう。教訓とストーリーのそれぞれに週末を当て,2週間程度で方針が立つのが理想的です。また,この間に直接の指導医と最低1回はミーティングを行い,方針の妥当性を確認しましょう。教訓とストーリーについて検討し,第2章を理解すれば,症例提示の執筆は1日10分程度でも2週間程度で完成させられるはずです(症例提示が合計400words,20words×20センテンスで,毎日2センテンスずつ執筆すると仮定)。症例提示の執筆が終わった段階で,指導医とのミーティングを行うとよいでしょう。2か月目は,主に文献検索とディスカッション執筆に費やすことになります。まず文献検索とディスカッションの構築に関する第4章を理解し,2~3週間程度での執筆を目指しましょう。その上で,最後に投稿先に合わせた体裁調整を行っていきます。

図2.png

臨床経験はあるが執筆経験があまりない場合(図3)

これまで臨床で数多くの症例を経験し,今後執筆にも携わりたい場合は,何が教訓としてふさわしいか,直感的に十分に理解されていることと思います。また,執筆と指導の双方でいきなり主導的役割を担うこともあるかもしれません。したがって,本書の第1章以外をざっと読みつつ,執筆に取り組むことが効果的だと思われます。本書の活用方法としては,例えば第2~6章を,週末などに確認しつつ,症例提示,文献検索/ディスカッション執筆,体裁調整を,それぞれ1~2週間ずつを目安に,少しずつ進めていくことが考えられます。執筆と指導の双方を同時に行う場合は,隔週程度で進捗を確認することも一案です。

図3.png

臨床経験はあまりないが執筆経験がある場合(図4)

学生時代に学術論文執筆に携わったことがある場合,文献検索やディスカッションの執筆は既に経験があることでしょう。この場合,臨床現場に直接還元できる教訓が何かを理解し,また症例報告の特異性に焦点を当てた執筆が有効です。本書の第1〜3章および第6章を確認しつつ,症例選択や症例提示の執筆に焦点を当てて作業を行いましょう。文献検索やディスカッションは,学術論文と比べれば,比較的速やかに執筆ができるはずです。また,学生時代の研究経験では通常,責任著者になったり,あるいはフォローアップで主導的役割を果たしたりすることはあまりないはずです。したがって,こうした役割にまつわる責務(第6章)を一度理解しておくことも有効です。

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臨床経験と執筆経験がある場合(図5)

指導者として症例報告に関わる場合は,執筆チームのモチベーションをうまくマネジメントしつつ,現実的ながらも可能な限り目標を高く掲げ,執筆チームを先導していくことが求められるでしょう。したがって,本書の最もユニークな点であるストーリー性(第2章)やチーム構成(第3章)について簡単に把握しつつ,執筆や指導を行っていくことが有効です。この際,隔週程度でもチームの状況を把握することで,執筆を効果的に指導していくことができるのではと思います。

図5.png

◆◇◆

症例報告執筆のための類書は,決して少なくはありません。ですが,多忙な臨床業務の合間に,どうすれば効果的かつ効率的に,記憶に残る症例報告の執筆を行うことができるのかをまとめた書籍は,現状限られています。もちろん,ここに紹介する考え方や手法だけが全てではないでしょう。また,本書が焦点を当てるのは,症例報告の中でもやや特殊な形式なのかもしれません。ですが本書をきっかけに,日々多忙な臨床を支える臨床医の手によってNEJMJAMAなどの医学ジャーナルに,より多くの症例が発信されるようになれば,それは私たちとしても望外の喜びです。

 

アクセプトの鍵は、ロジックと記憶に残るストーリーにある

<内容紹介>症例報告をテーマとした類書はあるが、その多くは掲載されるためのテクニック集であり、指導医の目線から論文執筆の指導法を解説したものはない。本書はインパクトのあるジャーナルに掲載されるための要素(症例の物語性、重層化されたすぐに活かせる学びのポイント、効果的な執筆チーム編成など)を概説し、症例報告を執筆する「考え方」や「方法論」を提示する。

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