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トップジャーナルへの掲載を叶える ケースレポート執筆法

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アクセプトされる症例報告を書くポイントは? この症例は報告に値するだろうか? どのようなスケジュールで進めればいい? 臨床で出合った症例を紙面に残して報告するのは、臨床医としての大切な役割だ。初学者向けの基礎から熟練者による指導方法まで、効果的な執筆プロセスを解説。臨床医の多忙な業務の合間にも執筆を進められる「考え方」や「方法論」を提示する。

向川原 充 / 金城 光代
発行 2023年01月判型:A5頁:216
ISBN 978-4-260-05018-0
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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  • 序文
  • 目次
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謝辞

 本書執筆の最大のきっかけは,私が沖縄県立中部病院の内科チーフレジデントとして,毎週開催される症例検討会のコーディネートを担ったことでした。初期研修医が発表者として,全内科医師の前で教育的症例を発表するこの症例検討会は,病院の伝統であり,またその厳しさから,数々のエピソードが生まれる場でもありました。

 私が症例検討会のコーディネートを担った際,その課題として,研修医の出席者数減少がありました。沖縄県立中部病院では,1年目研修医が病棟からのPHSコールをまず全て引き受け,また2年目研修医は外来および病棟担当医として常に何十名もの患者を担当します。こうした業務の中──また,実臨床にこそ本当の学びがあることを,皆が認識している中──最も忙しい,朝の1時間近くを症例検討会出席のために費やすことは,なかなか難しいのが実情でした。同じひとりの研修医として,実のところ私自身も,その感覚を共有するところがありました。日々刻々と,しかも微細に変化していく入院患者の呼吸音や心音を追ったり,あるいは先人たちの名が冠された所見を疑わせる臨床徴候を見つけたり,そして何より,治療の成果を肌で感じることができる実臨床に適う喜びは,実際そうあるものではありません。

 当時の指導医と相談し至った結論は,参加したくなる,学びあるカンファレンスを運営することでした。そして教育的症例提示という視点から,日々の臨床業務や研修を終えた深夜にThe New England Journal of Medicine(NEJM)Journal of the American Medical Association(JAMA),Lancetなどの症例報告を分析する中で編み出されたのが,本書で紹介する重層化された学びの抽出であり,あるいは物語性を持った教訓のある症例提示などの手法でした。当時診療と研修の傍ら行っていた,初期研修医の症例検討会の参加状況追跡や,彼らの入院時診療録および救命救急センターでの外来診療録レビューからは,こうした取り組みが初期研修医の症例検討会参加率向上につながり,さらに初期研修医がその学びを,直後の救急外来診療に活かしている姿を見ることができました。また,検討症例のいくつかは,実際に上に挙げたような医学ジャーナルにも掲載されることとなりました。

 もちろん,症例報告執筆は,臨床医の主たる業務には決してなり得ません。「臨床」という2文字が明確に指し示すように,現場にいる者にとって,その責務がベッドサイドにあるのは誰もが納得するところでしょう。あるいは,論文を執筆するにしても,臨床研究や基礎研究の成果をまとめるべきだ,という意見もあるかもしれません。しかしながら,私が沖縄での臨床医としての修練のあいだに気付かされたことのひとつは,どれほど多忙な臨床業務の合間を縫ってでも,実臨床のみならず誌上の印象的な症例からも学び,またその執筆を行いたいと願う医師は,決して少なくないということでした。そうした熱意は必ずしも功名心から生じるものではありません。それはむしろ自らが現場で休みなく働く中で学んだことを広く注意喚起することにより,現場から少しでも臨床医学の質の向上に貢献したい,という純粋な想いに由来するものでした。こうした方々の秘めた熱意を無下にしないために,私自身の執筆経験にも基づき,特にNEJMJAMAなど,臨床推論関連の症例報告執筆を目指すための考え方や方法論をまとめたいと考えたのが,本書執筆のきっかけです。その後,私自身も症例報告執筆の指導を仰いだ金城光代先生(沖縄県立中部病院総合内科/リウマチ・膠原病科)に相談し,約2年程度の執筆期間を経て,本書が完成しました。

 本書は,地域の中核病院などで日々多忙な臨床業務に携わる──すなわち,電子カルテの前に座り続けるのではなくベッドサイドに赴くことを好むような,あるいはベイツ以上にサパイラの風土感を好んで講読するような──専攻医やスタッフ医師をはじめとする若手医師を,主な対象としています。執筆に当たっては,私たちの経験した具体的事例を可能な限り織り交ぜながら,教育的な内容となるよう配慮しています。本書の内容は英文での症例報告執筆からその指導方法まで多岐にわたります。本書が,これから特にトップジャーナルと呼ばれる医学ジャーナルでの症例報告執筆を目指す方,その指導に携わる方,ジャーナルの種類によらず初めて英文症例報告を目指す方,あるいは院内症例検討会など実臨床での医学教育に携わる全ての方のお役に立てることを,著者一同,心から願っています。

 沖縄県立中部病院での修練,および同宮古病院での内科・感染症科医師としての勤務を経て,私はご縁あって臨床をいったん離れることになりました。ですが,今でも私を研究活動に奮い立たせてくれるのは,沖縄での臨床の記憶です。日々深夜まで共に勤務した研修プログラム同期の医師,そして毎日懇切丁寧に指導してくださった沖縄県立中部病院感染症内科/総合内科の指導医の先生方をはじめとする全ての方々に,この場をお借りしてお礼申し上げます。また,本書執筆の契機となった症例検討会で発表を行った研修医の先生方,毎週数多くのフィードバックをくださった先生方,そしてこれまで執筆した症例報告執筆に快く同意してくださった患者様とそのご家族の方々に,心からのお礼を申し上げます。さらに,企画立案から原稿の校正に至るまでお世話になった医学書院の井上岬氏,池田大志氏,高梨朋哉氏,原稿に多数のご助言をくださった會田哲朗先生(福島県立医科大学 総合内科),赤尾敏之先生(亀田総合病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科),大島崇司先生(沖縄県立中部病院),金城紀与史先生(沖縄県立中部病院総合内科),佐藤直行先生(ハートライフ病院総合内科),島袋彰先生(ハーバード大学・ケネディ行政大学院),杉田周一先生(杉田医院,沖縄県立宮古病院総合診療科),砂川惇司先生(沖縄県立宮古病院総合診療科),照屋寛之先生(東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科),成田雅先生(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター感染症内科),湊真弥先生(板橋中央総合病院総合診療内科),矢野裕之先生(沖縄県立中部病院総合内科/リウマチ・膠原病科)(五十音順にて掲載)に,この場をお借りして深く感謝申し上げます。

 2023年1月
 著者を代表して
 向川原 充

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序章 インパクトの高い症例報告を執筆するために
 症例報告の種類
 症例報告執筆の考え方
 効果的かつ効率的な執筆の方法
 本書の目的と構成
 本書の活用方法
 column 1 臨床医がなぜ症例報告を執筆するのか

第1章 症例の学びを抽出する
 臨床医としての学びと,症例報告としての学びは異なる
 報告に適した症例を見極める
 学びを洗練させる方法
 症例の適切さと学びの質を確認する
 column 2 画像の投稿について

第2章 ストーリーを抽出し,症例報告を構築する
 記憶に残る,ストーリーの型を活用する
 症例提示を構築する
 推敲する
 column 3 エピソードを文献にまとめる

第3章 効果的な執筆チームを構成する
 効果的な執筆チームの構成
 目標を設定する
 執筆に当たっての注意点
 指導上の注意点
 column 4 論文執筆を戦略的に行う

第4章 ディスカッションを組み立てる
 症例の学びを抽出する(第1章の復習)
 ディスカッションの論理構成,段落構成,その構築方法を理解する
  ステップ 1 │ ディスカッションの4つの構成要素を考える
  ステップ 2 │ 段落構成を考えて,構成要素の内容を振り分ける
  ステップ 3 │ 執筆を行う
  ステップ 4 │ 論拠となる文献の研究デザインを同定し,文献を検索する
  ステップ 5 │ 論拠となる文献を,批判的吟味を行った上で引用する
  ステップ 6 │ 全体を見直して推敲する
 column 5 効果的な指導とは

第5章 投稿できる体裁に整える
 投稿要件と既存文献を再確認する
 著者基準(Authorship criteria)を確認する
 患者と家族の想いに配慮する
 医療従事者の想いに配慮する
 カバーレターを執筆する
 column 6 症例検討会の逆再生──執筆を想定して英語を学ぶ

第6章 フォローアップを確実に行う
 修正・再投稿・催促を行う
 掲載までの編集作業,および謝辞と報告を行う
 掲載後の対応を,最後まで確実に行う
 column 7 信頼できる責任著者となるために

謝辞
さいごに
索引

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症例報告の執筆が臨床能力をさらに高める
書評者:皿谷 健(杏林大准教授・呼吸器内科学)

 向川原充,金城光代両先生の執筆による本書は,タイトルの通りトップジャーナルへの掲載を叶えるケースレポート執筆法を述べた書籍である。究極的には「論文を書くこと」を通じて「臨床能力をさらに高めるための本」だと言える。向川原先生が研修を受け,金城先生は現在も診療を行う沖縄県立中部病院には,今に語り継がれる数々のクリニカル・パール(教訓)がある。その多くはcommon diseaseのuncommon presentationを一症例ずつ大切に語り継ぐ土壌があって残るのだろう。本書でも,教訓をストーリーに即して提示する意義が強調されているのは,同院のそうした風土を基に執筆されているからではないか。大学院で「英文でのCase reportの書き方――How much is enough?」と題した講義を毎年行っている評者も,本書の随所に感じられる両先生の症例報告執筆に対する信念に深い共感を持った。

 そもそも臨床医が症例報告を書きたい,形に残したいと思うのはなぜか。その理由は,圧倒的な熱量を注いで診療した患者には,患者自身あるいは患者-医師間のストーリーがあり,それを残したいと思うからだ。臨床経過上の困難を教訓として残し,次にその症例に出合った時に遅滞なく解決するためでもある。ストーリーに臨場感のある症例報告は,他施設で同様の困難に直面している医師のプラクティスを変えることに必ずや貢献するだろう。

 本書は,症例報告の執筆に適した状況として,(1)最終診断がすぐに想起できないこと,(2)主たる学び(教訓)の活用によって確定診断できること,(3)稀少すぎず,ありきたりすぎないこと――の3点を挙げている。その上で論文の執筆,掲載,症例の共有,自らの学びの深化を経て,「読者の考え方を変え,臨床の質の向上に貢献すること」を症例報告執筆の真の目的と位置付けている。

 英語ができなければ英文症例報告は投稿できないかというと,必ずしもそうではない。大切なのは,ストーリーとロジックである。これは評者の大学に交換留学で短期間来日した米国のチーフレジデントと行った論文作成のやりとりでも感じた。そのチーフレジデントは,症例報告におけるdiscussionにロジックが欠如していたのだ。本書で述べられているように,時系列で得られた情報から論理的な思考(ロジック)をどう展開し,症例の診断に迫っていくのか? そのエッセンスは何なのか? を読者にわかる形で分解し提示するスキルが執筆には欠かせない。

 本書で紹介するdiscussion作成のポイントは,(1)症例の特殊性・新規性:過去の報告との関連性,(2)症例から得られる仮説(病態生理や鑑別疾患),(3)症例から導き出せる教訓(推測できること),(4)Take home message/Teaching pointを各パーツで述べることである。加えて段落構成の原則であるtopic sentenceとsupporting sentenceの書き方も指南している。特に(1)では,最初の段落内に症例で際立つ特徴やユニークな点についてのみ簡単に述べる「症例のハイライト」や,症例の新規性・希少性とtake home messageを要約したポイントにfocusを絞る重要性が指摘されている。本書で解説される症例報告を作成するためのロジックは,original articleの執筆にも通用する重要なエッセンスの一つである。

 症例報告は,疾患・病態生理の新たな解釈や発見のヒントを与えてくれる「揺るがないエビデンス」だと評者は信じている。本書は,「症例のエッセンス」を英語論文として国内外に発信するための土台作りとして,ぜひ読んでおきたい一冊である。


症例報告の執筆で,ベッドサイドの学びを言語化する
書評者:廣澤 孝信(獨協医大助教・総合診療医学)

 臨床のベッドサイドにはさまざまな学びがあります。しかし多くの場合,日常診療の多忙さから学術的なアウトプットとしての集合知よりも,無意識も含む現場レベルの経験として蓄積される場合が多いのではないでしょうか。ケースレポート(症例報告)のエビデンスレベルは必ずしも高くはありません。また,多忙な臨床業務の合間にアウトプットとして形にするのは決して容易なことではないでしょう。しかし本書でも述べられている通り,ケースレポートには執筆を通じて疾患の理解を深め,自らの臨床能力を高められる意義があります。アクセプトされれば学びを読者と共有でき,報告した症例の重要性を再認識させてくれることでしょう。

 私は,大学の総合診療科に所属する医師として,医学生から後輩,同僚までさまざまなレベルの方々の相談を受けたり指導したりする立場にあり,ケースレポートの執筆や発表もコラボレーションしてきました。こうした経験から,ケースレポートを書くための着想を得る時点から,執筆,投稿,受理までの全体の流れを示して伝える難しさを感じていました。その全体像を見事に示してくれるのが本書です。例えば,臨床経験と執筆経験を「2×2」で図式化して,執筆スケジュールを例示した図をはじめ,数々の掲載図によって,頭で漠然と考えている内容が明快に図式化・言語化されるので,とても役に立ちます。

 ケースレポートの執筆に関連した文献検索の仕方や,査読中や投稿後の振る舞いについても触れられており,著者の先生方のこれまでの経験や息遣いを紙面から学ぶことができます。本書内でもケースレポートを軸に,日常臨床で陥りがちなバイアスとして「冷たい認知」と「熱い認知」が解説されています。著者の科学者としてのクールな視点と臨床医としてのホットな視点が同居していることを,本書全体から読み取ることができます。

 現場の生きた学びをケースレポートに吹き込む方法も示してくれます。五感を駆使したベッドサイドでの学びをどう抽出するか,そして執筆者と読者の学びの共通項をいかに具現化するかが明快に述べられています。学びの言語化は,近年精度の向上が著しい人工知能(AI)でも代替は依然として難しいとされます。五感を駆使した学びの抽出は,ベッドサイドで日々診療を行う医療者だからこそできることであり,言語化の意義は高いと考えます。

 本書を読むことで,ケースレポートの候補を選ぶ際に陥りがちな,稀少性を求めてしまう思い込みから解き放ってくれます。「稀少すぎず,ありきたりすぎず」とは言い得て妙の表現であり,これこそケースレポートとして取り上げる本質だと感じます。こうした珠玉の文言がケースレポートを執筆しようとする私たちの心理的なハードルを下げてくれるのです。

 本書は初学者から指導医まで幅広い読者層に役に立つ実践的な書です。症例報告の構想から執筆,投稿まで,また一読者として症例報告を読む上でも本書を傍らに置いておけば,より俯瞰した視点を持ってケースレポートに向き合えるでしょう。本書は,日々のベッドサイドから得られる学びを,より一般化したクリニカル・パールとして共有できないか探してみたいと思わせてくれます。トップジャーナルへの投稿に限らずとも,ケースレポートの執筆に興味のある方,現在執筆中の方,既に執筆経験が十分にある方にも必見です。

 

 

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