心の不調に対する「アニメ療法」の可能性
[第3回] 日本人の「本音」と「建前」の不思議
連載 パントー・フランチェスコ
2023.09.18 週刊医学界新聞(通常号):第3533号より
文化依存症候群を考えるに当たって,日本はどういった立ち位置を担うのでしょうか。対人恐怖症については第1回(3526号)で触れましたが,『DSM-5』にはまだ掲載されていない現象が数多く存在すると文化精神医学の研究者によって指摘されています1)。筆者が特に注目しているのは,「本音」と「建前」の不思議な切り替えです。建前について,どのような印象をお持ちでしょうか? 社会人として身につけるべき「世渡りスキル」と思っている方もいるかもしれません。スキルとして役に立つかどうかはさておき,その精神医学的な影響,つまり私たちのwell-beingに対する影響を今回は探りたいと思います。
人は実際には感じていない感情を演出すると,心に負荷がかかります。本心を隠す建前は,感情的不協和経験(emotional dissonance)=感情的な矛盾を生み出します。そうした負荷を伴う労働を感情労働(emotional labor)と呼びます2)。Arlie Hochshildは,感情労働が表層演技と深層演技という2つの主要な心の調整方略によって特徴づけられると主張します3)。表層演技とは,就労者が実際に感じていることを変えることなく仕事に必要な感情を表に出すこと,深層演技とは,就労者が組織の期待に沿うように内的感情を変化させ,より自然な感情表現を生み出すよう努力するプロセスを言います。すなわち前者は装うということで,後者では感じていない感情を感じてみようとするわけです。そのため建前は感情労働をもたらすと言って良いかもしれません。であるならば,理解すべきは精神健康度との関係性です。
自己の感情を調整することを期待されがちな職業である看護師は,感情労働とwell-beingの関係を調べる研究の対象によくなります。実際,看護師は医療ビジネス環境における市場競争と患者中心のサービス提供により,職務要件を満たすために感情調整に関する重いタスクを実践していることが明らかになっており4),頻繁に表層演技もしくは深層演技を行っています。特に表層演技は,職務ストレスの発生5)とその結果としての認知的疲労2)に関して,有害な感情的労働戦略であることが判明しています。認知的疲労はバーン...
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