医学界新聞

書評

2023.06.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3521号より

《評者》 長崎大特命教授・肉眼解剖学

 定番の『解剖学カラーアトラス』が第9版に改訂されました。前回から実に7年の歳月を経ての待望の改訂です。初版は1985年に出版されていますが,本書がこれまで一貫して評価されてきたのは,理想的な状態に剖出展開された解剖野の再現を,最高品質の写真画像で追求した点です。本書を構成する数々の精密な写真は,美しいグラフィックと比較しても,はるかに正確かつリアルに対象を描出しています。模式図やイラストで構成される多くの類似書とは一線を画する貴重な解剖学アトラスです。これらのリアリティあふれる写真画像の提供を可能にしたのは,高い技術を持つ独日両国の熟練した解剖学研究者たちと,対象物を忠実に再現するプロカメラマンとの,高いレベルにおける共同作業でしょう。

 これらに加えて,この第9版では医学生の学習効率を高めるための多くの進化が確認されます。まず,目次を見て気付くのは,本書を構成する各章の順番が整理されていて,他の多くの解剖学の教科書との整合性が図られていることです。このことによって,実際の解剖学実習のための副読本としての利便性は一段と向上するでしょう。

 旧版と比較して40ページ以上増量したページをめくると,紙面のデザインやレイアウトが一新され,より洗練された印象に仕上がっていることがわかります。また,写真の理解を容易にするために工夫された多くの簡潔なイラストや説明文が効率よく配置されています。

 さらに,第9版の一番のアピールポイントは,医学生が多種多様な系統解剖学的構造と位置関係を容易に理解できるように工夫された「学習ボード」の採用でしょう。肉眼解剖学の学習において,系統解剖学と局所解剖学はいわば車の両輪です。このことは教科書や参考書においても同様ですが,それらを一冊のアトラスにまとめようとした試みは歓迎に値します。その学習上のメリットと完成度に関しては,ぜひ店頭で実物を手に取って確認していただきたいと思います。

 今回,新たに筋や肝臓,骨格標本の写真も加わったことで,説得力ある写真画像の連続性はこれまで以上に圧倒的です。加えて,新たに撮影されたMRI画像やCT画像と実際の解剖体横断画像とを並べて配置することで,臨床診療科目を学習する医学生にとっても頼れる参考書に仕上がっています。『解剖学カラーアトラス 第9版』は,これから医学を学習する初学者ばかりでなく,高学年の医学生に対しても最適な選択肢を提供してくれるでしょう。さらに,日々の診療に取り組む臨床医にとっては解剖学的知識を再確認するための有効なツールとなるでしょう。

《評者》 田附興風会医学研究所北野病院消化器外科

 私が初期研修医のころ,救急外来で最も苦戦したのが腹部CTの読影である。かつて私が勤務したのは,日夜問わずひっきりなしに救急搬送が続く三次救急病院だ。

 救急外来では何度も腹部CTを撮影し,その都度読影し,必要に応じて専門診療科にコンサルトしなければならない。特に急性腹症の患者は多くの場合,腹部CTの結果によって手術適応が決まる。

 レジデントにとって腹部CTが厄介なのは,撮像範囲が広いこと,それ故扱う臓器の数が極めて多いことである。肝臓,胆道,胃,十二指腸,小腸,大腸,膵臓,脾臓,子宮,卵巣,膀胱,各種の動静脈……。カバーする臓器名を羅列するだけでもかなりの数になる。さらに,それぞれの臓器に無数の異常所見があり,これを逐一覚えていなければならない。

 腹部CTの「正常所見」が頭に入っていないビギナーのころは,当然「異常所見」を認識できない。適切な診断,アセスメントができず,当直中の外科医に叱られたことは何度となくある。

 その上,腹部CTは撮影件数がとにかく多い。一晩に何件も腹部CTを撮影し,一人ひとり異なる腹部の画像を繰り返し見て,モニターの前で何度も頭を抱えることになる。

 当時,急性腹症のCTを学ぶコンテンツはあまりなく,オン・ザ・ジョブ・トレーニングのごとく現場で先輩の指導を受けながら学ぶ他なかった。その時の心理的なストレスは,今思い出すだけで胃が痛くなるほどだ。

 こうした苦労を覚えている私としては,この「レジデントのための急性腹症のCT」というテーマがいかに貴重で,いかに有用かがよくわかる。まさに「急性腹症のCT」で困っているレジデントは,全国に数え切れないほどいるはずだからである。

 本書『連続スライスで学ぶ レジデントのための急性腹症のCT[Web付録付]』では,消化器外科領域,消化器内科領域,血管外科領域,そして婦人科領域にわたり,急性腹症に至る各疾患のCT画像がふんだんに盛り込まれ,実際の症例を基に学ぶことができる。病歴と連続スライスのCT画像を見て診断を試みた後,次のページでアノテーション付きの同じ画像を見て答え合わせをする,というフローのため,異常所見が頭に入りやすいはずだ。

 また読影のみならず,各種疾患に関する疫学的な背景知識,症状,腹部所見,治療方針まで,豊富なエビデンスと共に解説されており,画像診断を軸として疾患全体を学ぶことができるのも長所である。まさに「ありそうでなかった」「かゆいところに手がとどく」タイプの教科書と言える。

 さらに,この本のWeb付録を使えば,実際に電子カルテで見るのと同様に,連続スライスでCTを閲覧できる。かつて私が救急外来で脂汗をかきながら先輩に教わったことが,自宅にいながらにしてできるというのだ。

 こんな素晴らしい教科書が簡単に手に入るのだから,本当に今のレジデントはうらやましい限りである。

《評者》 東医大病院薬剤部

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