[第4回] 強心薬・陽圧換気を使いこなす!
連載 長友祐司
2022.10.17 週刊医学界新聞(レジデント号):第3489号より
心不全の急性期対応において,心原性ショックや低灌流所見を見逃さないことが最も大切であり,初期対応におけるトリアージとして強調されています。また,呼吸不全がごく短時間に進行し,命にかかわることもあることから,確実な酸素化は重要です。適切なタイミングでの介入を行うかどうかでその後の転帰が大きく異なるために1),これらのサインを早期に発見し対処することが求められます。本稿では,強心薬と陽圧換気の使用で最低限押さえてほしいポイントを一緒に確認していきます。
強心薬を適切に使用するために
心原性ショック・低灌流性心不全に対する強心薬の使用時に鍵になるのは適切なタイミングでの迅速な介入であり,超急性期(10分以内)に使用の要否を判断しなければなりません(図)2)。とはいえ,強心薬の使用は予後の悪化につながる可能性も指摘されています3)。病態に応じた適応,薬剤の選択に十分注意を払い,必要最少量および最短期間での使用にとどめることを基本姿勢としましょう。大量投与を要する患者では,早急に大動脈内バルーンパンピング術(IABP)など機械的補助循環の導入を検討します2)。

急性心不全治療に用いられる強心薬には,ドブタミンやノルアドレナリンなどの表に示す薬剤があります。以下,それぞれの薬剤の特徴,注意点を紹介していきます。

ドブタミン:β1刺激作用で心拍出量を増やし,組織低灌流を改善します。低用量(5 μg/kg/分以下)では軽度の血管拡張作用による末梢血管抵抗低下および肺毛細血管圧の低下をもたらします。比較的即効性があるため,極度の低心機能で低灌流所見が強い症例では速やかに投与を検討しましょう(図)2)。症候性低血圧を伴う場合には,昇圧作用を有するノルアドレナリンを併用します。一方で,ドブタミン使用が心事故発生率や死亡率を上昇させる可能性が報告されている点4, 5)には注意が必要です。
PDE-III阻害薬:ミルリノンに代表されるPDE-III(Phosphodiesterase III)阻害薬は,心筋や血管平滑筋の細胞に作用して強心作用・血管拡張作用を示すために,心筋酸素消費量を増加させにくく,かつ肺動脈圧を低下させます。持続静注で開始すると最大効果発現まで数時間を要すること6)から即効性に乏しいのが欠点ですが,β1受容体を介さずに作用するので,β遮断薬投与中の患者や,β受容体への反応が悪くなっている(downregulation)低心機能患者では,ドブタミンよりPDE-III阻害薬が効果を発揮する場合があります。不整脈イベントや遷延性の血圧低下の頻度が高まる点には注意しましょう7)。
ノルアドレナリン:強力な末梢血管収縮作用を示し,循環血液量を補正しても心原性ショックから離脱困難な場合に少量から開始します。他の昇圧薬よりも安全に使用できるため8),昇圧が必要な症例には第一選択薬として使用します(図)。敗血症性ショックなど末梢血管拡張がある場合はよい適応です。ただし必要以上の量を用いると,末梢血管抵抗の増加により後負荷の増大,臓器血流の減少を招く可能性があります。
ドパミン:強心作用と昇圧作用を併せ持ちます。一昔前まで汎用されていましたが,ノルアドレナリンやドブタミンと比較して不整脈イベントや短期の死亡が高率であることが報告され8, 9),あまり用いられなくなっています。また,腎動脈拡張作用による糸球体濾過量の増加と利尿効果を期待して低用量(2 μg/kg/分以下)で用いられる場合があるものの,ランダム化比較試験で効果は示されていません(ガイドライン推奨class IIb)10, 11)。以上より,ドパミンはノルアドレナリン,ドブタミン使用においても反応性が乏しい際の追加投与の位置付けと考えます。
陽圧換気を適切に使用するために
急性心不全で低酸素血症を認める場合,酸素投与がまず行われ,改善が不十分な場合には非侵襲的陽圧換気(NPPV)や気管内挿管が検討されます。NPPVは酸素化改善,呼吸努力の軽減に加えて,陽圧換気により両心室の前負荷および左室の後負荷を軽減させることで,結果として機能性僧帽弁逆流を軽減するなどの血行動態の改善をめざすものです。使用に当たっては,エアロゾル飛散リスクが高いため新型コロナウイルス陽性例では陰圧室やレッドゾーンでの管理を原則とすること,肺炎の合併例ではNPPVが排痰を阻害してしまうことには注意が必要です。また使用中に誤嚥性肺炎を併発してしまう場合もあるので留意...
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