レジデントのための心不全マネジメント
[第3回] 急性期こそタイムリーな心不全治療を!
連載 白石泰之
2022.09.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3485号より
近年,急性冠症候群などの循環器救急疾患と同様に,心不全においても「時間軸」を意識した治療の重要性が説かれています。心原性肺水腫や心原性ショックなどの致死率の高い病態では,初期治療が遅れると転がるように状態が悪化するために注意を要するのは間違いありません。また,こうした病態を超えて,「絶対リスク」が高い場合(例:多くの併存疾患を抱えて予備能が低い高齢者)にも早期の治療介入は重要と考えられます。本邦の後ろ向き観察研究ではありますが,急性心不全患者では救急隊の搬送時間および一連の搬送~治療介入までの時間と,その後の院内死亡率が有意に関連していることが,実際に報告されています1,2)。これらの背景を踏まえ,各国の心不全診療ガイドラインでは,適切な評価と迅速な介入が急性心不全診療の向上には不可欠であることが強調されています3~5)。
血管拡張薬をルーチンに投与するのはやめよう
急性心不全に対する血管拡張薬の役割は,前・後負荷を減らして傾いたポンプ機能を適正化させること。心原性肺水腫などの重度肺うっ血を呈する症例では,血管拡張薬の口腔内投与あるいは静注により酸素化を改善させ,気管内挿管や呼吸器合併症を予防することが重要です(図1)6)。心筋虚血や高血圧合併例では,硝酸薬を中心とした血管拡張薬がよく使用され,僧帽弁閉鎖不全症や低血圧を合併する重症例においても,全身の血管抵抗が上昇していれば効果的な場合もあります7)。一方,ただ単に血管拡張薬を投与しても患者アウトカムを改善する効果には乏しく,医原性低血圧から逆効果となる可能性が指摘されています8, 9)。患者の高齢化と早期離床をめざす観点からは,本邦に根付いてしまっているルーチンでのカルペリチド持続点滴などは推奨できず10),その使用期間は必要最小限とするのが望ましいでしょう。

CPAP:Continuous Positive Airway Pressure,BiPAP:Biphasic Positive Airway Pressure.
早期うっ血改善にはまずループ利尿薬を十分投与
利尿薬,とりわけループ利尿薬はうっ血症状の改善のためになくてはならない薬剤です。血管拡張薬や強心薬は,世界各国で使用方法にかなりの地域差が認められており,例えば日本は例外的に血管拡張薬の使用が多い国ですが,利尿薬はいずれの地域でも概して9割の急性心不全患者へ投与されています11)。
ただし,利尿薬は漫然と投与すればよいわけではなく,可及的速やかに投与する必要があります12)。さらに重要な点は,個々の患者に適当な量を投与することです。ループ利尿薬の過剰投与は心不全患者の長期的な予後の悪化が懸念されますが13),急性増悪期に限れば十分量の投与が推奨されます。
急性心不全患者に対するループ利尿薬の使用方法や投与量を検証した初めての大規模臨床試験(DOSE試験)14)では,フロセミド少量投与群と比較して,大量投与群で利尿効果が大きく,心不全症状の改善度も大きい傾向が認められています(統計学的な有意差はなし)。血中クレアチニン値などにも両群間で差はなく,急性期はループ利尿薬の投与量を無理に制限するメリットは少ないとも考えられます。したがって臨床現場においては,ループ利尿薬が元々投与されていない場合は,フロセミド換算で1回20~40 mg,内服している場合にはその投与量の1~2倍の十分量を静脈内投与すべきです(図2)6)。初回投与から数時間以内に反応性を評価し,十分な尿量があれば同量のフロセミド静注を12時間ごとに続けます。

*:フロセミド相当量
利尿薬抵抗性の場合は?
米国の臨床現場からの報告では,急性心不全で入院加療を受けた患者群の約3分の1のケースにおいて,2回目投与以降で利尿薬が増量されたり,あるいは一回中止となった利尿薬静注投与が再開されたりしています15)。こうした症例の多くは,期待された利尿効果が得られない,つまり「利尿薬抵抗性」が問題となります。実は利尿薬抵抗性という言葉の決まった定義はありません。しかし利尿薬の効果はある一定量以上になると天井(ceiling)に達......
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