ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第4回] “はぐれSTEMI”を探せ!
絶対に見逃してはならない心電図波形12選①
連載 徳竹雅之
2022.09.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3485号より
自信を持ってST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardiol infarction:STEMI)を嗅ぎ分けることができていますか!? 一般的でありふれたタイプのSTEMIの心電図波形は,心電図検査を行うことさえ怠らなければ,それほど解釈は難しくはありません。近年は心電図判読の進歩により閉塞性心筋梗塞(occulusion myocardial infarction:OMI)という概念が登場しており,いわゆる一般的なSTEMI波形ではなくとも緊急介入を要する心電図変化パターンが存在することがわかっています1)。これらはSTEMI equivalentsと分類されており,筆者は親しみを込めて“はぐれSTEMI”と称して忘れないように心掛けています。遭遇は比較的まれだけど,見つけて早期介入を行うことで患者の転帰を劇的に変えることができる波形です。ドラクエの「はぐれメタル」みたいなイメージで夢がありませんか? 絶対に見逃したくないですよね?
「知らないと見逃す系」はぐれSTEMI 7選
連載第4回と第5回の2回にわたって,合計12種類のはぐれSTEMIをご紹介します。今回は,「知らないと見逃す系」はぐれSTEMI 7選を見ていきましょう! 難しいことは言いません。“はぐれSTEMI”については解剖学と同様に暗記科目だと思って頭に刷り込みましょう!
◆①ショック時の「aVR誘導でSTE+広範囲な誘導でSTD」はLMCA閉塞!
左冠動脈主幹部または3枝病変を示唆し,心原性ショック/肺水腫/致死的不整脈/突然死の原因となり得るヤバイ所見です2)(図1)。基本的には重度の心原性ショックを呈していることが多いです。特異度はそう高くないと考えられつつあり,異常高血圧/発作性上室性頻拍(PSVT)/肺塞栓/大動脈解離/呼吸不全/大動脈弁狭窄症/低カリウム血症などでもaVRでのSTEがみられることは頭の片隅に置いておくとよいでしょう3)。ショックでヤバイ!状況の時には,はぐれSTEMIの可能性が高いです。
◆②「V1-3誘導でSTD」は後壁梗塞!
心電図上にはSTDしか見えないかもしれませんが,これはズバリ後壁梗塞を示唆します(図2)。「V1-3誘導でSTD」はV7-9誘導におけるSTEのreciprocal changeとなります。だかられっきとしたSTEMIです。V7-9誘導を検査してSTEを探してもよいと思います。この場合には0.5 mmをcutoffにSTEと判断すると見逃しが少なくなります4)(微妙な変化のことが多いです)。
◆③「hyperacute T wave」はOMI発症の超早期所見!
OMIが生じてから1~2分程度で生じる超早期波形とされます。高くて,太くて,非対称的なT波があれば,それは「hyperacute T wave」かもしれません(図3)。一般的に,T波の高さはQRS波の高さの75%以上は欲しいところです。また,OMI発症から1分以内にQT延長が認められるとする報告もあり5),そういう意味でもhyperacute T waveは太めになると覚えておくとよいと思います。なお,高カリウム血症で有名なテント状T波との鑑別は,波形からのみでは難しいこともあるため,同時に血液ガス測定をしておくことは必要です。
◆④「aVL誘導でSTD」は下壁梗塞!
またもやSTDだけなのに,はぐれSTEMI症例です(図4)。「aVL誘導でSTD」は下壁誘導(II,III,aVF誘導)におけるSTEのreciprocal changeです。大事なことは,下壁誘導のSTEが出現するよりも早い段階で,aVL誘導のSTDが出現し得るということです。下壁梗塞の7.5%では,「aVL誘導のSTD」が唯一の初期心電図波形であったという報告もあり6),“reciprocal negative hyperacute T waves”と称されたりしています。
◆⑤「三角形または墓石型の巨大なR波」はShark Fin sign!
QRS波とST-T部分が融合した結果として生じる,独特な巨大R波が特徴的です(図5)。ちょうどサメの背びれや墓石のように見えます。悪いイメージの通り死亡率の高いOMIと関連があります。なお,たこつぼ症候群/冠動脈攣縮/急性心筋炎などでも出現することがあります7)。
◆⑥「胸痛間欠期のT波の異常」はWellens症候群!
短期間のうちに心筋梗塞に進行するリスクの高い心電図波形として知られています(図6)。「V1-4誘導のT波」に注目しましょう。もしも胸痛間欠期にV1-4誘導で陰性T波または二相性T波がみられたら,Wellens症候群の可能性があります。胸痛が現れるとSTが上昇し,あたかも正常であるように見えることがあります(pseudonormalization)8)。逆に言えば,胸痛があるのにST-T部分に変化がない時にはもしかしたらWellens症候群かもしれない,とにらみつつの評価が必要になると言えます。
◆⑦「V1-6誘導でupsloping STD」はDe Winter's T-Wave!
左前下行枝(LAD)閉塞を示す所見です(図7)。かなりまれでLAD閉塞の2%程度でしかみられません9)。前胸部誘導においてJ点が低下したSTDがあり,ST-T部分がなめらかに上昇していく波形を見たらこれを疑います。なお,ここまで読んでくださった読者の方は,はぐれSTEMI②「『V1-3誘導でSTD』は後壁梗塞!」と似ているように感じたかもしれません。臨床的にはどちらであってもER担当医としては適切に介入に結び付けられればいいので,あえて区別はしなくてもよさそうです(後壁梗塞かde Winter patternなのか迷うのはERあるあるです)。
*
「知らないと見逃す系」はぐれSTEMI 7選をご紹介しました。7つをまとめて頭の片隅に置いておくことで,日常診療に役立ててください。
次回は,「正常なのか迷う,これってどうなんだろ系」はぐれSTEMI 5選をお送りします。お楽しみに!
今回の勘どころ
✓ 「STEMI equivalents = はぐれSTEMI」を認識しよう!
参考文献
1)CJEM. 2022[PMID:34967919]
2)Am J Emerg Med. 2007[PMID:17870500]
3)Am Heart J. 2010[PMID:21146650]
4)Eur Heart J. 2019[PMID:30165617]
5)J Am Coll Cardiol. 2007[PMID:17394962]
6)Eur Heart J. 1993[PMID:8432289]
7)J Arrhythm . 2021[PMID:34621439]
8)Am J Emerg Med. 2002[PMID:12442245]
9)Am J Emerg Med. 2016[PMID:27665360]
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