多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション
[第5回] 歯科関連介入
連載 白石愛
2022.08.22 週刊医学界新聞(通常号):第3482号より
こんな患者さん見たことありませんか?
入退院を繰り返している誤嚥性肺炎の患者さん。状態が安定して退院しても,「食欲がない」「食べたくない」と話す。また,食事をしていないために口腔清掃がされておらず,口腔清掃をお願いしても拒否されてしまう。食事に対する意欲低下も顕著に認められる。
誤嚥性肺炎患者に対して歯科の介入は有益と言われています。しかし罹患してからでは遅く,予防の段階での適切な介入(=口腔に関心を持ち,口腔を診て,整える)を普段から意識しておくことが重要です。
口腔の健康維持の重要性
肺炎を伴う高齢の嚥下障害患者は,入院中に絶食で管理される場合があります。この状態は,肺炎後の口腔の健康と転帰を悪化させる可能性があります。急性期病棟で65歳以上の肺炎入院患者162人を対象にした調査では,113人(70.0%)にう歯や歯周病を含む,さまざまな口腔の問題を認めました。また口腔に健康上の問題のない患者は,口腔の健康に問題のある患者よりも退院時の経口摂取率が高く(69.4% vs. 49.6%;p=0.03),入院期間も短かった(30.6日間 vs. 41.3日間;p=0.03)という結果が明らかになりました1)。さらに,多重ロジスティック回帰分析を行うと,退院時の経口摂取の有意な因子として口腔の健康問題が特定され,重回帰分析では口腔の健康問題が入院期間に大きく影響することが示されました1)。
適切な歯科の介入は誤嚥性肺炎の予防につながる
歯科介入は,肺炎の重症度や併存疾患に関係なく,肺炎患者の経口摂取の確立と入院期間の短縮に関連します2)。急性期病院で65歳以上の肺炎患者100人を対象に歯科介入の有無に影響を与える要因を調査したところ,歯科介入が退院時の経口摂取の確立と関連していることが示されました(オッズ比3.0,p=0.014)。また,摂食嚥下障害の重症度指標として広く用いられるFOIS(Functional Oral Intake Scale,表)2)の退院時のスコア(p=0.002),および入院期間(p=0.039)が有意な因子であることも,多重ロジスティック回帰分析で明らかになっています3)。
さらに,入院中の歯科衛生士の介入は,退院時ADLや自宅退院,在院日数,院内死亡とも関連があることが示されました(図1)4)。適切な歯科(歯科衛生士)の介入は,誤嚥性肺炎の予防にもつながると言えるでしょう。
負の連鎖を断ち切るために早期からの歯科治療・介入を
地域在住高齢者を対象にした研究では,唾液分泌と咬合力が栄養状態や虚弱と関連していることが明らかになっています5)。この研究結果が示す内容は,臨床で実感することが大いにあると思いますが,しっかり咀嚼できることは栄養療法の要となる経口摂取の維持にも寄与する上,何より「好きなものを食べられる幸せ」というQOLにもつながります。口腔ケアへのリテラシー低下は,オーラルフレイル,オーラルサルコペニアに,また食べる食品数の減少は摂食嚥下障害,低栄養へと,負の連鎖を加速させていきます。早期の歯科治療・介入は,絶食期間からの早期経口摂取の実現も可能になることから,誤嚥性肺炎の予防につながります。元気なうちからかかりつけ歯科を持ち,口腔を整える習慣をつけておくよう広く啓発を行うことも必要です。
例えば私は,患者さんの口腔内に問題がある場合,介入や治療を提案すると同時に,どうしてそうなったのか,原因や解決策を患者さんと共に考えるようにしています。口腔の問題は食習慣に起因する場合もあり,時にはご家族について話をすることもあります。オーラルフレイル予防のためにも,口腔に関心を持ってもらえるような対話を心掛けています。また,かかりつけ歯科での定期点検は,「車検と同じ」とよくお伝えしています。いつまでもおいしく食べていただくための声掛け・提案が重要です。
患者のための医科歯科連携
昨今「医科歯科連携」という言葉をよく耳にしますが,患者さんのための連携はできているでしょうか。口腔の健康は,う蝕や歯周病にとどまらず,さまざまな要因で容易に損なわれてしまいます6)。口腔の問題はADL,自宅退院,死亡率,入院期間,低栄養,嚥下障害に影響(図2)を及ぼす7, 8)ことから,歯科と連携しやすい環境や,医科,歯科それぞれの職種が互いにディスカッションできる環境を作っておくことも重要です。
誤嚥性肺炎は口腔の状態にも影響を及ぼします。早めの歯科との連携で誤嚥性肺炎の予防,絶食期間からの早期離脱,そして早期経口摂取の実現をめざしていきましょう。
今回のポイント
●繰り返す誤嚥性肺炎患者に関しては口腔への介入を行います。
●躊躇せず歯科介入を積極的に取り入れていきましょう。
●絶食期間からの早期離脱に向けて,経口摂取の準備を並行して行いましょう。
参考文献
1)Eur Geriatr Med. 2019[PMID:34652765]
2)Arch Phys Med Rehabil. 2005[PMID:16084801]
3)J Nutr Health Aging. 2021[PMID:34545917]
4)Geriatr Gerontol Int. 2019[PMID:30517977]
5)Geriatr Gerontol Int. 2017[PMID:28112493]
6)J Stroke Cerebrovasc Dis. 2021[PMID:34247054]
7)J Nutr Health Aging. 2020[PMID:33244566]
8)Clin Nutr. 2019[PMID:30538050]
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