レジデントのための心不全マネジメント
[第2回] 心不全の病態を把握しよう
連載 河野 隆志
2022.08.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3481号より
心不全マネジメントにおいて病態把握は一丁目の一番地です。「この息切れ患者さんは心不全?」「利尿薬静注で心不全は良くなっている?」「β遮断薬を開始・増量した患者さんの調子はどう?」。このように,さまざまな場面で病態把握が求められます。正確に身体所見を評価し,うっ血・低灌流の有無を評価できると,心不全マネジメントの質はグッと向上します。加えて,バイオマーカーや心エコーも補助的な診断ツールとして重要です。心不全の病態を把握する上で重要なポイントについて,一緒に確認していきましょう。
ベッドサイドで病態を把握する
病態把握の正確性を最優先するならば,Swan-Ganzカテーテルで左室拡張末期圧や心拍出量を測定するのが一番です。私が駆け出しの循環器内科医だった2000年前後はよく測定していました。ところが2005年にESCAPE試験1)が発表され,状況は一転します。Swan-Ganzカテーテルのルーチン使用は,侵襲性の高さの割に予後に影響を及ぼすほどの効果はないことが報告され,心原性ショックなどの限定された状況での使用が推奨されています。
他方,Nohria-Stevenson分類(図1)2)は,ベッドサイドで迅速に評価可能な所見から血行動態を把握するために提案されました。数ある心不全の分類の中でも,最も覚えてもらいたいものの一つです。心室拡張末期圧上昇に基づくうっ血所見と,低灌流所見の有無により4つの臨床病型に分類されることは,皆さんご存じでしょう。すなわち心不全診療において,血行動態を反映する身体所見をベットサイドで丁寧に集めることで,侵襲的検査をルーチンでしなくても,多くの場合,良好な成績を収めることができるのです。Nohria-Stevenson分類については文献などで再確認いただき,カルテ記載の際にもぜひ意識してください。

Profile A:うっ血や低灌流所見なし(dry-warm),Profile B:うっ血所見はあるが低灌流所見なし(wet-warm),Profile C:うっ血および低灌流所見を認める(wet-cold),Profile L:低灌流所見を認めるがうっ血所見はない(dry-cold)。
うっ血を評価する
はじめに,うっ血の把握に大切な身体所見の中でも,「正確に評価できているか自信がないです」という現場からの声をよく聞く,III音聴取,頸静脈怒張の2点に絞って確認していきましょう。
III音聴取:心尖拍動を確認し(心拡大のため左方に偏位していることがあるので注意),心尖部にベル型聴診器を軽く当てます。左室充満圧が上昇すると左房圧も上昇するため,拡張早期に左房から左室へ急速に流入しIII音が発生します。I音・II音の高調な音と異なり,III音は低調なため聴き逃しやすいことから,「II音の後に聴こえるかも」と,狙って確認する必要があります。III音が聴こえたら,膜型聴診器で強く押して消失するかを確認しましょう。
頸静脈怒張:頸静脈圧は右房圧を反映して,右心系の血行動態を評価する手掛かりになります。普段から頸静脈の走行(図2)をイメージしながら観察する習慣をつけると,正常な状態と怒張の違いの理解が可能になってきます。ベッドを45度挙上して,患者の右側から観察し,右内頸静脈の拍動している上端を確認します。胸骨角は右房から約5 cm上方にあり,胸骨角から内頸静脈拍動までの垂直距離が3 cm以上あれば静脈圧は上昇していると考えます。

低灌流を評価する
組織低灌流に関しては,身体所見のみで判断することの難しさをしばしば経験します。血液中乳酸値の上昇や混合静脈血酸素飽和度の低下は重要な所見で,Swan-Ganzカテーテルが威力を発揮することが多々ある病態です。ここでは迅速に誰でも評価でき, Nohria-Stevenson分類でも取り上げられている2つの所見を確認しましょう。
末梢冷感:心拍出量の低下や代償性の交感神経緊張により手指や四肢の血管収縮を生じ,皮膚血流が低下すると現れます。低灌流が強い患者ほど,四肢は冷たく湿潤し, 血色が悪くなります。ただし,患者さん(あるいは医療者)が,普段から手足の冷えを感じる場合は,判断が難しいこともあります。
Proportional Pulse Pressure(PPP):脈圧(=収縮期血圧と拡張期血圧の差)/収縮期血圧比が25%未満は,低心拍出の感度の高い指標です。左室駆出率の低下した心不全患者を対象とした研究において,PPP<0.25であれば感度91%,特異度83%で心係数2.2L/分/m2未満を検出できると報告されていま......
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