医学界新聞

書評

2022.08.29 週刊医学界新聞(看護号):第3483号より

  • 講義動画 NANDA-I看護診断 徹底解説 特別編 知っておきたい変更点 NANDA-I 看護診断 定義と分類 2021-2023

    講義動画 NANDA-I看護診断 徹底解説
    特別編 知っておきたい変更点 NANDA-I
    看護診断 定義と分類 2021-2023

    • 上鶴 重美 著
    • 定価:2,200円(本体2,000円+税10%) 医学書院

《評者》 横浜市病院協会看護専門学校教務課長

 本書と本講義動画は,看護を実践する人はもちろんのこと,看護を学ぶ人,教える人にとって看護診断の理解を深めるために役立つものです。

 『NANDA-I看護診断 定義と分類』は3年ごとに改訂されますが,今版はエビデンス強化,診断手がかり用語の統一などにより,多くの看護診断が改定されていて理解に難儀します。本書は,変更のポイントとその理由をわかりやすく解説しています。本書の著者であり,NANDAインターナショナル前理事長の上鶴重美先生による講義動画『〔講義動画 NANDA-I看護診断 徹底解説〕特別編 知っておきたい変更点 NANDA-I看護診断 定義と分類 2021-2023』を併せて視聴すると,何がどう変わったのかをさらに整理して理解できます。看護診断の開発過程において,それぞれの看護診断がどのように誕生し変更されてきたのか,それぞれの看護診断に内在する課題などを知ることで,本来どのような事象に対応した看護診断なのかが明確になります。また,看護診断を提案した各国の社会文化的背景や医療の問題に触れ,さらに関心が深まります。

 本書では看護診断の理解に役立つ2つのモデルを紹介しています。その1つ「看護実践の3部構造モデル」は,看護実践を「医学診断に基づく看護実践」「看護診断に基づく看護実践」「施設内手順に基づく看護実践」の3つの主な領域に分けて説明し,看護師独自の判断に基づく看護介入の根拠としての看護診断の位置付けを明示しています。私は,看護独自の機能とは何かを問い,常にそこに立ち戻って看護を考えてほしいという願いを込めて,看護過程の授業でこのモデルを学生に紹介しています。

 もう1つは,「臨床推論モデル」です。私は,上鶴先生の主催する看護ラボラトリーのセミナーで初めてこのモデルに出合いました。先生はこのモデルを説明する時に,看護診断を“湖を走る船のエンジン”と例えました。このモデルは,“アセスメントから看護診断の過程が根拠(診断指標・危険因子・関連因子)を持ってなされていれば,おのずと目標やアウトカム,そして看護介入が導きだされる。つまり,看護診断は看護過程の原動力となっている”ということを合点させてくれます。以来,私はこのモデルを使って看護過程と看護診断の関係を学生に説明しています。本書では,臨床推論モデルを看護診断の3つのタイプ(「問題焦点型看護診断」「リスク型看護診断」「ヘルスプロモーション型看護診断」)ごとに説明しています。このモデルを使ってタイプごとに看護診断と看護過程の関係を理解していくと,看護過程を学び始めたばかりの学生も“なるほど”とうなる必須の思考ツールになります。

 さらに本書では,新しく誕生した22の看護診断を,モデルケースを使って解説しています。私はこのモデルケース付きの解説を読みたくて本書の出版を心待ちにしておりました。本書では,前述の「臨床推論モデル」を使ってアウトカムや介入も含めてモデルケースを解説しているのでさらに理解しやすくなっています。

 本書は,看護診断を基本から学びたい人にとっても役立つ1冊です。看護診断の構造的な理解を助けてくれること間違いなしのお薦めの良書です。


《評者》 東京都医学総合研究所客員研究員

 先日,看護師は特定行為研修制度によって,ミニドクターになるのではないかという質問を受けました。その看護師の意見では,2015年に保健師助産師看護師法第37条が改正され,創設された特定行為研修制度によって,さらに医学知識と技術を学修することになり,看護師は医学に傾倒し,本来の看護を忘れてしまうのではないかというのです。このような疑問を抱いて,看護師は,改めて,看護学や看護業務の本質を考え直しているようです。

 この本の構成は,1.訪問看護師の思考プロセス,2.判断力を鍛える方法,3.自律的な学びを支えるもの,となっており,訪問看護師が行う看護判断についての著書としては大変新しい書籍です。また,この本の特徴は,単に読んで終わりではなく,基本を読み終わった後に,自己トレーニングでそれを身につけるように導くというところにあります。

 著者は看護判断を「医学的根拠に基づき推論する予測的判断と対話に基づく価値判断をすり合わせ,療養者の思いを多職種連携の中心に置き,その時の状況,その場にあった判断を導きます」と説明し,事例を用いて実践的に医学と看護学を統合して判断する考え方を示しています。

 自己トレーニングは,まず,看護判断と「訪問看護師の判断を支える4つの力と最善解を導く意思決定の共有を具体的に解き明かす」考え方を理解します。その後,事例と事例に関する質問が提示され,それに読者が回答する方式によって,自己トレーニングを容易にできるように書かれています。

 さらに,「在宅ケアの現場で判断に悩んだときには,ぜひこの本を手に取っていただければと思います」と記載し,看護やその裏打ちを成す看護学は,医学を学んだからといって失われてしまうような薄いものではないと主張し,実践で困ったときには,看護学に戻ってくれれば,良い解に出合えると励ましてくれます。

 この本は訪問看護師を対象に書かれていますが,医療施設内で働いている看護師にも通ずる判断法や考え方が書かれています。これから訪問看護師として働いてみたいと考えている方には,入門書になることでしょう。また,新人看護師が困っている場合には,実践の中心を成す判断力を強め,自信を持てるように導いてくれることでしょう。看護学生にとっては,考える力を自己トレーニングできる副読本として,看護力を育んでくれる書籍だと思います。

 ぜひ,看護師の皆さまに手に取っていただきたい書物です。


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