MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2022.07.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3477号より
《評者》 森内 浩幸 長崎大教授・小児科学
「感染症学」と「小児科学」が有機的に結びついた傑作
齋藤昭彦氏はわが国の小児感染症診療を牽引する存在である。米国で本格的に小児感染症の診療と研究のトレーニングを受け,帰国後は国立成育医療研究センターを経て,新潟大学に移った後も国内の多くの小児科医に感染症教育を実践し育ててきた。その多くの仲間たち,弟子たちの協力の下で,本書が編さんされている。
本書は,齋藤氏が薫陶を受けた青木眞氏の『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)の小児版というコンセプトで書かれたというが,単なるオマージュではなく「感染症学」と「小児科学」が有機的に結びついた傑作であり,今後わが国における小児感染症診療のバイブルとなるだろう。
齋藤氏が述べているように,小児には成人とは異なるさまざまな特色があり,それが感染症の分野でも単純に感染症学の小児版とするだけでは済まない難しさを持っている。本書では,総論の中で小児という宿主の特殊性を読者が十分に理解できるように解説し,また,小児ならではの感染症各論も丁寧に展開している。
本書ではまた,感染症との鑑別が必要となる病態の解説も加えるとともに,症候学的アプローチ,感染臓器からのアプローチ,原因微生物からのアプローチと多角的に小児感染症をとらえ,実際のプラクティスの中でも使いやすく構成されている。エビデンスに基づいて書かれてあるけれども,ガイドラインのような味気なさはない。
本書は教科書として腰を据えて読み込む部分,現場のレファレンスとしてフットワークよろしく使い込む部分に加えて,指導医がコーヒーブレイクの時に自分の経験談やフィロソフィーを話してくれるようなMEMOが随所にちりばめられていて,それがまた読んでいて楽しいだけではなく教科書的な内容だけでは学べないことを教えてくれる。
すでにSARSコロナウイルス2型のような新しい病原体についても記載されているが,感染症診療の進歩は日進月歩であるため,今後も本書は随時改訂されていくことと思われる。しかし長い年月が経っても,本書のコンセプトが生き続ける限り,Nelsonの小児科学やMandellの感染症学の教科書のような古典になっていることと確信する。そして小児感染症という分野が単純に小児科の中の感染症でもなく,感染症の小児領域というものでもない,ユニークで重要な分野であることを示してくれることだろう。
《評者》 上田 剛士 洛和会丸太町病院救急・総合診療科部長
この一冊だけでさまざまながんに対応できる
ジェネラリストにとって心強い味方ができた。『ジェネラリストのためのがん診療ポケットブック』である。2人に1人はがんに罹患し,3人に1人はがんで死亡している時代において,がん診療はジェネラリストにとって避けることのできない分野である。患者・社会からのニーズも高く,この分野に臨むことにやりがいがあることは言うまでもない。その一方で,がん診療は壮大な学問であり,ジェネラリストが挑むにはいささかハードルが高かった。本書ではがん診療のメインストリームであろう薬物療法についてあえて深く踏み入らないことで,このハードルを一気に下げた。その代わりにジェネラリストが知りたい内容が盛りだくさんとなっており,がん薬物療法を普段行っていないジェネラリストのために特化した一冊である。
例えばがんの予防については患者からの質問も多く,ジェネラリストにとって知らなければならない知識の一つであるが,「がんの19.5%が喫煙による」「適度な運動はがん死亡リスクを5%下げる」などの具体的な記述は患者指導に大いに役立つであろう。また,がんのリスクとなる食品,リスクを下げる食品についても言及されている。がんを疑う徴候に関しても,例えば,Leser-Trélat徴候は3~6か月以内の急性発症で瘙痒感を伴うことが脂漏性角化症との違いなど,臨床的に重要な知識が詰め込まれている。
コンサルテーション先が定まらず対応に困ることも多い「原発不明がん」や「高齢者のがん」「遺伝性がん・若年性がん」についても章が設けられており,この一冊だけでさまざまながんに対応できる。がん患者とのコミュニケーション,アドバンス・ケア・プランニング,緩和ケアに関してもカバーしている。がんサバイバーケアの記述も充実しており,いつ,何によってフォローすべきかを教えてくれ,ジェネラリストを「オンコ・ジェネラリスト」へと昇格させてくれる一冊と言えよう。
がん薬物療法に関してはレジメンの詳細は紹介されていないものの,免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法の副作用管理についてはしっかりと記述されている。薬物療法中のがん患者であっても,併存症や合併症のためにジェネラリストあるいは臓器別専門医が診療する機会は多いからである。がん薬物療法を普段行っていないジェネラリスト/臓器別専門医は,この書籍をポケットに忍ばせておくことで自信を持ってがん患者を診療できるようになるだろう。オンコロジックエマージェンシーについても記述されているので,救急や一般外来の初療を担当する医師にもお薦めだ。
《評者》 勝俣 範之 日医大武蔵小杉病院教授・腫瘍内科
緩和ケアに携わる医療者にとって必携の書
緩和ケアは,がんと診断された時から提供されるべきとしています(厚労省,2012年)。この『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』は,日本の緩和ケアの第一人者の先生方が中心になって,最新の情報をもとにつくられた実践的な教科書であり,マニュアルです。
近年,緩和ケア研究は,治療研究にも劣らず,たくさんの臨床研究が行われ,多くのエビデンスが積み重ねられてきています。本書では,その得られた最新かつ最善のエビデンスをベースに,きちんとレビューされ,丁寧な記載がなされている点が素晴らしいと思います。また,文献にはPMIDが記載されているので,実際に参照する上でとても便利です。さらに,おのおのの治療やケアに対して★がつけられており,★は「観察研究などがある」,★★は「RCTが1つある」,★★★は「メタアナリシスまたは複数のRCTがある」としていて,とてもわかりやすいです。
本書は,がんの緩和ケアだけではなく,非がんの緩和ケアについても書かれています。今後は非がん患者にも緩和ケアが広がっていくと考えられますので,がん以外の医療従事者にとっても役に立つものと思われます。細かいところですが,表紙の裏側の見返しの部分にはオピオイドの換算表が載っているため,必要なときにはすぐ調べることができます。このように細かいところまで気を配られていますし,各項目の記述に関しては,きちんとレビューがなされているせいか,かなり細かいエビデンスに関しても,信頼できる記述となっています。私も数多くの書籍の編集作業をしてきましたが,この本のように多くの執筆者がいる場合,整合性の問題やエビデンスの考え方を統一させる点など,編集の労は並大抵ではなかったと思われます。編集作業をされた監修,編集の先生方に敬意を表したいと思います。
今後,がん診療で大切なことは,がん治療医と緩和ケア医との連携をどのようにうまくやっていくのか,という点であると考えています。本書では,早期緩和ケア(early palliative care)に関しては触れられていませんが,早期緩和ケアは,がん治療医と緩和ケア医が連携して行っていくべき大切なことですので,次回改訂時には,早期緩和ケアもぜひ紹介していただきたいと思います。
この本は,将来緩和ケアをめざす若き医師だけではなく,緩和ケアにかかわる医師を含めた医療従事者は必携の本と思われます。また,がん治療医もぜひ手に取ってほしいと思います。そして,日本の緩和ケアの質が少しでも向上し,がん患者さんの助けになることができるように期待します。
《評者》 佐和 貞治 京府医大教授・麻酔科学
日々の診療で役立つ「麻酔科研修の友」
この『麻酔科レジデントマニュアル』は,白衣やスクラブのポケットに携帯できる,「麻酔科研修の友」である。麻酔科領域で研修を行う医師が,日々の診療業務の中で取り組む研修課題についての重要なポイントを確認して整理して自分の知識や技術として身につけていく上で大変役に立つ。2008年の初版『臨床麻酔レジデントマニュアル』(編集:古家仁)の出版から10年以上を経て,今回,奈良医大麻酔科学教室川口昌彦教授の編集のもとで,刷新が必要な部分について改訂されて新たに第2版として出版された。
いくつかある同様の麻酔科研修マニュアル本の中で,本書の最大の特徴は,何と言っても奈良医大麻酔科学教室とその関連施設スタッフ総勢58人もの方々が協力して作成された内容であることである。麻酔科の後期研修は,2015年度から日本麻酔科学会による麻酔科専門研修プログラム制度がスタートし,2018年度には日本専門医機構の麻酔科領域専門研修制度に引き継がれた。3~4年間の後期研修は,基幹施設の管理のもとで,複数の連携施設が研修に参画してプログラムが構成される。後期研修医(専攻医)は,基幹施設での研修に加えて,連携施設での研修も行う。したがって,研修者は,基幹施設や連携施設などにおいてさまざまな指導医と接し,いろいろな考え方ややり方を教えられることとなる。そのことは多様性を学ぶ上では利点にもなるが,場合によっては指導者ごとに言うことが異なり,研修者は施設ごとに違うことを言われて振り回されてしまうという欠点にもなる。奈良医大麻酔科学教室がかかわる麻酔科専門研修プログラムにおいて,基幹施設,連携施設のスタッフが総勢で一つのチームのように研修マニュアルを整備して,研修者に基本的な研修のガイダンスとして提供されるということは,研修における基本的な考え方や手技について統一感を持った後期研修の提供が可能となり,複数施設で連携して行う研修プログラムの中では大きな研修の質の担保につながるものであろう。
内容的にも,手術麻酔の基本と実践,集中治療,ペインクリニック,緩和ケアの基本と実践,そして医療安全と研修の重要な領域が網羅されている。細かいところでは,術前管理では「プレハビリテーション」や「周術期口腔機能管理」などの先進的な部分の項目が含まれているなど,奈良医大が全国に先駆けて取り組んできた内容が特徴として表れている。また麻酔のモニターや基本手術,気道確保の道具,合併症などについても,コンパクトに整然と重要点がまとめられている。「術後管理の基本」の項目では,起こり得る麻酔関連の合併症についても十分に解説されており,研修における合併症理解への姿勢が示されている点は印象深い。
麻酔科領域の研修プログラムでは,集中治療やペインクリニック・緩和医療などのいわゆるサブスペシャルティ領域は,現状では必修化されていない。一方で,麻酔科専門医認定の口頭試験では,全2問の症例問題のうち1問は,集中治療やペインクリニック・緩和医療が深くかかわる問題が出題されることも多い。口頭試験では70~80%の合格点が求められることを考えると,ここでサブスペシャルティ領域についての問いに適切に回答できないと,合格をつかみ損ねてしまうかもしれない。本書では,麻酔科専門研修の中でのサブスペシャルティ領域の研修についてもどういう点が重要であるのかを明示している。
本書は,麻酔科領域の後期研修医を対象にしたものと考えるが,麻酔科へのローテート中の初期研修医に対しても,麻酔科学の面白みや深みを伝える上では大いに役に立つであろう。麻酔科学の研修内容をこのように「麻酔科研修の友」としてコンパクトにまとめられた川口教授以下,奈良医大麻酔科学教室の関連施設のスタッフの先生方には大いなる敬意を表したい。
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