医学界新聞

多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション

連載 百崎 良

2022.06.20 週刊医学界新聞(通常号):第3474号より

1週間前に誤嚥性肺炎で入院した80歳女性。入院前は要介護状態であったものの,就寝時以外はベッド上で過ごすことはなかった。しかし,入院を契機にベッド上での生活を強いられるようになり,身体機能も低下し始めた。

 誤嚥性肺炎患者に対しては理学療法士や言語聴覚士が介入し,離床訓練や経口摂取訓練,間接的嚥下訓練,刺激療法などのリハビリテーション治療が提供されています。今回は,各種訓練の概要と,その効果について紹介します。

◆なぜ早期からの離床が必要なのか

 誤嚥性肺炎患者に対しては早期離床訓練が重要とされ,例えば発症早期に離床を含めたリハビリテーションを行うと身体機能低下を予防1),死亡率を低下させることが報告されています2)。また,理学療法士による早期離床訓練は退院時経口摂取自立を促進するとも言われており3),他にも下記のようなメリットが挙げられます。

●日中,座位姿勢でいることが意識障害の改善やせん妄予防に効果を認める4)
●座位の保持が安全な経口摂取につながる5)
●口腔環境の悪化,経口摂取能力の低下を防ぐ(ベッド上で上を向いて寝ていると,頸部が後屈して口が開きやすくなり,口腔内が乾燥してしまうため)

 上記のメリットに鑑みると,誤嚥性肺炎発症後,意識状態,呼吸状態,循環動態が落ち着いていれば早期に離床を開始すべきと言えます。離床訓練に当たって参考にしたいのは,日本離床学会が提唱する離床プログラムです(図16)。このプログラムでは血圧,心拍数,呼吸状態などについてアセスメントを行った上で,ヘッドアップ,端座位,立位・歩行訓練へと離床のステップを進めていきます。また離床訓練と並行して,日中はできる限り車椅子に乗ってもらうなど,病室での安静度も上げていく必要があります。そうすることで生活リズムが整い,覚醒度も向上し,誤嚥性肺炎の再発予防が可能となるのです。

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図1 日本離床学会の離床プログラム(文献6より転載)
血圧,心拍数,呼吸状態などについてアセスメントを行った上で,ヘッドアップ,端座位,立位・歩行訓練へと離床のステップを進めていく。

◆絶食管理を避けるべき理由

 誤嚥性肺炎で絶食管理となると,口腔環境が悪化し経口摂取能力がさらに低下するため,早期に嚥下機能を評価し,不必要な絶食を避けることが重要です。連載第2回でも述べたように,経口摂取再開の可否は意識状態や呼吸状態などの全身状態の評価と嚥下機能評価を総合しての検討が求められます。この時,とろみ水やゼリーのようなお楽しみレベルの経口摂取でも,重要な意味を持つことが報告されています7)。同研究は,ぎりぎり経口摂取ができるかできないかというレベルの誤嚥性肺炎患者を対象に,水ゼリーを提供した場合と絶食管理した場合とでどうなるかを比較したものですが,水ゼリーを提供した群で最終的な誤嚥割合が減少し,肺炎の再燃も少ないとされました。こうした研究もあることから,できる限り絶食管理は避けていただきたいと願うばかりです。ただし,どうしても経口摂取できない場合は,口腔環境がさらに悪化しないように口腔ケアの徹底が求められるでしょう。

 また,食べるときの姿勢も重要です。頸部前屈位にしたほうが水分の誤嚥が減ることは多いものの,口腔から咽頭への送りこみが難しいケースでは前屈にしないほうが送りこみやすい場合があります。一般的には背もたれを倒してリクライニングぐらいにしたほうが食塊の流入速度を遅くでき,嚥下反射惹起遅延のある患者では有効とされています。一方で,頸椎前面の骨突出が食道入口部の開大を阻害しているケースも時々経験します(図2)。骨突出は左右差があることが多く,その場合は骨突出のある方向に頸部回旋し,非突出側の食道入口部に優先的に食塊を誘導させる対応が有効です。

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図2 頸椎前面の骨突出が食道入口部の開大を阻害(矢印)している例

 誤嚥性肺炎患者に対しては,食べ物を使用しない間接的嚥下訓練が行われることがあり,退院時の経口摂取自立につながることが報告されています8)。しかし,誤嚥性肺炎患者は身体機能や認知機能が極端に低下している場合が多く,効果的な訓練の実施はなかなか難しいとされます。その中でも舌骨の挙上や食道入口部開大を改善させる効果のある開口訓練は,比較的容易にできるため誤嚥性肺炎でも適用しやすい訓練法と言えます9)

 嚥下障害に対しては,さまざまな刺激療法が用いられています。その多くは,あまり効果が高くない傾向にあるものの,頸部に対する感覚閾値での経皮的電気感覚刺激は,嚥下反射の惹起性・気道防御力の改善に有効であると報告されています10)。また,気管切開が必要となった重度嚥下障害者に対する咽頭電気刺激により,気管カニューレ抜去やカニューレのレベルダウンができた患者が有意に増加したとの報告もあります11)。このような刺激療法は,経口摂取能力の改善までは難しいかもしれませんが,咽頭感覚の改善や気道防御力の改善目的には使用可能と言ってよいでしょう。

●誤嚥性肺炎患者に対しては,早期からの離床訓練や経口摂取訓練が重要です。
●早期に嚥下機能を評価し,不必要な絶食は避けましょう。
●姿勢の調整や刺激療法等を組み合わせた包括的な対応が功を奏す可能性もあります。


1)Geriatr Gerontol Int. 2016[PMID:26460175]
2)Arch Phys Med Rehabil. 2015[PMID:25301440]
3)Eur Geriatr Med. 2019[PMID:34652725]
4)J Rehabil Med. 2017[PMID:28980699]
5)Min L, et al. Effect of feeding management on aspiration pneumonia in elderly patients with dysphagia. Chin Nurs Res. 2015;2:40-4.
6)日本離床学会.E-MAT活動マニュアル.2015.
7)J Clin Gastroenterol. 2022[PMID:33471491]
8)Geriatr Gerontol Int. 2015[PMID:25109319]
9)Arch Phys Med Rehabil. 2012[PMID:22579648]
10)Clin Interv Aging. 2017[PMID:29158670]
11)Lancet Neurol. 2018[PMID:30170898]

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