多職種で支える誤嚥性肺炎のリハビリテーション
[第2回] 経口摂取能力評価
連載 百崎 良
2022.05.23 週刊医学界新聞(通常号):第3470号より
こんな患者さん見たことありませんか?
75 歳男性。誤嚥性肺炎の発症を契機に入院後,絶食管理となった。約1 か月の入院を経て退院したものの,経口での食事摂取は再開できていない。患者さんは再度口から食べることを希望されている。
上記のケースのように,もともと経口摂取ができていたにもかかわらず,誤嚥性肺炎で入院後にできなくなってしまうことは珍しくありません。これには誤嚥性肺炎に伴う意識障害や呼吸不全,絶食管理,不適切な栄養管理に伴う低栄養による嚥下障害の増悪が関与しています。重症度が高い誤嚥性肺炎の場合,なかなか経口摂取自立できないケースが多く,高齢での誤嚥性肺炎による入院後に絶食管理となった患者のうち4割以上が,30日以内に経口摂取自立を達成できないと報告されています1)。また,「とりあえずの絶食管理」が経口摂取自立割合を下げるとの報告2)もあります。もちろん絶食管理にせざるを得ない患者もいますが,誤嚥性肺炎で絶食管理となると口腔環境が悪化し,経口摂取能力がさらに低下します。そのため入院後早期に嚥下機能を評価し,不必要な絶食を避けることが重要です。
全身状態と経口摂取能力の関係性
本稿では嚥下機能と経口摂取能力とを明確に分けて考えたいと思います。なぜなら全身状態が悪いと,「潜在的な嚥下機能は保たれているにもかかわらず,本来の嚥下機能を発揮できないため経口摂取能力が低下する」といったことが生じるからです。この場合,全身状態の改善に伴い,経口摂取能力が徐々に回復するケースが多いです。
誤嚥性肺炎による入院後の経口摂取開始の遅延因子として,低体重や肺炎重症度,併存疾患等が報告されています(表)1)。特に意識状態や呼吸状態が悪化すると,本来の嚥下機能の発揮が困難になるため,経口摂取能力が低下します。例えば,傾眠傾向の意識状態であれば,嚥下反射がなかなか生じずに誤嚥のリスクが高まったり,酸素が5 L以上も必要な呼吸状態では,嚥下運動と呼吸運動の同調性に支障が生じたりします。
さらに,口腔環境が悪化すると食塊の送り込みが不良となり,口腔残留が増加しやすく,これまた本来の嚥下機能を発揮できません。口腔と咽頭はつながっているため,口腔内が汚れている場合は咽頭も汚染されている可能性が高く,咽頭残留も増加しやすいと言えます。視診だけではなく,手袋を装着した上での触診が必要でしょう。
また,経過中に全身状態が悪化してしまうと,経口摂取能力も低下します。その都度再評価を必ず行うよう,注意しましょう。
図13)は誤嚥性肺炎の経口摂取を考えるための羅針盤として筆者らが考案した「経口摂取ピラミッド」です。嚥下機能評価に先駆けて,土台となる意識状態と呼吸状態,口腔環境の評価を行う必要があることをイメージできるよう作図しました。診療に当たる際はぜひ意識してみてください。
嚥下機能の評価と経口摂取の開始
意識状態,呼吸状態,口腔環境の評価ができたら,嚥下機能の評価を行います。発声可能であれば,まずは湿性嗄声の有無を確認。咽頭部に唾液や分泌物の貯留があり,痰の絡んだような湿性嗄声が聴取されれば,経口摂取を開始できないことがほとんどでしょう。
湿性嗄声がなければ飲水テストを行います。ここで注意したいのは,既存の飲水テストは嚥下障害の有無や,水を誤嚥なく嚥下できるかどうかの評価には活用できるものの,実際にどのような食事を開始できるのかに関する情報は得られないことです。そこで筆者らは,誤嚥性肺炎患者がミキサー食を経口摂取できるかどうかの評価法として,二段階とろみ水テストを考案しました(図2)4)。このテストは,中間のとろみ水をむせ,湿性嗄声,呼吸変化なく2回以上嚥下できれば,ミキサー食などの咀嚼の必要がない食形態を経口摂取開始可能と判断できるものです4)。気管切開されている場合は,食紅などで着色したとろみ水を飲んでもらい,気管切開孔から吸引されるかどうかを観察するとよいでしょう。
一口量の嚥下において嚥下運動が何度も観察される場合は,咽頭残留の存在が示唆され,3回以上観察される場合には注意が必要です。ただし絶食後の初回評価では本来の嚥下機能を発揮できないことが多いです。何度も嚥下運動を観察していくうちに,複数回嚥下が必要なくなる症例もよく経験するため,嚥下の場面を何度も観察する必要があります。
咀嚼が求められる食形態へ移行できるかの判定には,咀嚼状態の評価が必要で,実際に食べているところを観察するしかありません。咀嚼が必要だけれどもほどよく柔らかい食品として,筆者らは羊羹を汎用しています。評価時は,下顎の単なる上下運動だけではなく,横方向の運動があるかどうかも観察し,嚥下後に口腔内残留の有無を確認します。何度か食品を食べてもらい,むせ,湿性嗄声,呼吸変化がなく,かつ口腔内残留の増加がなければ,少し咀嚼が必要な食形態も経口摂取可能と判断できます。
嚥下反射の惹起遅延がある患者には,水分にとろみをつければ飲水における誤嚥は減らせますが,ストローで吸うことが困難なほどの濃いとろみ5)は,咽頭残留に伴う嚥下後誤嚥,飲水量低下に伴う脱水のリスクを伴います。一方で,十分な口腔ケアを行った上でとろみのついていない水分を食間に提供すると,肺炎を起こすことなく飲水量を増やせるとの報告もあります6)。実際,口腔環境が良好であれば,多少水分を誤嚥しても何も問題が起こらないことが多いと言えるでしょう。とろみ水が誤嚥性肺炎を予防する根拠は皆無であるために,水分のとろみは可能な限り薄めをお勧めしたいです。
食形態の検討時は介護負担も考慮する
経口摂取を開始しても,食欲低下や咽頭への送りこみ不全により食事に時間のかかる症例はしばしば経験されます。健康的な生活を維持するのに必要な栄養全てを経口から摂取できるかは,食事を開始してみないと判断できないことも多いです。咀嚼が必要のない食形態に比べ,咀嚼が必要な食形態のほうが,食事時間が延長するケースが多いことから,介護負担の増加にもつながります。もしも食事に介助が必要な場合は,介護負担感を減らすために食形態を下げることも検討する余地があると言えるでしょう。
今回のポイント
●「とりあえずの絶食管理」は経口摂取自立割合を下げます。
●意識状態や呼吸状態,口腔環境の土台を固め,嚥下機能の改善をめざしましょう。
●二段階とろみ水テストの実施により,ミキサー食を経口摂取できるか判断しよう。
参考文献・URL
1)Geriatr Gerontol Int. 2016[PMID:25953259]
2)Clin Nutr.2016[PMID:26481947]
3)百崎良,他.リハビリテーション栄養プラン.総合リハ.2011;39(7):661-4.
4)百崎良,他.高齢誤嚥性肺炎患者のペースト食誤嚥に対する二段階トロミ水テストの有用性.静脈経腸栄養.2012;27(4):1063-9.
5)日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会.日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021.日摂食嚥下リハ会誌.2021;25(2):135-49.
6)Dysphagia. 2017[PMID:27878598]
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