医学界新聞

書評

2022.05.09 週刊医学界新聞(通常号):第3468号より

《評者》 北大消化器外科Ⅱ/クリニカルシミュレーションセンター准教授

 私が訳者代表の今村清隆先生と知り合ったのは,彼が手稲渓仁会病院の外科研修を修了し,外科スタッフとして研修医の指導担当を始めた頃である。私自身カナダ留学から現在所属している北大へ戻り,日本国内の外科医が若手外科医教育の情報を共有できる全国レベルの組織づくりに着手したのもこの時期であった。同じ札幌市内で勤務している今村先生とは臨床現場での指導方法,北海道や全国の若手外科医の教育について,時を忘れて語り合ったことを覚えている。それから現在まで,今村先生の教育に対する情熱はオンラインというツールを得て,北海道の枠にとどまらず,全国,海外へと広がっていったのである。

 本書は今村先生が研修医向けの勉強会でテキストに用いてきた原著『Surgery:A Case Based Clinical Review』(第2版,Springer)から,重要な内容を抽出して日本語訳したものである。私が感銘を受けたのは,23人の訳者の中に,勉強会へ参加していたであろう多くの手稲渓仁会病院の初期研修医達が含まれている点である。専門性の高い領域の翻訳作業をしながら膨大な関連知識を確認していく経験が,彼らが担当したテーマの理解をどれほど深いものにしたかは容易に想像できる。この翻訳共同作業そのものが大きな学びの輪を創造したことであろう。

 本書の素晴らしさは,各テーマの内容が診断から治療まで必要とされる知識を整理しながら,論理的に思考していくプロセスに寄り添うように構成されている点である。読者はまるで一人の患者を外来で初めて診察し,手術,術後管理をしているような疑似知識体験を通して各テーマの理解を深めていくことができる。また,同じ外科チーム内でも議論が分かれやすいトピックス,または外科領域の発展により従来のエビデンスが更新していく可能性を念頭に,「議論の起こっていること」についての知見が含まれている点も外科医の痒いところに手が届く配慮である。

 読者の方には本書のWEB付録であるバリエーションに富んだ症例提示の音読データもぜひ活用していただきたい...

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