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症例で学ぶ外科医の考えかた
外科診療の基本がわかる30症例

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米国で医学生の外科クラークシップや卒後の外科インターンシップの際に広く愛用されている教科書の日本語版。厳選された症例をベースに、短い質問とその回答・解説を繰り返す構成となっており、主要な症候の鑑別診断から、身体所見、病態生理、必要な検査、治療まで、一連の流れに沿って外科の臨床で必要となる基本的知識が身につく。Web付録として症例提示の英文読み上げ音声付き。一人前の外科医を目指すすべての方におすすめしたい1冊。

訳者代表 今村 清隆
発行 2022年02月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-04784-5
定価 6,600円 (本体6,000円+税)

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WEB付録の音声データはこちら

各章の症例提示の原文を読み上げた音声ファイルをいずれも2パターン用意しています。こちらよりネイティブによる実際の発音をご確認いただけます。

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日本語版の刊行に寄せて
Christian de Virgilio, MD

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 I am truly humbled and honored to learn from Dr. Kiyotaka Imamura, a wonderful surgical educator, that our book has been translated into Japanese by a dedicated team. I am also thankful for the invitation to make a few comments about the importance of being a lifelong learner.

 When I started medical school, I knew that my studying mattered. I had a duty to be the best physician I could be for the sake of my patients. I made a commitment to reading and learning every day. As a general surgery resident, I brought a large Surgery textbook with me to the hospital in my backpack, so that I could read whenever I had spare time. Daily reading not only helps patients, but it also makes us better teachers. As physicians we take an oath to share our knowledge with future physicians but, it requires great effort and courage to be an effective teacher. Learning gives us the confidence to teach others. We must have the strength and humility to admit to our students when we do not know something.

 As a new faculty, I made a commitment to teach the medical students every Saturday morning. I assigned a topic in advance to give the students an opportunity to read and prepare. We sat in a circle and began with a case vignette. Borrowing from the Socratic method, I asked probing questions and gave each student an opportunity to answer, and to ask questions back. I would take time to observe each student’s face to see if my explanations required clarification. These weekly sessions, conducted for ten years, became the inspiration for this book, Surgery:A Case Based Clinical Review.

 Students inspire me. I hope this book stimulates you to learn, and that you enjoy this book as much as we enjoyed writing it. I hope to one day have the opportunity to visit Japan, a beautiful country with a rich history of surgical excellence. Doumo arigatou.

 If you have any questions or comments, feel free to email me cdevirgilio@lundquist.org or follow me on Twitter@drdevirgilio.

 Best of luck to you in your surgical career!

 Christian de Virgilio, MD

日本語版の序
今村清隆

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 北海道札幌市にある手稲渓仁会病院には,海外で臨床留学をしたいという研修医が全国から集まります.私は,前任者から引き継ぐ形で,英語の教科書や問題集を用いて研修医向けの外科勉強会を毎週末に行っていました.それを発展させるために,2019年1月からは全国の医学生を対象に新たなオンライン勉強会を開始しました1, 2).教科書として選んだのが本書の原著『Surgery:A Case Based Clinical Review』(Springer)です.これまでさまざまな英語の書籍を勉強会の資料として試していましたが,その中でも,こちらの原著は重要な項目をわかりやすくまとめていて,初学者にとって有用と感じたからです.

 2020年4月,新型コロナウイルス感染症による最初の緊急事態宣言が出されました.落ち込んでばかりいられないと奮起しました.オンラインを使うことで施設の垣根を越えた教育が可能であることを示すために3),そして,新しい課題に取り組むことで日々前向きに生活できるようにと,原著第2版の翻訳作業を始めました.

 当院の初期研修医・外科専攻医および,全国にいる外科専門医の仲間に声かけしたところ,一次翻訳者14名,二次翻訳者8名が協力してくれました.私を合わせると総勢23名の合作です.必ず二次翻訳者には外科専門医以上の資格を持つ方に担当いただいております.原著では59章ありますが,そのうちより重要と考える30章を選んで,翻訳することにしました.必要な作業はビジネスチャットツールであるSlackを用いてすべてオンラインで行いました.結果として一次翻訳,二次翻訳,最終チェック,校正という流れが手にとるようにわかり,メールでやりとりするよりもスマートに行うことができました.

 英語ができれば目の前の世界が開けるのは間違いないのですが,日常生活の中でなかなか学ぶ場所がありません.日本語版の特典として,知り合いの英語を母国語とする先生方にお願いして症例提示の部分だけ音読していただきました.QRコードで読み取れば実際の発音を確かめることができます.また,私が主催する学生向けのオンライン勉強会は毎週継続しており,2021年12月までに140回を超え,のべ1,235名が参加しました.今後も継続していきますので,参加ご希望の方はご連絡ください.もちろん初期研修医の方も歓迎します.この翻訳本を片手に原著に挑戦してみるのもよいのではないでしょうか.外科分野に関心があって,かつ英語にも興味がある学生や研修医はどちらかというと少数派であり,各大学や研修施設で特別なプログラムを作ることが難しいと思います.オンラインを駆使することにより,場所を問わず学ぶ意欲のある方が容易に集まれるわれわれの強みだと思っています.
 途中,慣れない翻訳作業でさまざまな障壁があり遅れましたが,医学書院の飯村祐二様をはじめとする多くの方にサポートをいただき無事に出版することができました.協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます.

 「一滴の油,これを広き池水のうちに点ずれば,散じて満池に及ぶとや」.
 これは江戸時代の蘭学医で解体新書を訳出した杉田玄白の言葉です.250年前の翻訳作業は現在とは比較にならないほど困難であったと想像します.苦労のほどは比較にならないと思いますが,同じ翻訳者としてはわれわれの本も同様に日本の医学の進歩に貢献してくれることを願っています.

 コロナ禍でも一緒に頑張った個性溢れる翻訳者の仲間の今後の成功を祈願して.また,外科に興味を持ってくれる医学生や研修医が,一人でも増えることを期待して.

 2022年1月吉日
 訳者代表 今村清隆
 連絡先 kiyotaka_imamura@hotmail.com

1)今村清隆:全国の医学生が英語で学ぶオンライン外科勉強会.週刊医学界新聞 第3329号,医学書院,2019年7月8日
2)今村清隆,中村文隆:第120回日本外科学会定期学術集会 特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」.地方にある外科教育病院の試み―外科と英語を学びたい医学生に対するオンライン勉強会の開催.日外会誌 122(2):233-235, 2021
3)今村清隆:Covid-19流行中でも若手外科医を育てる.臨外 76(4):488, 2021

推薦の序
Julie Ann Freischlag, MD

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 このたび,Christian de Virgilio先生とAleg Grigorian先生が編集した『Surgery:A Case Based Clinical Review』の第2版の序文を書かせていただくことになりました.

 初版でも書かせていただいたのですが,本書は2015年の出版以来,複数の医学部(メディカルスクール)で採用され,Springer社の医学書ではトップ5に,Amazonではトップ7に入るなど,とてもインパクトがありました.本書は,セクションごとに構成された短い章を読み,各セクションの最後には質問があり,重要な内容の理解度をすぐに試すことができるようになっています(訳注:日本語版ではセクションは廃止し,原書の全59章のうち重要な30章を抜粋して翻訳している).

 de Virgilio先生は,私がシニアレジデントだった頃,小児外科のローテーションに参加していた医学部3年生でした.彼は素晴らしい学生で,その後,私と同じように血管外科医になりました.彼は素晴らしい指導医であり,ロールモデルとなっています.現在,彼はUCLA医学部の外科学教授,Harbor-UCLA Medical Centerの外科部長,そしてCollege of Applied Anatomyの共同代表を務めています.

 この教科書は,医学生にとって宝物のようなものです.各章は,患者の置かれている状況を説明することから始まり,病歴や身体検査に必要な情報が記載されており,その後,学生は検査や診断をどう組み立てたらいいのか,そして,外科的問題の治療法について学ぶことができます.これらの準備をすることで,医学生は情報を習得し,外科の試験で良い結果を出すことができるのです.

 私は医学部の学部長として,また血管外科医として,本書が医学生たちの役に立っていることを嬉しく思います.私は今でも患者さんを診て,手術をして,医学生を教えていますので,このような本は最高です.誰かが私たちに教えてくれたのだから,私たちも教えなければなりません!

  人生とは,自分よりも長生きし,世界をより良い場所にする何かに貢献する機会なのです.
Apoorve Dubey

 教えることで,世界はより良い場所になります.さあ,あなたも教えてみませんか?

 Julie Ann Freischlag, MD
 Winston-Salem, USA


Christian de Virgilio/Areg Grigorian

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 初版に対する,外科クラークシップで有用であったという全米の医学生の反響を聞いて嬉しく思います.われわれは常に改善したいと考えています.貴重なコメントをくださった医学生に対して感謝し,そのフィードバックをこの第2版に盛り込みました.同時に,比較的短い医学部(メディカルスクール)3年生の外科クラークシップの間に“読み終わることができる”という目標を忘れてはいません.ですから,この第2版においては,新たな章を加えましたが,一方でいくつかの章を濃縮し1つにまとめ全体の長さを調整しました.初版と同様に,多くの外科プログラムディレクターや,外科クラークシップディレクター,さまざまな賞を獲得している外科教育者に協力いただきました.また,卓越した能力や才能を持つ医学生たちにも協力してもらいました.

 われわれの本の目標は,できる限り最も効率のよい方法で外科のエッセンスを学ぶことを助けることです.この本によって,試験でよい点数がとれるでしょうし,病棟実習でも輝くことができるでしょうし,最もよく聞かれるような症例提示から考えることができ,自らの演繹的推論(仮説を立ててから結論を導く力)を養うことができ,その結果,外科クラークシップでよい印象を与えるでしょう.また,途中に実際のNBME(外科試験)の形式の問題集をつけました(訳注:日本語版では問題集は割愛した).

 最初は医学部3年生の実習をおそろしく感じると思います.なぜなら,突然病棟に放り出されて,新しいレジデントや指導医に会い,患者に会い,新しい言葉(医学略語)や電子カルテの使い方を学ぶという最も経験や知識が乏しい状況でも,自らの輝きをいくらか見せることが期待されるからです.また,せっかく順応できても,すぐに次のローテーションがほかの科(時には違う病院で)で始まるので,またオリエンテーションを最初からやらなくてはなりません.同時に,講義の受講を求められたり,将来のレジデンシーを獲得する際に影響する最終試験に向けた準備が必要です.まぎれもなくストレスフルな期間ですが,1年間の最後になって,Professionalとしての成長に驚き,病院で実際の患者を診るほうが教室に毎日いるよりもはるかに楽しいと自覚できるでしょう.また,自分の評価者(レジデントや指導医)もかつては自分と同じ医学生だった頃があるという事実になぐさめられることがあるでしょう.本書は効率よく簡単に理解できる方法で,とても役に立つ,試験にも有用な知識を与えてくれます.本書を使うことによって「立派な医師になる」という重要な目的に集中できることを期待しています.

 本書の使用法をお話しする前に,外科クラークシップをうまく行う工夫をいくつか共有します.最初に,“やるべきこと”を示します.外科はチームを基準とした診療科です.常にチームを助ける方法を探しましょう.積極的になること.自分がかけがえのない存在になれるように努力することを,謙虚に行いましょう.家族に接するように他人に接しましょう.話し上手になりましょう.たくさん質問すること(ただしちゃんと読んできてから質問すること).どうやったら自分が手伝えるか聞きましょう.次に,“やってはいけないこと”を示します.傲慢になってはいけません.同期の医学生やインターンより注目を奪おうとしてはいけません.そして最後に,心配しすぎないこと.頑張って働き,楽観的で,積極的であれば,周りの人は気がついてくれます! 大多数の外科医が教えることを楽しんでいることにも気がついて驚くでしょう(外科医はテレビで出てくるように意地悪ではありません).そしてあなたも手術の虜になるかもしれません(私たちはそう願っています)!

 さて,本書の使用方法に移ります.本書は症例に基づいて書かれていて,短い質問と回答で構成されています.症例に基づく本の危険性とは,たった1つの特別な症例だけを学ぶことですが,この欠点を防ぐために,われわれは適切な鑑別診断をそれぞれの症例に入れて,どうやってそれらの鑑別を行うかを議論することにしました.また,臨床的に関係の深い解剖や病態生理についても絞り込みました.癌の病期分類など,常に変化し,覚えるのが大変で,めったに試験に出ないようなものは除外しました.質問によく使われる“次に何を行うか”という形式でマネジメントを組み立てました.手術のあまりに細かいところは医学生の範囲を超えているので意図的に避けています.さらに,もっと勉強したい読者のために,“トラブルになりうること”という診断や治療でのピットフォールを紹介したり,“議論の起こっていること”を加えました.それぞれの章の最後には要約を加え,簡潔に振り返ることができるようにしました.最後に,それぞれのセクションの最後には質問とその答え(なぜ間違った答えが間違いなのかを強調して)をつけています(訳注:前述の通り,日本語版では問題集は割愛した).読んだあとの理解度を確かめる意図で質問しているのではなく,多くの質問は本文に含むことができなかった重要な項目を補う意味で作られています(ですから正答率が低くなっても自信を失わないでください!).

 われわれはローテーション中に本書を読み終えることを推奨します.すべての章を読んで,問題を解きましょう.わざと1章を比較的短めに作っています.それにより1章を20~30分(もしくはそれより短い時間)で読むことができます.1週間に4~5章を読むことができるでしょう.

 われわれは本書が外科試験と同様に外科クラークシップの助けになることに自信を持っています.一方で,(本書を含む)1冊の本がすべてを満たすことはできないことも理解しています.

 われわれが書くのを楽しんだのと同じぐらい,読者の皆様が読むのを楽しんでくれることを望んでいます.フィードバックを歓迎します.以下のメールやTwitterに遠慮なく連絡してください.メールアドレスはcdevirgilio@lundquist.orgまたはagrigori@uci.edu,Twitterアカウントは@drdevirgilioです.

 あなたのローテーションでの成功と,(外科)キャリアでの成功を祈って!

Christian de Virgilio
Areg Grigorian

謝辞
Christian de Virgilio/Areg Grigorian

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 私たちのプロジェクトは,何人かの方々の協力なしには実現しませんでした.私たちの本の企画を信じてすぐに受け入れてくれたSpringer社のSenior Editor であるRichard Hruska氏と,私たちの絶え間ないメールや電話,そして何度もの修正に辛抱強く付き合ってくれたSpringer社のDevelopmental EditorであるConnie Walsh氏に感謝します.

 Christian de Virgilio
 Areg Grigorian

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1 ICUでの発熱,低血圧
2 嘔気,嘔吐,左鼠径部の腫瘤
3 繰り返す嘔吐を伴う腹痛
4 2日間続く右足の疼痛,腫脹,発赤
5 術後の出血
6 術後の尿量減少
7 術後5日目の呼吸困難
8 3時間前から続く吐血
9 ひどい上腹部痛
10 嘔吐後に出現した胸痛
11 大量の鮮血便
12 臍周囲から右下腹部に移動した腹痛
13 鉛筆のように細い便と間欠的な便秘
14 強い腹痛を伴う慢性便秘
15 発熱を伴う左下腹部痛
16 倦怠感と血便混じりの下痢
17 食後の右上腹部痛
18 右上腹部痛,発熱,嘔気,嘔吐
19 嘔気,嘔吐を伴う強い心窩部痛
20 痛みを伴わない新規発症の黄疸
21 歩行時のふくらはぎ痛
22 突然発症の激しい左腹部痛
23 右下肢の冷感と疼痛
24 背部に放散する突然出現した強い胸痛
25 胆汁性嘔吐を呈する乳児
26 非胆汁性嘔吐を呈する乳児
27 CT検査で偶発的に発見された副腎腫瘍
28 倦怠感,便秘,抑うつ
29 間欠的な発汗,動悸,高血圧
30 自動車事故による腹痛

疾患名による目次
索引

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世界で戦う外科医になるための,必読の教科書
書評者:本多 通孝(福島医大教授・低侵襲腫瘍制御学)

 最近,外科の世界にもオンライン教育が導入されつつあるが,コロナ禍がやってくる遥か以前から,医学生・研修医向けにWeb上で勉強会を開催していた先駆者がいた。本書の翻訳を企画した今村清隆先生である。それもただの勉強会ではない。米国のテキストや専門医試験問題集を利用して全国のやる気ある医学生がWeb参加しているというではないか。「自分が医学生のときに,そんな勉強会があったら……」とほぞをかむ先見性と企画力である。その今村先生がオンライン勉強会で使用した米国の有名なテキスト『Surgery:A Case Based Clinical Review』(第2版,Springer)の訳書が,このたびついに発刊された。

 日本にいて同じ病院や医局で長く仕事をしていると,知らず知らずのうちにローカルルールにとらわれてしまい,ともすれば特定の疾患を自分の型に当てはめて治療する作業に満足しがちである。しかし疾患の本質的な理解が浅いと他の文化圏の病院に異動したときに大いに苦労することとなる。昔から,外科診療では「外科医が絶対に外してはいけない疾患」があり,そうした外科医の幹となる症例をしっかりと伝えることこそが,国内だけでなく国際的に活躍する外科医を教育する第一歩になろう。本書の原書は,もともと米国の外科教育を目的に執筆されたものであるが,わが国の医学生,初期研修医,専攻医にとっても必読の内容である。読者それぞれの段階でこの30症例から学び取れることは違ってくると思うが,早めに本書を手にして熟読していただければ,将来のキャリアで必ず役立つ知識が得られることだろう。まずは今村先生の愛情がこもった本書のページをめくってみていただきたい。情報量の多さに圧倒されることなかれ,世界で戦うにはこれくらいがちょうどよいのだ!

 最後に,本書には今村先生が長年かけて培ってきた教育のエッセンスが贅沢に詰め込まれている。「外してはならない典型例」を軸に,最新文献とトピックスを織り交ぜて解説されており,各症例についているQRコードを読み込むとネイティブの英語で症例の読み上げが聞けるという芸の細かさである。こうした書籍の作りこみ方も含めて,今村清隆先生の「新しい時代を切り開く力」も学び取っていただけたらと思う。


論理的な思考プロセスに寄り添って構成されたテキスト
書評者:倉島 庸(北大消化器外科II/クリニカルシミュレーションセンター准教授)

 私が訳者代表の今村清隆先生と知り合ったのは,彼が手稲渓仁会病院の外科研修を修了し,外科スタッフとして研修医の指導担当を始めた頃である。私自身カナダ留学から現在所属している北大へ戻り,日本国内の外科医が若手外科医教育の情報を共有できる全国レベルの組織づくりに着手したのもこの時期であった。同じ札幌市内で勤務している今村先生とは臨床現場での指導方法,北海道や全国の若手外科医の教育について,時を忘れて語り合ったことを覚えている。それから現在まで,今村先生の教育に対する情熱はオンラインというツールを得て,北海道の枠にとどまらず,全国,海外へと広がっていったのである。

 本書は今村先生が研修医向けの勉強会でテキストに用いてきた原著『Surgery:A Case Based Clinical Review』(第2版,Springer)から,重要な内容を抽出して日本語訳したものである。私が感銘を受けたのは,23名の訳者の中に,勉強会へ参加していたであろう多くの手稲渓仁会病院の初期研修医達が含まれている点である。専門性の高い領域の翻訳作業をしながら膨大な関連知識を確認していく経験が,彼らが担当したテーマの理解をどれほど深いものにしたかは容易に想像できる。この翻訳共同作業そのものが大きな学びの輪を創造したことであろう。

 本書の素晴らしさは各テーマの内容が,診断から治療まで必要とされる知識を整理しながら,論理的に思考していくプロセスに寄り添うように構成されている点である。読者はまるで一人の患者を外来で初めて診察し,手術,術後管理をしているような疑似知識体験を通して各テーマの理解を深めていくことができる。また,同じ外科チーム内でも議論が分かれやすいトピックス,または外科領域の発展により従来のエビデンスが更新していく可能性を念頭に,「議論の起こっていること」についての知見が含まれている点も外科医の痒いところに手が届く配慮である。

 読者の方には本書のWEB付録であるバリエーションに富んだ症例提示の音読データもぜひ活用していただきたい。音読データの反復リスニング,シャドーイングは,海外臨床留学をめざしている方にはもちろんであるが,海外での学会発表にストレスを感じている方にも役立つ教材であろう。

 本書は初期研修医,若手外科医にとって多くの知識を得られるテキストであることには間違いないが,「教えることが最も学べるチャンスである」ということを理解している外科指導医にとっても,若手と共有すべき知識を体系的に整理する際に非常に役立つテキストであることを強調したい。

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