医学界新聞

書評

2022.02.07 週刊医学界新聞(通常号):第3456号より

《評者》 一般財団法人脳神経疾患研究所常任顧問/福島県健康医療対策監

 昔日,己の臨床研究デザインの拙さをイヤと言うほど突き付けられたことがありました。臨床研究デザインの基本を学ばなければ世界で闘うことはできないと思うきっかけになった,恥ずかしい,そして悔しい痛切な経験でした。この本を手にした時,わが国の臨床研究の水準もここまできたのかと,万感胸に迫るものがありました。今の私には,わが国における臨床研究の現状がどのくらいかわかりません。したがって,以下に記すことが見当違いであれば見逃してください。

 病院に勤務しながら独りで臨床研究をしていた頃の話です。当時,回帰曲線の作成をコンパス,糸,そして手計算でやっていました。自ら理解して実践しないと論文作成は不可能でした。今は,キーボードに触れるだけで,一瞬でできてしまいます。

 痛切な経験とは,海外誌へ投稿した際のことです。臨床研究の基本を知らなかったがゆえに,査読者からのコメントが私には全く理解できませんでした。それは,計測値の信頼性,再現性に対する指摘でした。今なら当たり前の話です。海外の友人を頼り,紹介された専門家の助言を受けながら論文に加筆し,何とか受理されました。

 本書を通読してみると,目次の半分は己がかつて経験した無知や誤解に基づく勘違いでした。この本は,私のような臨床家にとっては,「臨床研究を巡る常識のウソ」に気付かせてくれます。EBM(Evidence Based Medicine)では,RCT(Randomized Controlled Trial)以外は研究ではないと,臨床家が蓄積してきた資料が否定された時代もありました。そのこともあって,当時,臨床研究デザイン=マニアックな人たちの仕事と,距離を置く空気がありました。「序」で指摘されているように,臨床研究=統計解析ではありません。臨床研究デザインの目的は,第三者に理解してもらうことであって,統計解析はその手段にすぎません。ただし,基本的な知識を持っていないと質の高い臨床研究はできません。「医師が居なくては医療はできない。しかし,医師だけでは医療はできない」という箴言に通じることです。臨床研究デザインとは,臨床研究を行う上での基本的な概念です。一方,近年,EBMの手法自体に批判的な眼が向けられています。「統計は嘘をかないが,嘘を吐く人は統計を用いる」という警句がよみがえります。私は,目的と手段がひっくり返って,統計解析がしてあれば正しい結論という風潮があった時代を知っています。それを考えると,この本の刊行は時の流れをも感じさせてくれます。

 本書は,通読するのではなく,仕事の合間に一項目ずつ拾って読むことを勧めます。己の臨床研究の計画を見直すきっかけになります。そして,キーボードで一瞬で結果を出し,それが臨床研究だという思い込みに疑問が生まれます。有名雑誌に掲載される論文の中には,素人の私からみても,解析手法や有意差の解釈が間違っているものが見受けられます。

 まずは,本書を読んで,臨床研究を行う際の基本的な知識を得ることです。それにより,「臨床研究を巡る常識のウソ」に気付きます。買って,読んで損はない本です。


《評者》 千里リハビリテーション病院副院長

 『脳卒中の装具のミカタ』という意味深なタイトルの書籍が出版されました。編者の松田雅弘氏・遠藤正英氏の序文にわざわざ「ミカタ」とカタカナ表記されたその意味が書かれていました。装具の見かた・診かたということに加えて,装具難民の味方になりたいという思いだそうです。装具難民とは,装具が処方された後に適切なフォローがなく,装具の不適合や相談先などに困っている対象者のことを指します。厚生行政の都合で,対象者となる脳卒中者が急性期,回復期,生活期へという展開の中で全く違った病院,施設,およびスタッフたちがかかわることで,十分な連携がとられないがために生じる代表的な社会現象です。その装具難民のミカタになり,卒前教育で装具に関する有意義な講義を受けていないように思える若いセラピストたちのミカタになり,そして今さら聞けないよというベテランのセラピストのミカタになり,さらには装具について学ぶ機会のなかった看護師・介護福祉士・ケアマネジャーらのミカタになりたいという熱い思いで装具の見かたについて著されています。

 時流になってきたWeb動画付きで,57のQ&Aを軸に構成されています。脳卒中の病態や歩行,装具の基礎知識,装具調整の基礎知識,装具と運動療法,体幹装具・上肢装具と歩行との関係,入院中の装具の管理とその指導の方法,装具療法に必要な連携,生活期における装具,各病期における装具療法代表例についてまとめられ,具体的なQuestionに対してAnswerおよび解説,ポイントが述べられています。さらには随所にあるMEMOやcolumnが目を引きます。19人に及ぶ執筆者は装具に長けたそうそうたる顔ぶれで,実際の場面で多くの問題に取り組んでいる理学療法士・義肢装具士だからこそ解説できる内容です。初学者に限らず,多くの人たちに目を通していただきたい書籍です。

 あえて注文をつけさせていただくとすると,装具になじんでいない人たちを対象にする書籍だからこそ,具体的な写真をより大きくしていただくとよかったのではないかと思いました。モノクロの写真ですから,なじんでいない人たちにはもしかしたら判断しにくいかもしれません。思いっきり文字を少なくしてでも,その工夫があってもよかったかもしれません。

 対象者に適切な装具を選択できない理由の一つに,そもそも医師やセラピストが個々の脳卒中者の病態や歩行障害を正しく理解,あるいは把握できていない現状があると私は考えています。すなわち適切な教育がなされていないということになります。そういう意味では脳卒中者の歩行障害にかかわる私たち専門家こそが難民といえるのではないでしょうか。このことを考えますと,私たちが抱えているこの根本的な課題に本書『脳卒中の装具のミカタ』は大きな一石を投じてくれたと思っています。


《評者》 学校法人獨協学園名誉理事長/獨協医大名誉学長

 『専門医のための消化器病学 第3版』が,2021年11月に上梓された。8年ぶりの改訂である。2005年4月に,小俣政男教授,千葉勉教授によって編さんされた初版は,「専門医」を対象にしたものであったから,初めからかなり高度な内容をめざしていた。その初心は,第2版そして今回の第3版へと受け継がれ,いわば消化器病学論文の集大成とでもいうべき記述で構成されている。

 執筆者も若手消化器病学者を核として,われわれのようないわば高齢消化器病学者の名はほとんど見られず,新鮮な雰囲気を醸し出している。構成も,通常見られる全体としての総論,各論ではなく,いきなり食道疾患から入っている。そのいわば各論の中で,総論と各論を論じており,ある意味でわかりやすいと言える。内容も通常の記述に加えて,「Topics」や「専門医のポイント」などが挿入され,先に述べたような論文的な要素も加えてある。これらは本書の1つの特色ともいえる部分である。

 ただ次版で修正したほうがいいと思われる部分としては,これらの本書の特徴と思われる部分が必ずしも統一されていない点である。記述の一部に簡潔過ぎる部分もあり,これらは本書を通して統一すべきではなかったかとも思われる。さらに付け加えると,文献が,和文ばかりの項目と英文ばかりの項目にはっきり分かれている感があり,この辺りも編集者として統一をめざすべきではなかったか。

 しかしながら,これだけの高度な内容を持つ本書は,高齢の評者もやや戸惑いながらも,残りの短い生涯,何とかマスターすることにチャレンジしてみようとの意欲を湧き立たせる。評者は,この書評を依頼されて,まず苦手な膵臓の項目から読み始めた。しかし,かなりハイレベルの内容であるから,そこに時間を費やしてしまい,残りの部分は丁寧に読めたとは言えない。これから,腰を据えて立ち向かってみようと思っている。学長職や理事長職などに時間を取られて,しばらく臨床から離れざるを得なかったわが身にとって,当座挑戦すべき対象ができたとCorona時代の老後の過ごし方に意義を見いだしたところである。

 若い消化器病専門医あるいはそれをめざしている諸君が,このレベルにおいて,消化器病学全体を修めれば,わが国の消化器病学の未来は明るいと評者には思われる。今後のわが国の専門医制度をどのように扱うかについては,評者もその成り立ちにおいて関与していたので,強い関心を持っている。ただ果たして,このままで素晴らしい専門医制度が構築されるのか,若干の危惧を持たざるを得ない。国際的に通じる専門医制度の確立を希望しているが,本書がその一遇において重要な役割を担うような気がしている。

 最後に,本書の図表,特に写真が別ページではなく本文の中に素晴らしい形,色彩で挿入されているところに,編集者は並大抵の苦労ではなかっただろうと推察する。

 胃潰瘍や肝炎がある意味で解決されようとしている今日,消化器病学の未来は決して容易なものではないが,医学は人を治すのが本来であるから,医学全体としての位置付けで消化器病学を見ていく必要はあろう。


《評者》 順仁堂遊佐病院副院長・麻酔・疼痛緩和科

 21世紀の今日,神経ブロックの分野での超音波画像診断機器(通称,エコー)の利用は事実上の世界標準となり,従来行われてきたランドマークガイド下法,神経刺激ガイド下法を過去のものにするか,超音波ガイド下法の補助手段として置き換えたと言っても過言ではありません。わが国でもすでに島根大学の佐倉伸一氏らによる『周術期超音波ガイド下神経ブロック 改訂第2版』(真興交易株式会社医書出版部,2014年)などの良書が上梓されていますが,これらは主に成人を対象としたもので,小児領域を含め,さらに神経ブロック以外の麻酔科医に必要な超音波画像利用法を総合的に網羅した著作が待ち望まれていました。

 その答えの1つが本書で,原著者のDr. Vrushali C. Pondeはインド人女性麻酔科医です。彼女は小児麻酔科医としてキャリアを重ねる中で超音波ガイド下神経ブロックに出合い,精力的に臨床を積み重ねて,超音波画像を医用利用する基礎から臨床応用まで幅広く網羅して原著を上梓し,原著は2009年の初版以降,2019年まで3版を重ねました。後進の麻酔科医や研修医が現代の超音波画像の利用法を俯瞰できるように,わかりやすく画像とイラストを併置する形で構成したものです。原著の内容については,序文を寄せている斯界の権威で,私の2005年以来の知己であるカナダのトロント大麻酔科のProf. Vincent WS Chanが詳述していますので,ぜひご一読いただきたいです。

 原著は英文ですが,訳者代表の上村明氏が述べているようにインドで出版されたため,残念ながら日本からは直接入手が困難です。原著の価値を認め,第3版の邦訳の労をとられたのは中島芳樹教授を監訳者とする浜松医大麻酔科を中心とするグループで,原文の忠実でわかりやすい訳と製本の技術が相まって,原著よりやや大型のB5判サイズで,紙質,画像の質とも原著を凌ぐ出来栄えとなっている点は喜ばしいです。原著者とアジア小児麻酔学会(ASPA)を通じて交流を重ね,原著の情報を国内にもたらした山下正夫博士(前 茨木県立こども病院麻酔科部長,現 小松整形外科医院麻酔科部長)にも深甚の敬意を表します。

 超音波ガイド下神経ブロックが医療の国際的トレンドにかなう手技であることは今日異論のないものとなっています。本書で啓発を受けた読者の皆さんにより,わが国の小児および成人患者が1人でも多く超音波画像診断の恩恵を受け,安全・迅速・快適な医療を享受できることを切望します。


《評者》 東北大病院リハビリテーション部部長/東北大大学院教授・内部障害学

 このたび,初版から10年ぶりに『理学療法ガイドライン 第2版』が発刊された。本書は,理学療法における現行のエビデンスを,前版の16領域から21領域に増やし,41の疾患・外傷数,195のCQ,129の推奨文,66のステートメントを含む総ページ数648ページの堂々たる書物である。統括委員会27人,作成班174人,SR班1193人,外部評価委員25人の総計1400名以上もの関係者の力をいかんなく示した労作であり,関係者の努力と団結力に深く敬意を表したい。

 本書は,公益社団法人日本理学療法士協会に置かれた日本理学療法士学会(現・一般社団法人日本理学療法学会連合)の事業として作成された。Mindsの作成手順に準じてガイドラインの作成を行い,各種疾患でどのような理学療法が推奨されるのかというCQを設定し,CQに基づいてPICO/PECO式を立て,文献検索の実施,システマティックレビューを行った上で推奨文をまとめてある。

 脳卒中,脊髄損傷,神経難病,小児,頸部機能障害,背部機能障害,肩関節機能障害,肘関節機能障害,投球障害肩・肘,手関節・手指機能障害,股関節機能障害,膝関節機能障害,前十字靱帯損傷,足関節・足部機能障害,足関節捻挫,心血管疾患,呼吸障害,糖尿病,軽度認知障害,フレイル,地域の21領域での理学療法ガイドラインを掲載している。

 私は14年間を内科医として過ごし,その後,リハビリテーションの重要性に目覚めてリハビリテーション科医に転じて27年になる。リハビリテーションを始めた頃は,目覚ましく回復する人に出会う一方,内科に比べると確固たるガイドラインが少なかった。当時の日本リハビリテーション医学会の大御所に悩みを相談しても,「個人個人で障害程度が異なるため,リハビリテーションの内容は個別的になる。そのためリハビリテーションではRCTは組みにくいし,その必要もないのではないか。ましてや動物実験などはありえない」と諭され,困惑したことを覚えている。

 あれから約30年,かつては理学療法が禁忌であった心不全,肺高血圧症,慢性腎臓病などは,基礎研究とRCTにおいて,理学療法の有効性が証明されており,隔世の感がある。今後,理学療法の対象は,がん,重複障害,再生医療などますます拡大していくことは確実であり,また生体情報をモニターしながらの遠隔リハビリテーションの時代に入り,理学療法の在り方も変貌していくことが予想される。

 本書では,エビデンスレベルC,Dが多く(CQの内容次第ではA,Bになった可能性がある。リハビリテーション処方を出すリハビリテーション科医にも責任があると考える),他学会のリハビリテーションに関するガイドラインとの整合性や擦り合わせの余地を残す。しかし,わが国のリハビリテーション関連職による論文が続々と発表されていること,若くて有能なリハビリテーション関連職が多く育ってきている現状を考慮すれば,わが国の理学療法士および理学療法・リハビリテーションの将来は前途洋々である。

 本書を片手にエビデンスレベルの高い理学療法を行うとともに,さらなる理学療法研究が進むことで,次回改訂ではさらに広い領域で多くの高いエビデンスレベルのガイドラインが読めることを期待したい。


《評者》 山形大大学院教授・血液・細胞治療内科学

 “むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく,ふかいことをゆかいに,ゆかいなことをまじめに書くこと”(井上ひさし,1989)。

 山形県出身の劇作家,小説家の名言を彷彿ほうふつさせるような保健医療統計の書籍が出版されました。

 保健行政や医療の現場では統計学や疫学が必須であることは万人が認めるところです。今でも現場では,さまざまなタイプの膨大なデータと日々格闘していることでしょう。私の本棚にも統計関係の本が数冊あります。何年かごとに統計学を勉強する必要に迫られて教科書を購入するのですが,その都度挫折していました。私の本棚の統計学の本は,私の挫折の歴史を示す「化石」といっても過言ではありません。あらためてその「化石」を分析してみると,最初の数ページは優しげな言葉のみで読み進められるのですが,すぐにきらびやかな数式とギリシャ文字(最近はSARS-CoV-2の変異株で少し目にするようになりましたが)のオンパレードとなり,その場で挫折の繰り返しでした。この私の「化石収集」に終止符を打ってくれたのが本書です。

 第1章の「統計解析で何が分かるの?」は特に秀逸です。著者の加藤丈夫先生は,電卓やパソコンを例に挙げて「“原理”は理解していなくても“実践”はできる」と喝破してくれました。「数式がよくわかっていないので統計ソフトを使うのは少し後ろめたい」といった思いが一掃されて,胸を張って統計ソフトを使えることになるでしょう。また,「p値って何?」「変数って何?」は,まさに医療統計の「キモ」であり,「コラム」「ひとこと」と合わせて医療統計のエッセンスが凝縮された内容になっています。実際に解析に携わらない方々にも,ぜひ第1章だけは読んでいただきたいと思います。医療データ,そしてその解析結果の見方,考え方が大きく変わるでしょう。

 第2章以降は無料統計ソフトEZRを使用した解析の実際です。「名義変数の解析」「連続変数の解析」「傾向と相関の解析」「3群以上の比較」「多変量解析」「生存期間の比較」から構成されていて,現場で必要な事項が簡潔にかつわかりやすく網羅されています。「使う人の立場に立って」とはよく聞く言葉ですが,それを実行するのは難しいものです。保健行政の現場で保健師さん,薬剤師さん,栄養士さんと一緒に仕事をしてきた加藤先生ならではの,「使う人の立場に立った」記載が続きます。EZRの実際の画面を使用して解説しているため,パソコンでEZRを開いて本書を片手に,必要な解析は難なくできるようになるでしょう。

 巻末の「おわりに」もぜひご一読ください。帯,本書中のイラストそのままの加藤先生のお人柄がにじみ出ています。

 まだまだ続く困難な状況の中で,医療現場の最前線で奮闘している皆さまに本書を強く推薦します。

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