臨床研究 21の勘違い

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臨床研究のしくじりは「勘違い」が原因だった!? P値は小さいほどいい、多変量解析は万能など、ありがちな勘違いの具体例を使って、臨床研究の正しいお作法を京大チームが懇切丁寧に解説。なぜ臨床研究がうまくいかないのか、この研究結果は本当に信頼できるのか、なぜ論文がレジェクトされるのか、そんな疑問に答える1冊。

福原 俊一 / 福間 真悟 / 紙谷 司
発行 2021年11月判型:A5頁:256
ISBN 978-4-260-03458-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)

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    2022.01.24

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 福原 俊一

本書第一のメッセージ:大きな「勘違い」への気づき
 これまで臨床研究は,難解な数式を使う統計解析と同義とみなされてきました.日本人の得意とする「技を究める職人気質」は臨床研究でも発揮され,高度な解析の技を珍重するあまりテクニックに走ってしまう若手研究者も少なくありません.事実,研究の「タコツボ」現象が臨床研究の世界でもみられています.このような背景から,臨床研究は大学にいる特殊な解析技術を有する専門家だけが行うもの,と医療者から苦手意識を持って敬遠されてきた経緯があります.基礎医学研究では確かに実験室や特殊な設備が必要で,大学や研究所でなければほとんど不可能なことは事実です.しかし,臨床研究は,「現場で毎日,患者のために悩みながら診療している医療者こそが行うものであり,現場で生まれるクエスチョンは医療者にしか考えられないもので,まさに『医療者の心』であり,そのクエスチョンに答える研究を科学的にデザインすること,それこそが臨床研究の一丁目一番地,原点なのだ! 原点を忘れてテクニックだけに走っては本末転倒」と考え,これを長い間多くの方々に伝えてきました.

 「思いは,形にして伝えなければ,思わなかったのと同じ」とも言い続けてきた私が,言い出しっぺの責任を取る形で出版したのが,拙著『臨床研究の道標――7つのステップで学ぶ研究デザイン』1)でした.思いがけず多くの医療者に読んでいただき,約10年間にわたりロングセラーとなり,英文書籍にすることもできました.おかげで,私の思いが少しは伝わったかなと感じています.

 しかし,臨床研究の世界は甘くありません.この「道標」は簡単そうにみえますが,内容を正しく理解し,自分の身につけるのは難しいのも事実です.本書のあとがきで福間氏が述べているように,「習うより慣れる」必要があります.そうです,臨床研究を真にマスターするためには,書籍や講義などの系統的学習だけでは不十分で,実際のデータを使った実践演習が必須です.自己流にならないようにメンターの監修がとても有効です.仲間からのフィードバックは,大きな励ましになります.そして,何よりも,診療を離れて研究や学習のための時間をプロテクトしないと,絵にかいた餅で終わります.下線の部分は,私が常々言っている「独立した研究者になるための6つの要件」です2).この要件をクリアしてマスターするまでには長い時間を要します.短くても3~4年,10年かかることさえあります.

 臨床研究をマスターするまでの時間を長引かせてしまう要因の1つが,思い込みです.冒頭に述べたように,「臨床研究=統計解析」という思い込みをしていると,最初から難しい解析のテクニックを学ぼうとして迷路に入り,なかなか出られなくなってしまいます.また途中で,「オレ(私)は,何のために臨床研究をやっているんだっけ?」と原点さえ見失ってしまいます.
 本書の読者への第一のメッセージは,この思い込み,そう,大きな「勘違い」に気づいてほしいということです.

本書第二のメッセージ:失敗から「勘違い」に気づき,学ぶ臨床研究の本質
 第二のメッセージは「失敗から学びを深める」ということです.というより,読者の皆さんは,小さいときから優等生で失敗はよくないことと教えられてきたと思います.研究には,それは当てはまりません.失敗なしに,臨床研究の本質を学ぶことは不可能なのです.本書は,登場人物の大風呂医師と八田里医師に読者に代わって失敗してもらい,その数々の失敗を読者にバーチャル体験していただくように構成されています.言ってみれば,「人の振り見て我が振り直せ」のようなもので,自分が傷つかない「安心・安全の失敗体験」ともいえるかもしれません.本書では,臨床研究にまつわる多くの「勘違い」をできるだけ具体的にお示ししています.大風呂医師や八田里医師の「勘違い」を大いに笑い,そこから臨床研究の本質を学んでください.

 でも,読者の皆さんにはどこかの時点で,自分自身で実際に研究に取り組む,間違える,失敗する,恥をかく,批判される,手痛い思いをする,傷つく…という一連のリアルな体験をしていただく必要があります.それを避けては,臨床研究をマスターすることはできないからです.リスクを恐れては成功はありません(実は人生もそうかもしれませんね!).

本書最後のメッセージ:一度きりの「出会い」を大切に
 「人生は出会いだ.あなたの人生の扉は自分がひらくのではなく,他人がひらく」
 これは,福島県立医科大学前学長兼理事長の菊地臣一先生に教えていただいた言葉です.この書籍も,さかのぼれば菊地先生との出会いから生まれたといえます(注).出会いは偶然ですが,同時に必然でもあります.なぜなら人は多くの偶然の出会いの中から,真の出会いを無意識に選んでいるからです.自分が本当に望む出会いへの思いが強いほど(あるいは,困っている,悩んでいるほど),本当の出会いに気づくチャンスが高まります.しかも出会いはタイムリーでなくては価値がありません.その意味で一度きりです.この本を手にしたあなたも,この本と出会ったといえます.もしかしたらこの出会いは本当の出会いかもしれず,あなたは本格的に研究を始めることとなり,やがてあなたの人生の扉がひらかれるかもしれません.事実,あなたはこの本を手に取ったではありませんか.これが,私からの最後のメッセージです.

 末筆ながら,私の原点や基本的な価値観を共有し,本書をともに執筆し,多大な貢献をいただいた福間真悟氏,紙谷司氏,そして長期間にわたり辛抱強くお付き合いいただいた医学書院の石井美香氏に深謝申し上げます.

注:本書は,医学書院発行の雑誌「臨床整形外科」に連載した内容を一部改変し,さらに書き下ろしの章を加えて構成しています.連載の機会を与えていただきました菊地臣一先生に感謝します.

文献 
1)福原俊一.臨床研究の道標――7つのステップで学ぶ研究デザイン.健康医療評価研究機構,2013
2)京都大学MCR 運営委員会.あなたも世界の臨床研究者に.健康医療評価研究機構,2015

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I.疑問(リサーチクエスチョン)の勘違い
 1 すべての疑問はPECOに構造化できる?
 2 新規性=よい研究?
 3 アット・リスクとはアウトカムを起こしやすいこと?
 4 アウトカムは盛りだくさんのほうがよい?
 目からウロコの臨床研究:研究デザインのご利益

II.測定の勘違い
 5 リスク=危険性?
 6 主観的なアウトカム指標は科学的ではない?
 7 先行研究で使用されている尺度なら安心?
 8 カテゴリー化の悪用?
 目からウロコの臨床研究:目にみえないものを計測するという発想

III.デザインの勘違い
 9 RCTは常に最強のデザインなのか?
 10 「後ろ向き」なコホート研究?
 11 横断研究は欠陥だらけ?
 Column オッズ比の解釈に関する勘違い
 目からウロコの臨床研究:持つべきものは友とメンター?

IV.比較の勘違い
 12 前後不覚!?
 13 比較すれば問題なし?
 14 比較を邪魔しているのは誰だ?
 15 バイアスって何?
 16 多変量解析は万能?
 17 P値が小さいほど,効果が大きい?
 目からウロコの臨床研究:「臨床研究」への憧れと大きな誤解

V.研究抄録5つのチェックポイント
 Column 構造化抄録の書き方
 18 リサーチクエスチョンは切実か? 目的は明確か?
 19 目的と方法が一致しているか?
 20 方法自体がゆるくないか?
  ①抄録に書くべき「方法」の内容
  ②ゆるい比較と固い比較
 Column ビッグデータの時代
 21 結果と結論が乖離していないか?
 目からウロコの臨床研究:査読者の視点から

臨床研究21のチェックポイント
あとがき
索引
著者紹介

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臨床研究のピットフォールとは?
書評者:香坂 俊(慶大専任講師・循環器内科/医療科学系大学院(臨床研究)ディレクター)

 Critical Appraisalはしばしば「批判的吟味」と訳される。医療の現場では「論文やエビデンスを簡単に使用するな!」という否定的なニュアンスで用いられることが多いが,個人的には「エビデンスを構築してくれた研究者達に敬意を払いつつも,油断はしない」というように,すこし柔らかいニュアンスでとらえても良いのではないかと考えている。

 このCritical Appraisalであるが,以前は研究を嗜む人たちのための高尚な技能のような位置付けで,学会などで壇上の先生方の意見などを伺いながら,なるほどこういうふうに考えるのかなどと構えていればよかった。しかし最近は,わりとキャリアの早い時期に「身につけなくてはならない技術」という位置付けになってきている(ちょうど問診・診察やカルテ記載の技法のように)。

 Critical Appraisalの重要性が高まってきたのは,科学の進歩のスピードが年々加速していることに拠る。以前は例えば大きなランダム化比較試験(RCT)の成果が発表されると,まず学会での議論がなされ,その半年~1年後に論文が発表されてまたそこで議論がなされ,その上でガイドライン上の推奨に落とし込まれるということがほとんどであった。例えば,COURAGE試験(安定狭心症に対する保存的治療 vs. 早期血行再建を扱ったRCT)などはその代表例で,その前年の米国の学会で大々的に発表され,2007年と2008年にそれぞれ臨床アウトカムと患者アウトカムに関する解析結果がNEJM誌に掲載され,ガイドラインにその内容がきちんと反映されたのは2010年くらいであった。ところが,同様のトピックを扱ったISCHEMIA試験(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1915922)は,2019年秋に学会発表がなされ,2020年春にはNEJM誌に4報が同時掲載され,2022年春には米国のみならず日本でもガイドラインのアップデートがなされた(https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/86/5/86_CJ-21-1041/_html/-char/en)。

 前置きが長くなったが,このように良質なエビデンスがスピーディに発表される時代となり,エビデンスを現場に落とし込むための「技術」が医師個人に求められるようになっている。しかし,このCritical Appraisalというスキルは,簡単に身につくものではない。そこに本書である,著者の福原俊一・福間真悟・紙谷司先生は長年,臨床の現場からの疑問を臨床研究に落とし込むことを実践され,かつそのプロットを京大School of Public Healthにて広くワークショップなどを通じて啓蒙活動されてきた。そうした背景から,著者の先生方は,おそらく本書を,臨床研究を実践される先生方の道標として出版されたのだと推察するが,自分はより幅広く,臨床研究を実践されない立場であったとしても,最新のエビデンスを吟味し診療に役立てようという先生方全てに推奨したい。

 俊逸なのが,ほぼ必ず各章冒頭に設けられている大風呂(おおぶろ)医師と八田里(はったり)医師のかけあいで,どちらかの医師が必ずありがちなピットフォールに落ちるところからレクチャー稿がはじまるという構成であり,これは現場の先生にとってかなり読みやすい構造になっているのではないだろうか? また,レクチャー稿の後には,さまざまな研究者の先生方の「話題」も提供されており,フィクションとノンフィクションの狭間で,いつのまにか(自分の研究に対しても他人の研究に対しても)Critical Appraisalを行うに必要な知識が身につくように配慮されている。

 2022年夏現在,コロナ禍を経て,臨床研究の解釈に関する基本的な素養は,これまでに増してさらに必要とされる状況となっている。ぜひ多くの医療関係者に本書を手に取っていただき,「敬意」と「警戒」のバランスが取れたエビデンス吟味へのスタートをきっていただきたい。


だから臨床研究はやめられない!
書評者:吉村 芳弘(熊本リハビリテーション病院サルコペニア・低栄養研究センター長)

 目次を眺めたら我慢できなくなり,寝食を忘れて最後まで一気に読んだ。時が経つのを忘れるほど読書に熱中したのは久しぶりだ。著者の一人である福原俊一先生は過去の自著『臨床研究の道標』(健康医療評価研究機構,2013年)の中で,臨床の「漠然とした疑問」を「研究の基本設計図」へ昇華する方法を説いた。本書は実質的にその続編に位置される(と私は思う)。臨床研究を行っている,あるいはこれから行おうとしている医療者への鋭いメッセージが健在である。

 「すべての疑問はPECOに構造化できる?」「新規性=よい研究?」「『後ろ向き』なコホート研究?」「横断研究は欠陥だらけ?」「比較すれば問題なし?」「多変量解析は万能?」「バイアスって何?」「P値が小さいほど,効果が大きい?」などなど……。

 偉い先生の演台上からの回りくどいレクチャーよりも,ひたすら現場目線のまるで同僚から発せられるような身近な疑問を丁寧に解説する書面づくりがありがたい。なによりテーマの立て方が俊逸だ。私や同僚がしょっちゅうつまずいて苦労している臨床研究の「勘違い」を見事に言い当てており,これは私(や同僚)に向けて書かれた本なのでは,と大いなる「勘違い」をしてしまう。

 臨床研究に対する私の大いなる勘違いの一つに,「臨床研究を始めるにはまずは統計を理解しなければならない」というものがあった。本書はこの勘違いを気持ちがいいほど切って捨ててくれる。統計学の知識やスキルはもちろん重要だが,研究デザインはそれ以上に重要だ。臨床研究の本質は,自身の日常診療から発生した疑問と,それを解決するための研究デザインを入念に推敲することである。

 本書に登場した言葉の中に私の心に刺さって離れないものがある。「一度きりの『出会い』を大切に」だ。人生は一度きり,人との出会いも一度きり。人生を大きく切り開くのは多くの場合において自分ではなく他人だ。もちろん出会いは自分で選択できる。優れたメンターとの出会いも一度きりかもしれない。臨床研究も出会いだ。身近な疑問を質の高い臨床研究に昇華することができれば,一つの出会いが大きな扉を開くことになる。

 というわけで,私はこの本を読んでいる間ずっと,「ああ,次の臨床研究をやりたいな」とばかり思っていた。なにしろ臨床研究が対象の話で,本の中にいくつものクリニカルクエスチョンやリサーチクエスチョンが登場するので,一度やりたいと考え始めると,生唾が出てくるくらい次の臨床研究をやりたくなってくる。臨床研究をやりたい,そんな純粋かつ熱い思いがこみ上げてくる。だから臨床研究はやめられない。


「臨床研究を巡る常識のウソ」に気付かせてくれる
書評者:菊地 臣一(一般財団法人脳神経疾患研究所常任顧問/福島県健康医療対策監)

 昔日,己の臨床研究デザインの拙さをイヤと言うほど突き付けられたことがありました。臨床研究デザインの基本を学ばなければ世界で闘うことはできないと思うきっかけになった,恥ずかしい,そして悔しい痛切な経験でした。この本を手にしたとき,わが国の臨床研究の水準もここまできたのかと,万感胸に迫るものがあります。今の私には,わが国における臨床研究の現状がどのくらいかわかりません。したがって,以下に記すことが見当違いであれば見逃してください。

 病院に勤務しながら独りで臨床研究をしていた頃の話です。当時,回帰曲線の作成をコンパス,糸,そして手計算でやっていました。自ら理解して実践しないと論文作成は不可能でした。今は,キーボードに触れるだけで,一瞬でできてしまいます。

 痛切な経験とは,海外誌へ投稿した際のことです。臨床研究の基本を知らなかったがゆえに,査読者からのコメントが私には全く理解できませんでした。それは,計測値の信頼性,再現性に対する指摘でした。今なら当たり前の話です。海外の友人を頼り,紹介された専門家の助言を受けながら論文に加筆し,何とか受理されました。

 本書を通読してみると,目次の半分は己がかつて経験した無知や誤解に基づく勘違いでした。この本は,私のような臨床家にとっては,「臨床研究を巡る常識のウソ」に気付かせてくれます。EBM(evidence based medicine)では,RCT(randomized controlled trial)以外は研究ではないと,臨床家が蓄積してきた資料が否定された時代もありました。そのこともあって,当時,臨床研究デザイン=マニアックな人たちの仕事と,距離を置く空気がありました。「序」で指摘されているように,臨床研究=統計解析ではありません。臨床研究デザインの目的は,第3者に理解してもらうことであって,統計解析はその手段にすぎません。ただし,基本的な知識を持っていないと質の高い臨床研究はできません。「医師が居なくては医療はできない。しかし,医師だけでは医療はできない」という箴言に通じることです。臨床研究デザインとは,臨床研究を行う上での基本的な概念です。一方,近年,EBMの手法自体に批判的な眼が向けられています。「統計は嘘をかないが,嘘を吐く人は統計を用いる」という警句がよみがえります。私は,目的と手段が引っ繰り返って,統計解析がしてあれば正しい結論という風潮があった時代を知っています。それを考えると,この本の刊行は時の流れをも感じさせてくれます。

 本書は,通読するのではなく,仕事の合間に一項目ずつ拾って読むことを勧めます。己の臨床研究の計画を見直すきっかけになります。そして,キーボードで一瞬で結果を出し,それが臨床研究だという思い込みに疑問が生まれます。有名雑誌に掲載される論文の中には,素人の私からみても,解析手法や有意差の解釈が間違っているものが見受けられます。

 まずは,本書を読んで,臨床研究を行う際の基本的な知識を得ることです。それにより,「臨床研究を巡る常識のウソ」に気付きます。買って,読んで損はない本です。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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    2022.01.24