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小児と成人のための超音波ガイド下区域麻酔図解マニュアル

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今や麻酔科医にとって定番の手技となった超音波ガイド下区域麻酔について、小児の症例に重点を置き、豊富な画像・イラストで分かりやすく解説。トレンドである中心静脈カテーテル挿入、胃・肺エコーなどについても掲載。好評の原書第3版が今回初めて日本語版として誕生。

監訳 中島 芳樹
訳者代表 上村 明
発行 2021年10月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-04744-9
定価 8,250円 (本体7,500円+税)

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この本を,
私の患者さん,
私の生涯の伴侶である循環器内科医Dr. Chandrashekhar Ponde,
私の2人の娘JuiとJaee,
私を終始サポートしてくれた両親,
そして,この本を読んでくださっている皆様に捧げます.

日本語版への序

親愛なる日本のみなさま!

“笑顔は言葉の壁を越える.”
 誰の名句かは知られていません.しかし,この名句は言葉を越えて人々がつながり合える素晴らしさを伝えています.したがって,この英語の本が日本語に訳されたことは不思議ではなく,上村明先生の翻訳への決意と努力とに感謝いたします.心から彼女にお礼を申し上げます.
 私がこの本を執筆しようと思ったのにはわけがあります.私は区域麻酔で患者さんをよりよく救えることを目の当たりにしました.区域麻酔を超音波ガイド下に施行することで,成功率が向上し,より正確に,必要な部位のみのブロックが可能となりました.私自身の日々の麻酔の現場で,このテクニックが真価を発揮し,新生児から高齢者までが計り知れない恩恵を受けています.この魅力的なテクニックを自ら習得し,同僚・後輩に指導することができ,とても嬉しく感じております.現在も自己研鑽に努め,指導を続けています.
 インドでの超音波ガイド下区域麻酔の黎明期にあたる2009年にこの本の初版が出版されました.第2版は2013年に出版され,2019年に出版された第3版がこのたび日本のみなさまのお手元に届くことになりました.
 この本にはたくさんの写真と超音波画像を載せ,この本を片手にブロックの手順に沿って手を動かせるようにと想定して内容を構成してあります.私は日本語版でも原書と全く同様に要点と写真がみなさまに伝わると確信しています.
 私たちは独自の改良を加えてきましたが,まだまだ改善の余地があると思っています.
 上村明先生,親愛なる旧友である山下正夫先生,中島芳樹教授をはじめとする浜松医科大学の先生方,この本に携わったたくさんの人々,出版社のみなさま,そしてこの本を手に取ってくれた日本の読者のみなさま,そして美しい日本の国へのたくさんの感謝をこめてこの序を終わります.
 この本への質問,フィードバックをこのメールに下さると嬉しいです.

 vrushaliponde@yahoo.co.in
 感謝と愛をこめて
 Vrushali C. Ponde


監訳者の序

 周術期における疼痛管理の重要性は論を俟たないが,小児手術の領域における鎮痛は十分配慮されているだろうか.1990年代初頭に私が小児専門病院に勤務した当時の教科書の鎮痛に関する記述を見ると,麻薬の使用や局所麻酔に関する記載がほとんどないことに改めて驚いた.当時は新生児の麻酔では時に昔ながらの筋弛緩薬および鎮痛として亜酸化窒素のみを組み合わせるLiverpool法がそのまま行われる一方で,鼠径ヘルニアなどの下腹部手術では仙骨麻酔が一般的に行われており,小児における鎮痛への理解と配慮がまだ一般的ではなかったことが示唆される.そのような麻酔が行われていた説明としては,新生児では神経の有髄化が不十分で,また記憶も残らないから鎮痛への配慮が不十分でも構わないという理由であったと記憶している.しかし,吸入麻酔薬の必要量が成人より高い濃度であることは周知の事実であった.本当に小児への鎮痛は配慮が不必要なのであろうか? 小児病院勤務を終え大学に戻ってからも,小児に対する適切な鎮痛について良い回答を見出せないまま日常の業務をこなす毎日を過ごしていた.その後,研究が進むにつれ,新生児でも適切な麻酔深度が必要であり,小児においても強い侵害刺激が神経可塑性から術後の痛覚過敏を引き起こすことが解明され,小児における周術期の疼痛対策が成人同様に重要であることが広く理解されている.
 一方,近年の超音波装置を使用する神経ブロック法は目覚ましい発展をし,腹部手術などにおいても硬膜外麻酔を凌駕するほど汎用されている.私自身超音波を用いて神経ブロックを始めたのは2010年の春からであったが,それまでの当たるも八卦,当たらぬも八卦のような不確実なブロックと違って“必ず効く”手応えに夢中になった.神経ブロックは当たり前ではあるがメスが入る領域に効かせる必要があり,鎮痛領域は神経支配領域以上には拡大しない.解剖学の知識はもちろん,どこを切るか,どこにドレーンが入るかなどの術者とのコミュニケーション力がとても重要である.そのため解剖学の教科書を30年ぶりに開くことになり,やはり医学は解剖で始まり,解剖に終わるという思いを新たにした.
 今回,この本の翻訳を始めるきっかけは,友人であり本書の訳者代表でもある上村明先生の勧めによったものである.上村先生は著者であるDr. Vrushali C. Ponde氏とは小児麻酔を通じての友人であり,小児領域における神経ブロックの必要性を強く感じておられた.本邦では優れた実践書もすでに多数出版されており,日本各地にあまた存在する泰斗が学会や研究会で活躍されている中で新たに神経ブロックの本を出すことは少しためらいもあったのが本音である.しかし,本のタイトルに小児の鎮痛を謳っており,自身の中で以前から燻っていた疑問に改めて向き合うきっかけとなった.実際に手に取って見ると,神経ブロックのみならず超音波装置の新生児における中心静脈確保や気道への応用などにも触れていることで,成人から新生児までの幅広い年齢が対象であることに加えて広範囲の区域麻酔に関する知識がカバーされた良書であることから,本書を紹介する価値があると確信した.インド本国ではこのテキストは2009年に初版として刊行され,2019年に第3版が出されるのにあたり超音波装置を用いた胸腹部の筋膜ブロックや神経近傍のカテーテル挿入などが追加されているが,どの章も簡潔で的確な文章と豊富な図表で臨床でも非常に使いやすいことから,すべての麻酔科医にベッドサイドで使用していただければ嬉しく思う.
 今回の翻訳は昨年の晩秋に始まったが,短い期間にもかかわらず無理のない日本語に訳してくれた医局員に深く感謝する.多忙な日常業務の中で比較的短期間でここまで漕ぎ着けられたのは言うまでもなく彼らの存在が非常に大きかった.また,インド本国の原出版社との交渉や原稿の遅延に粘り強く対応していただいた医学書院の皆様にも厚く御礼申し上げる.

 2021年7月30日
 中島芳樹


訳者代表の序

 “コロナ”という敵のせいで,思わぬ障害が加わり,出版までに2年という年月を要しました.が,やっとこの本をみなさまにお届けすることができて,本当に嬉しく思います.
 “コロナ”出現の少し前に,私の大変尊敬する,小児麻酔,小児区域麻酔の恩師である山下正夫先生から「こんな本を訳してみないか」とお声がけいただきました.それはインド,ムンバイの小児麻酔科医であるVrushali C. Ponde先生が書かれた小児のための超音波ガイド下区域麻酔の本でした.Vrushali先生は存じ上げていましたが,実はこの本については知りませんでした.というのも原書は英語で書かれていますが,インドの出版社から出版されていて,またアマゾンインドは日本への配送を取り扱っていなかったためです.本を読んですぐにこれがインド国内でしか読まれていないのを非常に残念に思い,すぐに翻訳に取りかかりました.
 私は長い麻酔科医人生の中でほとんどの時間を小児の鎮痛について考え,いかに手術を終えた子どもたちが全身麻酔から覚醒した後も痛みなくすやすやと寝ていられるだろうかと思い,区域麻酔,とりわけ脊髄幹麻酔(硬膜外麻酔)を追求してきました.はじめは末梢神経ブロックがまだ麻酔科医の間で浸透しておらず,また麻酔科医が使用する超音波装置などは手術室にありませんでしたが,2007年ごろから麻酔,特に区域麻酔の領域に超音波が普及し始め,2015年には小児の超音波ガイド下区域麻酔,とりわけ末梢神経ブロックは,従来のランドマーク法や神経刺激法をおしのけ,現在ではほぼ9割が超音波ガイド下に行われています.超音波の出現でブロックはより安全でより効果が確実なものになってきました.ただ超音波の普及に伴い,成人では,超音波ガイド下神経ブロックの成書が翻訳も含め,日本でも多数出版されていますが,小児がメインの本はいまだにありません.そのためこの本は小児の超音波ガイド下神経ブロックの訳書として日本で出版される初めての本です.
 何よりの魅力は,B5版のソフトカバーで200ページほどにすべてのブロックがまとまり,つんどく(積読)せず,手に取り実際の手術室でのブロック時にどんどん活用してもらいやすいサイズであることです.また原書はすでに第3版で5年ごとに改訂され,新しい項目が次々と加わります.この本でもpoint of care ultrasound(POCUS)についても新しく加わりました.また小児がメインですが成人のブロックやその解剖についても書かれているので,対比がしやすく,小児麻酔科医のみならず成人の区域麻酔科医にも役立ててもらえます.そして何よりVrushali先生のアクティブなお人柄,小児区域麻酔に対する情熱が反映されるかのように,実際の臨床現場で得られた画像,写真,そして図が豊富で,片手にこの本,片手にプローブでブロックしやすいこと,間違いありません.
 Vrushali先生は私と同じ小児麻酔専門の麻酔科医ですが,同時に循環器内科医の妻,2人のお嬢さんの母でもあります.またシタールの名演奏者でもあります.臨床をされながら多数の論文を書かれ,AOSRA2021の会長やWFSAの仕事もされ,世界的に活躍されています.非常にアクティブで情熱的で医師としてはもちろん女性としても心から尊敬しています.
 そのような方が執筆された小児超音波ガイド下区域麻酔の訳書を,日本で初めて出版することができてとても嬉しく思います.そして何より確かな超音波ガイド下区域麻酔の恩恵を得てニコニコする子どもたちがより増えるのを嬉しく思います.日常的に,超音波ガイド下に,安全,かつ確実なブロックをしてハッピーな子どもたちを増やしていただきたい,と思います.
 最後になりましたがこの本を翻訳するチャンスをくださった恩師,山下正夫先生に心から感謝します.また一緒に翻訳に携わり,快く医局員の先生方を翻訳に加えてくださった,浜松医科大学麻酔・蘇生学教室の中島芳樹教授,医局員の木村哲朗先生,小林充先生,鈴木興太先生,八木原正浩先生,そして原書をインドムンバイから持ち帰り,翻訳に携わってくださった小原崇一郎先生に深く感謝します.
 またインドの出版社と初めて交渉して出版までの道筋を作ってくださった,医学書院の洲河佑樹さんほか関係者の方々にこの場をお借りして深く感謝申し上げます.

 この本を通じて1人でも多くの“小児超音波ガイド下神経ブロックにすと”のみなさまにお目にかかれることを心から願います.

 2021年盛夏
 上村 明

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第1章 超音波の基本的原理

第2章 上肢のブロック
 頸神経叢ブロック
 浅頸神経叢ブロック
 深頸神経叢ブロック
 腕神経叢のシェーマ
 斜角筋間腕神経叢ブロック
  交差法での斜角筋間アプローチ腕神経叢ブロック
 持続斜角筋間アプローチ腕神経叢ブロック:超音波ガイド下カテーテル留置法
 斜角筋間アプローチ腕神経叢ブロックによる片側横隔神経麻痺の超音波診断
 鎖骨上アプローチ腕神経叢ブロック
 鎖骨下アプローチ腕神経叢ブロック
 持続鎖骨下アプローチ腕神経叢ブロック:超音波ガイド下カテーテル留置法
  腕神経叢鎖骨下ブロック:costoclavicular approach
 腋窩アプローチ腕神経叢ブロック
  筋皮神経ブロック
 前腕ブロック
 尺骨神経ブロック
 正中神経ブロック:肘窩部と前腕部
 橈骨神経ブロック

第3章 下肢のブロック
 坐骨神経ブロック
 坐骨神経ブロック:臀部下方アプローチ
 持続坐骨神経ブロック:超音波ガイド下カテーテル留置法
 坐骨神経ブロック:前方アプローチ
 坐骨神経ブロック:臀下部アプローチ
 坐骨神経ブロック:膝窩部アプローチ
 大腿神経ブロック
 持続大腿神経ブロック:超音波ガイド下カテーテル留置法
 腸骨筋膜下ブロック
 伏在神経ブロック/内転筋管ブロック
 足関節の神経ブロック
  後脛骨神経ブロック
  深腓骨神経ブロック
  浅腓骨神経・伏在神経・腓腹神経ブロック

第4章 体幹のブロック
 腹直筋鞘ブロック
 腸骨鼠径神経・腸骨下腹神経ブロック
 側方腹横筋膜面(TAP)ブロック(古典的方法)
 両側肋骨弓下腹横筋膜面(TAP)ブロック
 腰方形筋(QL)ブロック
  仰臥位での腰方形筋ブロック
 脊柱起立筋面(ESP)ブロック
 胸筋神経(PECS)ブロックI・II,前鋸筋面(SAP)ブロック

第5章 脊髄幹ブロック,腰神経叢ブロック,傍脊椎ブロック
 仙骨硬膜外ブロック
 小児超音波ガイド下腰部・胸部硬膜外ブロック
  小児の腰椎・胸椎の超音波解剖の比較
 成人の腰椎超音波解剖
 小児胸部傍脊椎ブロック
 腰神経叢ブロック

第6章 幼児,新生児における内頸静脈カニュレーション
 内頸静脈穿刺

第7章 超音波画像におけるアーチファクト
 強調アーチファクト
 反響アーチファクト
 陰影アーチファクト
 銃剣様アーチファクト

第8章 区域麻酔以外での超音波の適応:簡潔な概要
 肺エコー
 気道エコー
 視神経管エコー
 胃噴門部エコー

索引

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画像とイラストが豊富で実際の手技を行う際に大変便利
書評者:鈴木 玄一(日本小児麻酔学会名誉会員)

 この本は第3版で,このたび初めて日本語版が出版された。著者は区域麻酔を超音波ガイド下で施行することにより,成功率が向上し,より正確に必要な部分のみのブロックが可能になり,新生児から高齢者まで恩恵を受けたと述べている。その他,新生児などに対する超音波ガイド下の内頸静脈カテーテル留置法を解説し,さらに区域麻酔以外に超音波ガイド下での肺・気道・視神経管・胃噴門部エコーについて簡潔な概要にも触れている。区域麻酔以外に麻酔科医が覚えておいて大変役に立つことだろう。

 超音波の基本的な原理の理解は当然として,p.19に記載された超音波ガイド下神経ブロックのコツは,ぜひとも目を通していただきたい。

 本書はB5判で,実際にブロックを行う場合に傍らに置けるので大変便利であり,超音波画像,写真,イラストが豊富で大変参考になる。また日本語訳が大変素晴らしく,著者の長年の苦労もあることと思うが,ブロックに際して読者は理解しやすいと思われる。

 ブロック針の太さと局所麻酔薬の種類と量は施設により異なるので注意されたい。例えば仙骨麻酔について述べると,欧米では穿刺針で,皮膚や皮下のdebrisを硬膜外腔に誤入するのを予防するために,スタイレット入りの針を使用する,すなわち22Gの静脈留置針を使用するそうだが,私は国立小児病院時代の恩師に教えられ,以来25Gの鈍針を用いている。この太さでも乳児では脂肪が多いせいか,何回も試みていると針先が詰まることがある。しかし,この25Gは長さ2.5 cmで非常に使用しやすい。

 仙骨麻酔では薬液注入中に後硬膜の沈み込みがあるそうだが,評者は不注意のせいか気が付かず,今後はよく注意したい。

 小児胸部傍脊椎ブロックのところでは,椎体,肋膜,内肋間筋,横突起などのイラストがあれば,ブロックを行うときに非常にわかりやすかったと思う。このブロックは開胸手術に非常に有効で,硬膜外ブロックと異なり開胸側のみの鎮痛であり,術後胸腔ドレーンが挿入中は体動に際して創部痛より強い疼痛を抑える。また,このブロックは腎臓手術や腎生検にも有効で患側のみのブロックであり,開胸手術とともにこのマニュアルを参考に皆さんにもっと施行してもらいたい。

 術後の鎮痛には麻薬を含む鎮痛薬よりも区域麻酔が有効なのは誰もが認めるところである。絶対的な禁忌がある場合はともかく,まずはこの本を参考に区域麻酔を試みるべきである。


小児が成人より大きく取り上げられているのがこの本の特徴だ!
書評者:鈴木 昭広(自治医大病院教授・麻酔科学・集中治療医学)

 『小児と成人のための超音波ガイド下区域麻酔図解マニュアル』。書籍のタイトル自体で,「小児」が「成人」より大きく書かれていることがまずユニークだ。平置きで「映える」こと請け合いである。麻酔科領域において,確かに小児の鎮痛は長いことおざなりにされてきた。そもそも暴れて泣き叫ぶ小児に,区域麻酔など危なくてできやしない。術中もおとなしくしているはずもない。手術の大小にかかわらず,何か必要があればすぐに全身麻酔。大人なら併用するはずの硬膜外麻酔もなく,戦う武器はせいぜい仙骨ブロックのみ。起きた患児は,創は痛いわ足は動かないわでパニック状態。手術をした後もやっぱり手がつけられない。「母親が1番の薬だよ」と全ては母親に丸投げ……。私自身,恥ずかしながらこういうプラクティスを繰り返し,古くからの悪習を後輩に伝える悪い先輩だったことだろう。しかし,前職の東京慈恵会医大で小児麻酔への考えを改めさせられた。JPOPS(Jikei Post-Operative acute Pain Service)という術後疼痛管理チームが術後痛のプロトコールを決め,小児でも胸部や腰部の硬膜外を実施し,区域麻酔の補助のあるなしにかかわらず,薬をタイトレーションして覚醒させ,抜管後にスヤスヤと過ごすわが子を母親がそばの椅子に座って見守る風景が当たり前の術場回復室(PACU:post-anesthesia care unit)。もし子供が泣いていようものなら「なんで泣いてんだ!?」とU主任教授が怒り心頭でやってくる。それ以来,小児事例が当たると,わが子の麻酔と思って他のスタッフと同じような穏やかな目覚めを提供できないかを考えるようになった。

 現在,鏡視下手術全盛期を迎え,硬膜外に代わり,超音波ガイド下区域麻酔がシェアを拡大している。私は成人で行う程度で小児に関してはまだまだ未熟者だが,そもそも小児の体は水分に富み,しかも深度が浅いので成人と比べても超音波の通りがよく,画質もはるかによいので,神経ブロックのよい適応のはずである。なるほど,本書内に盛り込まれた成人と小児の超音波図譜,カラフルな解剖解説や実施体位を見ると,「ね,あなたも小児でやってみない?」と誘われる気分になる。これまで,小児の神経ブロックを解説した書籍はほとんど皆無である。インドで第3版になるまで眠っていたこの書籍を日本に知らしめた中島芳樹先生,上村明先生のご慧眼に感服する。さらには,小児の鎮痛のことは成人よりも大きく取り上げられてしかるべきだと考えてか,原書ではChildren&Adultsという同じ文字サイズのタイトルを訳すにあたり,小児の文字サイズをあえて大きくした医学書院の英断にも敬意を表したい(次回は背表紙の文字も……)。なお,書籍の最後には近年流行りの気道・肺・胃といった麻酔科医に関連深いpoint of care ultrasoundの掲載もある。手元に置いておきたい相棒といえる一冊である。


本邦初,「小児と成人のための」麻酔関連超音波画像利用の全て
書評者:佐藤 裕(順仁堂遊佐病院副院長・麻酔・疼痛緩和科)

 21世紀の今日,神経ブロックの分野での超音波画像診断機器(通称,エコー)の利用は事実上の世界標準となり,従来行われてきたランドマークガイド下法,神経刺激ガイド下法を過去のものにするか,超音波ガイド下法の補助手段として置き換えたと言っても過言ではありません。わが国でもすでに島根大学の佐倉伸一氏らによる『周術期超音波ガイド下神経ブロック 改訂第2版』(真興交易株式会社医書出版部,2014年)などの良書が上梓されていますが,これらは主に成人を対象としたもので,小児領域を含め,さらに神経ブロック以外の麻酔科医に必要な超音波画像利用法を総合的に網羅した著作が待ち望まれていました。

 その答えの1つが本書で,原著者のDr. Vrushali C. Pondeはインド人女性麻酔科医です。彼女は小児麻酔科医としてキャリアを重ねる中で超音波ガイド下神経ブロックに出合い,精力的に臨床を積み重ねて,超音波画像を医用利用する基礎から臨床応用まで幅広く網羅して原著を上梓し,原著は2009年の初版以降,2019年まで3版を重ねました。後進の麻酔科医や研修医が現代の超音波画像の利用法を俯瞰できるように,わかりやすく画像とイラストを併置する形で構成したものです。原著の内容については,序文を寄せている斯界の権威で,私の2005年以来の知己であるカナダのトロント大麻酔科のProf. Vincent WS Chanが詳述していますので,ぜひご一読いただきたいです。

 原著は英文ですが,訳者代表の上村明氏が述べているようにインドで出版されたため,残念ながら日本からは直接入手が困難です。原著の価値を認め,第3版の邦訳の労をとられたのは中島芳樹教授を監訳者とする浜松医大麻酔科を中心とするグループで,原文の忠実でわかりやすい訳と製本の技術が相まって,原著よりやや大型のB5判サイズで,紙質,画像の質とも原著を凌ぐ出来栄えとなっている点は喜ばしいです。原著者とアジア小児麻酔学会(ASPA)を通じて交流を重ね,原著の情報を国内にもたらした山下正夫博士(前 茨木県立こども病院麻酔科部長,現 小松整形外科医院麻酔科部長)にも深甚の敬意を表します。

 超音波ガイド下神経ブロックは医療の国際的トレンドに適う手技であることは今日異論のないものとなっています。本書で啓発を受けた読者の皆さんにより,わが国の小児および成人患者が1人でも多く超音波画像診断の恩恵を受け,安全・迅速・快適な医療を享受できることを切望します。


小児が成人より大きく取り上げられているのがこの本の特徴だ!
書評者:鈴木 昭広(自治医大病院教授・麻酔科学・集中治療医学)

 『小児と成人のための超音波ガイド下区域麻酔図解マニュアル』。書籍のタイトル自体で,「小児」が「成人」より大きく書かれていることがまずユニークだ。平置きで「映える」こと請け合いである。麻酔科領域において,確かに小児の鎮痛は長いことおざなりにされてきた。そもそも暴れて泣き叫ぶ小児に,区域麻酔など危なくてできやしない。術中もおとなしくしているはずもない。手術の大小にかかわらず,何か必要があればすぐに全身麻酔。大人なら併用するはずの硬膜外麻酔もなく,戦う武器はせいぜい仙骨ブロックのみ。起きた患児は,創は痛いわ足は動かないわでパニック状態。手術をした後もやっぱり手がつけられない。「母親が1番の薬だよ」と全ては母親に丸投げ……。私自身,恥ずかしながらこういうプラクティスを繰り返し,古くからの悪習を後輩に伝える悪い先輩だったことだろう。しかし,前職の東京慈恵会医大で小児麻酔への考えを改めさせられた。JPOPS(Jikei Post-Operative acute Pain Service)という術後疼痛管理チームが術後痛のプロトコールを決め,小児でも胸部や腰部の硬膜外を実施し,区域麻酔の補助のあるなしにかかわらず,薬をタイトレーションして覚醒させ,抜管後にスヤスヤと過ごすわが子を母親がそばの椅子に座って見守る風景が当たり前の術場回復室(PACU:post-anesthesia care unit)。もし子供が泣いていようものなら「なんで泣いてんだ!?」とU主任教授が怒り心頭でやってくる。それ以来,小児事例が当たると,わが子の麻酔と思って他のスタッフと同じような穏やかな目覚めを提供できないかを考えるようになった。

 現在,鏡視下手術全盛期を迎え,硬膜外に代わり,超音波ガイド下区域麻酔がシェアを拡大している。私は成人で行う程度で小児に関してはまだまだ未熟者だが,そもそも小児の体は水分に富み,しかも深度が浅いので成人と比べても超音波の通りがよく,画質もはるかによいので,神経ブロックのよい適応のはずである。なるほど,本書内に盛り込まれた成人と小児の超音波図譜,カラフルな解剖解説や実施体位を見ると,「ね,あなたも小児でやってみない?」と誘われる気分になる。これまで,小児の神経ブロックを解説した書籍はほとんど皆無である。インドで第3版になるまで眠っていたこの書籍を日本に知らしめた中島芳樹先生,上村明先生のご慧眼に感服する。さらには,小児の鎮痛のことは成人よりも大きく取り上げられてしかるべきだと考えてか,原書ではChildren&Adultsという同じ文字サイズのタイトルを訳すにあたり,小児の文字サイズをあえて大きくした医学書院の英断にも敬意を表したい(次回は背表紙の文字も……)。なお,書籍の最後には近年流行りの気道・肺・胃といった麻酔科医に関連深いpoint of care ultrasoundの掲載もある。手元に置いておきたい相棒といえる一冊である。

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