脳卒中の装具のミカタ[Web動画付]
Q&Aでひも解く57のダイジなコト
装具難民のミカタになるために、装具のミカタを身に付ける
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近年、学生や若手療法士の装具離れ、装具を有効活用できていない現状が指摘され、「装具難民」という言葉も生まれている。そこで本書は、装具初心者や装具の取り扱いに苦手意識のある読者に、57のQ&Aを通して、装具全般にわたりおさえておきたいポイントをわかりやすく提示する。また、病期ごとの代表的な症例を通して理解を深められる。さらに、装具の調整法やトレーニング方法をはじめとしたweb動画を折々に挿入する。
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- 目次
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序文
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序――装具難民のミカタになりたい
「装具難民」という言葉を聞くようになった。「装具難民」とは、装具が処方されたあとに適切なフォローがなく、装具の適合不良や相談先などに困っている対象者のことを指す。装具は適切に使用することでこそ役に立つものであり、不適切に使用すると悪影響を与える。装具はあくまでも“モノ”であり、対象者の病態やその後の日常生活などによって調整や再作製がなされる必要がある。
入院中から退院後まで、そして作製前から作製後まで、装具には多くの職種が関わる。
入院中は対象者に対して多くの職種が関わるので、それぞれの職種が装具に関して正しい知識を持っていれば充実した検討が可能となるはずである。しかし実際には、適切な時期に適切な装具の作製、使用が行われず、「入院中の装具難民」も多く存在している。
退院後は対象者に関わる職種が少ないため、入院中以上にそれぞれの職種が装具の知識に詳しくなる必要がある。しかし現状では、装具を作製したら作製しっぱなしで、装具が壊れてもどこに相談してよいのかわからない状態の人たち、いわゆる「退院後の装具難民」が多く存在している。つまり装具の知識は、多くの職種が知っておくべき知識といえるだろう。
「装具難民」の問題を解決するには、すべての人が装具に関する知識を持ち、人と人(Face to Face)とのつながりをつくることではないだろうか。さらに各々が連携をするための装具手帳、装具回診などの制度や、装具連携といった人同士がつながる支援や取り組みを活性化していくことが望まれる。
装具の知識を身につけるにあたり、「装具が問題なのはわかるけど、何から学べばよく分からない」、「装具には色々な種類があって理解できない」などの声を耳にすることがある。確かに装具のすべてを理解するには、脳卒中の病態、装具の適応や種類、装具の作製方法、装具の使いかたなど多くのことを理解する必要がある。
前述したように装具は多くの職種が知っておくべき知識の一つなので、リハビリテーション関連職種だけでなく、看護師、介護士などといった職種の方々も理解しておく必要がある。そのため本書では、装具に関するすべての知識を、病院だけでなく生活を支援する現場で働くどのような職種の皆さんでもよく分かってもらえるように、装具に関して困っている代表的な項目をQ&A の形式でまとめることとした。
本書のタイトルに「ミカタ」と付けた。これはわれわれ編集者と出版社の共同の願いであり、あえてカタカナで記載している。本書から装具の見かた(診かた)を学んでいただき、装具を味方につけてもらえることを心から願っている。
2021年8月
松田雅弘・遠藤正英
目次
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序
第1章 脳卒中の病態と典型的な歩行
脳卒中の病態とリハビリテーションの考えかた
1 脳卒中患者と特徴――運動麻痺と痙縮の関係
Q1 脳卒中の患者さんの運動麻痺の特徴を教えてください。
Q2 痙縮が出現するのはなぜですか?
2 運動学習と麻痺の回復の特徴
Q3 運動麻痺はどのように改善していくのですか?
Q4 痙縮の予防、改善は可能ですか?
3 エビデンスやガイドラインに基づいた運動療法の基本
Q5 脳卒中に対する運動療法で効果的な方法を教えてください。
COLUMN 運動量の重要性
脳卒中患者の歩行の特徴
1 歩行の基本
Q6 歩きかたの基本を教えてください。
2 脳卒中の重症度からみる歩行の特徴と予後予測
Q7 脳卒中の患者さんの歩きかたの特徴を教えてください。
COLUMN 麻痺側上肢の影響
第2章 装具の基礎知識
装具の種類と役割
Q8 装具にはどのような種類がありますか?
Q9 なぜ装具が必要なのでしょうか?
Q10 治療用装具と更生用装具の違い(作製の考えかた)について教えてください。
Q11 金属支柱にするか、プラスチックにするか悩んでいます。どのように選択したらよいですか?
Q12 長下肢装具にするか、短下肢装具にするか悩んでいます。どのように選択したらよいですか?
Q13 プラスチック装具の選択で悩んでいます。どのように選択したらよいですか?
Q14 継手がたくさんあるのですが、どのように選択したらよいか迷っています。
装具に関する制度
Q15 装具に関わる制度について教えてください。
Q16 身体障害者手帳(身障手帳)の取得の方法を教えてください。
Q17 治療用装具と更生用装具はどのように作製すればよいですか?
装具の作製時期
Q18 装具はいつ作製するべきですか?
Q19 装具を作製するのに、どれくらい時間がかかりますか?
COLUMN 備品用と本人用の装具の使い分けのポイント
第3章 装具調整の基礎知識
カットダウンの考えかた
Q20 長下肢装具から短下肢装具に切り替える時期はいつですか?
Q21 長下肢装具から短下肢装具に切り替える際のポイントを教えてください。
足関節(足継手)調整の考えかた
Q22 足関節(足継手)の調整にはどのような方法がありますか? また各々のポイントを教えてください。
Q23 足関節の角度設定(初期背屈角度など)はどのような点に注意すればよいですか?
継手(ダブルクレンザック継手やGS など)、たわみなど作製後の調整
Q24 継手の調整方法がわかりません。どのように調整したらよいですか?
Q25 たわみやプラスチックはどのように調整したらよいですか?
COLUMN Gait Judge Systemを使わなくてもこんな評価方法がある!
COLUMN エキスパートの評価のやりかたを知ろう
第4章 装具と運動療法
長下肢装具(KAFO)を用いた運動療法の要点
Q26 長下肢装具の歩行を活かす上手な介助法はありますか?
Q27 長下肢装具歩行のトレーニングレベルはどのように設定したらよいですか?
短下肢装具(AFO)を用いた運動療法の要点
Q28 短下肢装具の歩行を活かす上手な介助法、誘導法はありますか?
Q29 短下肢装具歩行のトレーニングレベルはどのように設定したらよいですか?
Q30 短下肢装具装着と裸足でのトレーニングの違いを教えてください。
COLUMN 補高とウェッジの足底における工夫
その他の装具療法
Q31 ボツリヌス毒素を注射した後に装具を使いたいのですが、どういう視点で選べばよいですか?
Q32 電気刺激をしながら装具を使っているところを見ましたが、効果はあるのですか?│ COLUMN ロボティクスを用いた運動療法
第5章 体幹装具・上肢装具と歩行との関係
上肢装具
Q33 亜脱臼のある患者さんに対する肩装具はどのように選択すればよいですか?
Q34 よく手をぶらんと垂らして歩いていますが、肩装具を使うことで歩行にどのように影響を与えますか?
Q35 肩を保護した歩きかたをしていると転倒の恐れはありませんか?
Q36 上肢の痙性に対しては、どのように対応したらよいですか?
体幹装具
Q37 体幹の不安定さが顕著な患者さんに対する効果的な方法はありますか?
第6章 入院中の装具の管理とその指導の方法
装具の管理
Q38 装具の保管方法について教えてください
Q39 破損が生じることはありますか?
着脱の工夫
Q40 長下肢装具を着脱する際の工夫について教えてください。
Q41 短下肢装具の着脱の仕かたや靴の履きかたを教えてください。
退院までに必要な患者、家族指導
Q42 退院後はどのような問題が起こることが考えられますか?
Q43 退院後に生じる問題を防ぐために、入院中あるいは退院後に行っておくべきことはありますか?
Q44 装具はいつも着けていたほうがよいですか? また、それはいつまでですか?
Q45 家族への指導内容のポイントはありますか?
第7章 装具療法に必要な連携
病院内における多職種連携
Q46 装具が必要だと思った場合、誰に相談すればよいですか?
Q47 装具は義肢装具士に任せています。理学療法士は患者さんの状態を提供するだけですが、果たしてそれでよいのでしょうか?
装具カンファレンスの運用
Q48 装具カンファレンスの際、それぞれの職種の役割を教えてください。
Q49 装具カンファレンスは装具を作製するとき以外も実施したほうがよいですか?
地域における多職種連携
Q50 装具を持っている患者さんを地域で支えるための連携方法を教えてください。
Q51 地域連携の秘訣を教えてください。
第8章 生活期における装具
生活期における装具の適応・不適応のチェックポイント
Q52 装具をずっと使っていた患者さんから、最近赤みが出てきて痛いとの訴えがありました。どうすればよいですか?
Q53 装具がブカブカ、また装具を着けていると歩きにくいとの訴えがありました。どうすればよいですか?
より良い生活を実現するために
Q54 装具を作って歩きやすくなったら旅行に行きたいとのニーズが寄せられました。どのように対応すればよいですか?
Q55 装具で家の中を歩くことができないとの訴えがありました。どうすればよいですか?
訪問リハビリテーション、地域との関わり
Q56 訪問で来ている看護師ですが、装具のことがまったくわかりません…。
Q57 長年、同じ装具を使っています。これが本当に合っているかわかりません…。
第9章 各病期における装具療法代表例
急性期の装具療法代表例
急性期の装具療法症例①
急性期の装具療法症例②
回復期の装具療法代表例
回復期の装具療法症例①
回復期の装具療法症例②
生活期の装具療法代表例
生活期の装具療法症例①
生活期の装具療法症例②
付録
1 装具の評価ポイント
2 装具のチェックポイント
3 装具手帳
4 生活期の装具活用方法
5 身体障害者手帳申請書/診断書・意見書
6 装具と上手に付き合うために
索引
書評
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装具を味方にするための知識がバランスよく身に付く書
書評者:中谷 知生(宝塚リハビリテーション病院)
皆さんは「装具難民」という言葉をご存じでしょうか?
下肢装具を使用している地域在住の脳卒中後症例において,装具作成後のフォロー体制が不十分であるために,装具の修理,作り替えに難渋したり不適合な装具を使い続けてしまったりする,といった状況を指した言葉です。装具は安定した立位・歩行動作を行うために欠かせない道具ですが,使う環境や身体状況に応じて最適なものが使用されなければむしろ身体に悪い影響を及ぼす可能性があります。
不適合なものを使うリスク,という意味での「装具難民」は決して地域在住者のみの問題ではありません。近年,脳卒中のリハビリテーションでは急性期からより積極的に下肢装具を用いた立位・歩行トレーニングを行う機会が増えています。このため脳卒中の診療に携わるセラピストは急性期・回復期・生活期,どのステージを担当していても症例の身体状況や歩行能力に応じて適切な装具を選定し,使用できる能力が求められます。
それほど重要な道具であるにもかかわらず,私たちは「脳卒中の装具」についてどの程度の知識を持ち,適切な判断を行えているでしょうか? 私は回復期病棟に勤務していますが,若手セラピストの多くから装具についてどのように勉強すればよいのか,何から手をつければよいのかわからない,といった声をよく聞きます。そのため装具に関する教育は卒後教育の最重要課題となっています。
また,装具はトレーニング場面だけではなく生活全般で使うものですから,その知識の大切さは,リハビリテーション関連職種に限ったものではありません。看護・介護スタッフやケアマネジャーまで多くの職種が知っておくことで,より多くの装具難民を救うことができるようになります。
本書は装具を使った診療場面のみならず,装具を使って生活する中で生じると思われる事象を含めた57項目について,Q&A形式で非常にわかりやすく解説しています。このため読者は気になっている項目から読み始めることですぐに目の前の問題を解決するためのヒントを得ることができます。また書籍全般を見ると,脳卒中の病態,歩行の特徴から始まり,装具の種類,装具を用いた運動療法,多職種連携など,装具に関する実践的知識がバランス良く構成されています。このため単純なQ&A本ではなく,これから装具について体系的に学びたい(学び直したい)という方にとっても,最初の一冊としてお薦めできます。
本書のタイトル『脳卒中の装具のミカタ』の「ミカタ」はあえてカタカナで表記されています。これは読者に装具の見かた,診かたを提示し,装具が臨床の味方となることを願っているそうです。脳卒中の装具にかかわる多職種の皆さまのお手元に置いていただき,装具を「味方」にしていただければと思います。
※蛇足ですがこの書籍,表紙の手触りがものすごく良いので書店で見かけられましたらまずは手に取って触ってみられることをお勧めします。
脳卒中の歩行障害の専門家に一石を投じる良書
書評者:吉尾 雅春(千里リハビリテーション病院副院長)
『脳卒中の装具のミカタ』という意味深なタイトルの書籍が出版されました。編者の松田雅弘氏・遠藤正英氏の序文にわざわざ「ミカタ」とカタカナ表記されたその意味が書かれていました。装具の見かた・診かたということに加えて,装具難民の味方になりたいという思いだそうです。装具難民とは,装具が処方された後に適切なフォローがなく,装具の不適合や相談先などに困っている対象者のことを指します。厚生行政の都合で対象者となる脳卒中者が急性期,回復期,生活期へという展開の中で全く違った病院,施設,およびスタッフたちがかかわることで,十分な連携がとられないがために生じる代表的な社会現象です。その装具難民のミカタになり,卒前教育で装具に関する有意義な講義を受けていないように思える若いセラピストたちのミカタになり,そして今さら聞けないよというベテランのセラピストのミカタになり,さらには装具について学ぶ機会のなかった看護師・介護福祉士・ケアマネジャーらのミカタになりたいという熱い思いで装具の見かたについて著されています。
時流になってきたWeb動画付きで,57のQ&Aを軸に構成されています。脳卒中の病態や歩行,装具の基礎知識,装具調整の基礎知識,装具と運動療法,体幹装具・上肢装具と歩行との関係,入院中の装具の管理とその指導の方法,装具療法に必要な連携,生活期における装具,各病期における装具療法代表例についてまとめられ,具体的なQuestionに対してAnswerおよび解説,ポイントが述べられています。さらには随所にあるMEMOやcolumnが目を引きます。19名に及ぶ執筆者は装具に長けたそうそうたる顔ぶれで,実際の場面で多くの問題に取り組んでいる理学療法士・義肢装具士だからこそ解説できる内容です。初学者に限らず,多くの人たちに目を通していただきたい書籍です。
あえて注文をつけさせていただくとすると,装具になじんでいない人たちを対象にする書籍だからこそ,具体的な写真をより大きくしていただくとよかったのではないかと思いました。モノクロの写真ですから,なじんでいない人たちにはもしかしたら判断しにくいかもしれません。思いっきり文字を少なくしてでも,その工夫があってもよかったかもしれません。
対象者に適切な装具を選択できない理由の一つに,そもそも医師やセラピストが個々の脳卒中者の病態や歩行障害を正しく理解あるいは把握できていない現状があると私は考えています。すなわち適切な教育がなされていないということになります。そういう意味では脳卒中者の歩行障害にかかわる私たち専門家こそが難民といえるのではないでしょうか。このことを考えますと,私たちが抱えているこの根本的な課題に本書『脳卒中の装具のミカタ』は大きな一石を投じてくれたと思っています。
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