医学界新聞

ケースで学ぶマルチモビディティ

連載 大浦 誠

2021.12.06 週刊医学界新聞(レジデント号):第3448号より

65歳男性。事務職を定年退職したばかり。90歳の両親と3人暮らし。介護負担はそれほどなく,老夫婦で支え合っている状況である。6歳より気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎。30歳より高血圧,脂質異常症,2型糖尿病,アルコール性脂肪肝で近医通院中。嗜好歴は喫煙歴なく,日本酒は1合/日であった。アレルギーはハウスダストとネコアレルギーがあった。1か月前から微熱と倦怠感があり,近医を受診。CRP 21.0 mg/dLであったため,近くの総合病院に紹介された。身体所見で明らかな異常はなかったが,胸部CTでびまん性のすりガラス影を認め,感染症の精査は全て陰性,腫瘍マーカーも陰性,唯一の陽性だったのが抗ARS抗体であった。ウイルス性肺炎や器質化肺炎,あるいは抗ARS抗体症候群であったのかと担当医は考えたが,患者は検査結果を待っている間に解熱。無治療で経過観察する方針を伝えたところ,「総合病院への通院を中断し近医に戻りたい」との申し出があった。胸部CT陰影のフォローアップ,悪性腫瘍や血管炎合併の可能性をどこまで調べるべきか,担当医は悩んでいた。

【処方薬】一般内科でエナラプリル,ロスバスタチン,メトホルミン,リナグリプチン,モンテルカスト,ビランテロール/フルチカゾン吸入,ビラスチン,ロキソプロフェン(発熱時)

本連載第9回のCASEの30年後です。

 今回は,CASEの不確実性と複雑性の難易度を上げた場合にどうアプローチすればよいかを考えてみましょう。マルモのトライアングルの実践編です。

老夫婦と長男の3人暮らしの場合は,介護負担,社会との接点,経済状況に注意

 マルモのトライアングルで全体像を把握しましょう()。まずはプロブレムリストを作成します。ポイントは5つでした(①どのパターンが多いか,②生命にかかわる疾患はないか,③ADLにかかわる疾患はないか,④不要な薬剤は中止できないか,⑤社会的問題はあるのか)。

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 マルモのトライアングル(今回のCASEへのアプローチ)

 幼少期から呼吸器/皮膚パターンが,中年になり循環器/腎/代謝パターンが目立っています。新規プロブレムとして1か月持続する発熱と間質性肺炎のほか,「抗ARS抗体のみ陽性」という解釈に悩む所見があるようです。生命やADLにかかわる疾患はなさそうですが,間質性肺炎という不確実なプロブレムが影響してくるかもしれません。ハイリスク薬はないので積極的

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