医学界新聞

ケースで学ぶマルチモビディティ

連載 大浦 誠

2020.12.07

35歳男性。60歳の両親と3人暮らし。塗装業をしていたが,不況のため退職し職業訓練校に通っている。6歳より気管支喘息,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎で小児科と皮膚科と耳鼻科に通院していた。県外の大学入学をきっかけに通院が途絶え,季節の変わり目に喘息発作があれば,近医で処方されたプロカテロールを使用していた。30歳の健康診断で高血圧,脂質異常症,2型糖尿病,アルコール性脂肪肝を指摘され,治療不十分の喘息が発覚し治療が始まった。嗜好歴は喫煙歴なく,日本酒は1合/日であった。アレルギーはハウスダストとネコを指摘されていた。父親に小児喘息と花粉症の既往があった。

最近,喘息発作(小発作)で救急受診しメプチン吸入で落ち着いたが,呼吸苦の頻度が週1回以上(軽症持続型)に増しており何らかの介入が必要と思われた。

【処方薬】一般内科でエナラプリル,ロスバスタチン,メトホルミン,モンテルカスト,ビランテロール/フルチカゾン吸入,皮膚科でプレドニゾロン吉草酸エステル軟膏,ビラスチン

今回はマルモのプロブレムリスト(表1)が呼吸器/皮膚パターンと心血管/腎/代謝パターンに偏っています。ポリファーマシーチェックでは目立ったチェックはありませんが,心理社会的問題で,金銭的・精神的問題があるようです。

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表1 マルモのプロブレムリスト

呼吸器マルモの中でも喘息とCOPDが代表的です(喘息とCOPDのオーバーラップ[ACO]も近年注目されていますが今回は省略し,喘息を中心に解説します)。以下はあくまで海外のデータではあるものの,呼吸器マルモパターンの研究は進んでいます。

  • 中高生を対象にした韓国の研究1)。喘息患者のうちアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎が合併している患者が24.3%。
  • 6~18歳までを対象にした欧州の多施設横断研究2)。喘息患者の9.7%が2つ以上のアレルギー疾患(アレルギー性鼻炎/気管支喘息/アトピー性皮膚炎)を持っていた。
  • 45~64歳までの成人を対象にマルモパターンが起こる順序を調べたオーストラリアの研究3)。喘息は心血管疾患の前に起こることが多く(10.3%),筋骨格障害や精神疾患よりも前に発症する傾向があることが示唆された。また,癌と喘息の合併した状態は心血管代謝疾患の発症リスクが2.41倍であり,神経変性障害に喘息を合併していると精神疾患を合併する相対リスクが14.15倍となる。

アレルギーマーチの観点により,アトピー性皮膚炎から季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)や喘息への進展に遺伝因子の関与が示唆されています4)。喘息患者を対象にしたスウェーデンの横断研究では,鼻炎・湿疹のある患者は呼吸器症状および不安/うつを呈していることが有意に多く(40% vs. 14%),複数のアレルギー疾患があると喘息のコントロールの低下や睡眠時無呼吸症候群の併存も増えています5)

国際的な診療ガイドラインであるARIA(Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)でも以前からマルモに対する共同意思決定を項目として盛り込んでいましたが,2014年版では軽症アレルギー性鼻炎の段階から喘息へ移行するまでのセルフケアと薬剤師・総合診療医・呼吸器専門医への統合ケアパスウェイ(ICP)を図示6)。2019年版では自己管理の手段としてモバイルデバイスを介してのセルフケアの重要性を強調し,薬剤師によるサポートの強化,総合診療医と呼吸器専門医が使用可能なガイドラインを作成すると宣言されました7)。別の研究ではCOPDの治療負担を評価するツールも開発されています。今後は治療負担を可視化し,多職種連携につなげる取り組みが注目されるかもしれません8)。日本でも『喘息予防・管理ガイドライン2018』(日本アレルギー学会・喘息ガイドライン専門部会監修)において,喘息の危険因子と予防,患者教育・パートナーシップの章が設けられ,アレルギー疾患の連携は厚労省から薬剤師―開業医―専門医の連携の図が紹介されています。

治療が困難な喘息の体系的評価に関するレビューに,考慮すべき依存疾患がまとめられています(表29)。EDAC(Excessive Dynamic Airway Collapse)という名前は聞き慣れないかもしれないですが,気管支軟化症が気管軟骨や周辺の筋,弾性線維の脆弱化の問題なのに対して,EDACは気管支後壁(膜腰部)の弛緩のため呼気時に気道虚脱が起こる状態で,COPDの20%に併存するという研究もあり頻度は高いかもしれません10)。気管支軟化症とEDACをまとめた症例報告の気管支鏡所見も参考になります11)

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表2 成人の難治性喘息に対する系統的評価の際に考慮すべき併存疾患(文献9を改変)

副鼻腔炎の合併が喘息のコントロールにかかわることもあるので,確認しておくと良いでしょう。もちろん治療コントロールが悪い場合には,吸入手技の確認や環境要因を確認することは重要です。掃除機をこまめに使ったり,フローリング掃除では床拭きをするなど具体的にアドバイスできますか? 一度確認しておきましょう。

『難治性喘息診断と治療の手引き2019』(日本呼吸器学会)ではフェノタイプ分類として若年発症の「アトピー型」,非肥満男性で症状に乏しいか,肥満女性で副鼻腔炎を合併する「高齢発症好酸球優位型」,重度肺機能低下で気流閉塞が目立ち肺炎を起こしやすいか,肥満女性でアレルギーの関与の少ない「高齢発症好中球優位型」に分けて特異的な治療法を紹介しています。チェコでもパターン分類から治療方法まで紹介されているガイドラインが登場しています12)。今後のマルモ診療に大きく寄与することでしょう。

米国の研究で,マルモの代表的疾患である糖尿病,心疾患,関節炎,COPD,喘息,癌と社会的決定要因との相関を調べた研究があります。結果は,低学歴とCOPDはそうでない場合と比較し2倍以上の相関があり,失業とCOPDでは1.70倍,未婚/未亡人/別居では2.76倍,喫煙歴は2.53倍,アルコールの摂取は1.65倍増加することがわかりました13)。喘息では未婚/未亡人/別居で1.75倍の関連があることからも,マルモのキーとなる疾患は社会的決定要因の修正が大変重要となります。喫煙への介入はもちろんですが,独身や失業への介入も意識したいものです。

  • 【足し算】

    治療ステップ2(軽症持続型)として吸入ステロイド+長時間作用性β2刺激薬の吸入は妥当。吸入方法や治療遵守の確認。部屋の掃除の仕方を指導。改善が乏しければ治療強化や副鼻腔炎の評価。

  • 【引き算】

    生活指導で発作や皮膚掻痒感が落ち着けば,ステップダウン検討。

  • 【掛け算】

    部屋の掃除が重要であると説明。掃除によりアレルゲンが除去でき,小発作の頻度も減少した。部屋が散らかっていて服薬管理が難しかったものの,掃除のおかげでアドヒアランスも向上し,父親の呼吸器症状も安定して再就職もできた。

  • 【割り算】

    介護の時間的・金銭的不安に配慮し,皮膚科との治療の一元化,両親の介護サービス調整や今後の費用の相談を行うことにより治療に専念できた。

  • 喘息のマルモパターンから生活への介入方法が異なる可能性がある。
  • 喘息にはセルフケアと多職種連携,呼吸器専門医との連携が重要。
  • 喘息患者の社会的決定要因にも目を向けよう。

(つづく)


参考文献

  • 1)Sci Rep. 2020[PMID:33009485]
  • 2)Ann Agric Environ Med. 2020[PMID:32955224]
  • 3)Front Public Health. 2020[PMID:33014956]
  • 4)Allergy. 2018[PMID:28618023]
  • 5)Clin Exp Allergy. 2020[PMID:33053244]
  • 6)Eur Respir J. 2014[PMID:24925919]
  • 7)Clin Transl Allergy. 2019[PMID:31516692]
  • 8)BMC Fam Pract. 2020[PMID:31931729]
  • 9)J Allergy Clin Immunol Pract. 2020[PMID:32173508]
  • 10)Chest. 2012[PMID:22722230]
  • 11)Medicine(Baltimore). 2020[PMID:33080680]
  • 12)Curr Allergy Asthma Rep. 2017[PMID:28233153]
  • 13)BMC Public Health. 2020[PMID:32867751]
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南砺市民病院 総合診療科

2009年福井大医学部卒。南砺市民病院で初期・後期研修を経て14年より現職。15年家庭医療専門医取得。ブログ「南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました」(https://moura.hateblo.jp)で家庭医療学の最新論文紹介を発信中。「中小病院で家庭医として活躍できるよう頑張ります」。

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