名画で鍛える診療のエッセンス
[第11回] ネガティブ・ケイパビリティを身につける
連載 森永 康平
2021.08.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3432号より
今回はこちらの彫刻を見てみましょう。体のラインが柔らかな若い裸の女性がうつ伏せになっている姿が見事に表現されています。しかしその背中側からの美しさに見とれながら人物の腹側にぐるっと回ってみると,何とそこには男性器があるのです。

世の中には白黒をつけられない事柄が溢れている
「あなたの性(セクシュアリティ)はなんですか?」と問われたら,明確な答えが浮かぶでしょうか。性的マイノリティであるLGBTの話題はこれまで以上に頻繁に取り上げられており,最近ではアセクシュアル(他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱かないセクシュアリティ)等を加えたLGBTQIAという考え方も生まれています。例えばアメリカ版Facebookでは,記入できる性別欄に50以上の選択肢があります。性の分類がいかに複雑で多様であり,「男性」「女性」といった大雑把なくくりで語り尽くすことが困難か,よくわかるでしょう。
人を見る際の解像度を上げれば上げるほど,性の問題に限らず人が持つ複雑な性質や,多くの要素が絡み合う社会的問題が浮き彫りになります。世の中には,このようにすぐに答えを出したり,はっきり白黒をつけられない事柄が溢れています。
「わからない」状態に耐えることで本質的な理解に近づく
一方で人の脳は,そのような不確実なものを考え続けることが苦手です。そのため,複雑な問題に対して単純なラベリングをしたり,フレームを当てはめたりしがちです。その結果得られた「答え」は一見わかりやすいかもしれませんが,本質的な部分が抜け落ちてしまっている可能性を常に孕んでいることに留意する必要があります。
では,簡単に答えを導くことができない問題に対して,私たちはどう臨むべきでしょうか? ここでは英国の詩人であるジョン・キーツが発見した「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念をご紹介します。精神科医であり小説家でもある帚木蓬生氏による『ネガティブ・ケイパビリティ―答えの出ない事態に耐える力』(朝日選書)では,これは「負の能力,陰性能力,性急に証明や理由を求めずに,不確実さや不思議さ,懐...
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