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読むだけで自信がつく! 救急画像診断のスキルアップ講座

連載 放射線科医アレキ(渡邊義也)

2025.01.31

こんにちは。私は放射線科医アレキと申します。救急画像診断を専門とし,日々の臨床業務の傍ら,主にX(旧Twitter)で救急画像診断に関する情報発信を行っています。

本連載では,私が臨床経験を通じて培ってきた救急画像診断の実践的なコツやテクニックをお届けしていきます。

第1回となる今回は,救急外来でよく遭遇する「胸痛」を主訴とする患者さんのCT画像診断について,実臨床に即した読影のポイントをご紹介します。

▼ 目次

胸痛CTの読影アプローチ――5つの重要疾患
 1.急性冠症候群(特に心筋梗塞)
 
2.急性大動脈解離
 
3.肺血栓塞栓症
 
4.緊張性気胸
 
5.食道破裂

救急外来での胸痛診療――ACS鑑別後のCT撮影プロトコール

救急外来での胸痛患者の対応において,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は最優先で考えるべき疾患です。速やかに心電図,心エコー検査,血液検査による評価を行います。

ACSの評価と並行して,急性大動脈解離や肺血栓塞栓症といった,見逃すと致命的となり得る重篤な疾患の可能性も慎重に検討する必要があります。これらの疾患が疑われる特徴的な痛みの性状や身体所見が認められた場合は,CT検査の実施を検討します。

CT検査を行う際の重要なポイントは,疑われる疾患に応じて適切な撮影条件を選択することです。実際,急性大動脈解離と肺血栓塞栓症では,最適な撮影タイミングや造影条件が異なります。正確な診断を得るためには,これらの違いを理解し,適切な撮影プロトコルを選択することが重要です。

①急性大動脈解離を疑った時:胸部〜骨盤の造影ダイナミックCT
・単純→動脈相(early相)→後期相(delay相)の3相撮影
・解離腔の評価に必須。偽腔開存型か偽腔閉塞型かを評価する

②肺血栓塞栓症を疑った時:肺血栓塞栓症(PE相)+深部静脈血栓症(DVT相)の評価用プロトコル
・撮影タイミング:ボーラストラッキング法,または固定時間での撮影
・肺動脈が最も造影される時相での胸部撮影
・下肢静脈の評価のため,その後下肢まで撮影を行う

ここで重要なのは,急性大動脈解離と肺血栓塞栓症の撮影タイミングは「両立できない」ということです。適切な撮影条件を選択するためには,まず病歴や検査所見から急性大動脈解離と肺血栓塞栓症のどちらの可能性が高いかを判断します。

なお,early相,delay相,PE相,DVT相など,造影剤注入からの撮影タイミング(秒数)は施設ごとに設定が異なります。最適な画像を得るために,ご施設での具体的な造影剤注入後の撮影タイミングを放射線技師さんに確認することをお勧めします。

胸痛精査において「なんとなく単純CT」は,急性大動脈解離や肺血栓塞栓症の評価としては不十分で,致死的な所見を見逃してしまう可能性があります。このような曖昧な判断での単純CT選択は避け,症状に応じて適切な造影CTプロトコルを選択しましょう。

胸痛CTの読影アプローチ――5つの重要疾患

胸痛CTにおいては,致死的な疾患を見逃さないことが最優先です。必ず除外すべき致死的疾患(must rule out)には,以下の5つがあります。

1.急性冠症候群
2.急性大動脈解離
3.肺血栓塞栓症​​​​​​​

4.緊張性気胸​​​​​​​
5.食道破裂

それでは,各疾患について詳しく見ていきましょう。

1.急性冠症候群(特に心筋梗塞)

上述したようにACSは真っ先に除外すべき疾患です。ACSを診断するためにCTを撮影することは基本的にはありません。なので,他の胸痛精査のために撮影された造影CTで,予期せず所見が見つかることがあります。

特に心筋梗塞が疑われる患者の造影CTでは,梗塞部位に一致した冠動脈支配領域に左心室心筋の造影不良域が認められることがあります。読影の際は,造影CTのdelay相で左室心筋の造影効果を評価します。正常心筋は均一に造影されるため,造影不良域を認めた場合は心筋虚血を疑う所見となります。

研究では,初回急性心筋梗塞の検出におけるCTの診断精度として,感度83%(15/18),特異度95%(18/19),陽性的中率94%(15/16),陰性的中率86%(18/21)が報告されています1)

CTでの心筋の造影不良域を見落とさないためには,axial像(軸位断像)だけでなく,複数の断面での評価が重要です。特にcoronal像(冠状断像)は,心エコーの短軸像と類似した視点を提供するため,以下の利点があります。

・心筋の全区域(前壁,側壁,後壁,中隔)を同一断面で比較できる
・局所的な造影不良域を検出しやすい

特に下壁梗塞はaxial像では評価が難しいため,coronal像での確認が非常に重要です。また,sagittal像(矢状断像)も含めた多断面での評価を行うことで,より確実な診断が可能となります。

なお,心筋の異常所見を評価する際,造影効果の低下に加えて,その部位が脂肪濃度を示すような明らかな低吸収(黒く見える部分)として認められる場合は,陳旧性心筋梗塞後の脂肪沈着を疑う所見として注意が必要です。そのため,造影CTの所見のみで診断を確定せず,適切な追加検査を検討することが重要です。

心筋の造影効果の評価は重要な読影ポイントですので,必ず確認するようにしましょう。

2.急性大動脈解離

急性大動脈解離の読影は,タイプによって異なったアプローチをとる必要があります。

まず,「偽腔開存型」のケースを見ていきましょう(図1)。基本的には剥離内膜(フラップ)を見つけて,真腔と偽腔をしっかり確認することがポイントです。造影CTのearly相の画像が最も見やすく,動脈がくっきりと造影されているので,解離したフラップを見つけやすいです。
ただし,心臓や血管の拍動によるアーチファクトが生じることに注意が必要です。アーチファクトがフラップに見えることがありますので,early相とdelay相で所見の再現性を確認することが重要です。心電図同期下に撮像することでアーチファクトを低減する方法もあります。

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図1 偽腔開存型大動脈解離(『標準放射線医学 第7版』より)
胸部造影CT。胸部下行大動脈に剥離内膜があり,解離腔にも血流が見られる。真腔(T)が解離腔(F)で圧排されている。

次に「偽腔閉塞型」について。こちらは単純CTが鍵になります(図2)。大動脈壁の周りに高吸収域がないか,注意深く探していきます。特徴的な画像所見として,血栓化した三日月状の偽腔が大動脈壁に沿って高吸収域として観察されます。ただし,偽腔の容積が小さく,診断が難しい場合もあるので要注意です。

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図2 血栓閉塞型大動脈解離(77歳,女性,『標準放射線医学 第7版』より)
胸部単純CT。上行大動脈の右〜前側に三日月状の高吸収域(→)が見られ,解離腔の新鮮な血栓の存在を示しており,血栓閉塞型大動脈解離の所見。血性心嚢液も伴う。

血栓閉塞した偽腔の見落としを減らすテクニックとして,window調整で「WL=100,WW=150」に設定する方法があります。この設定で単純CTを確認すると,薄暗い画像の中から,大動脈に沿って三日月状の高吸収が浮かび上がります。ぜひ試してみてください。このテクニックは他のさまざまな疾患の読影でも有効で,とても便利です。詳しくは今後の連載で解説したいと思います。

以上のように,大動脈解離は「偽腔開存型」と「偽腔閉鎖型」とで所見が異なります。上述の通り順を追って確認していけば,見落としをグッと減らすことができるはずです。

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3.肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症の診断には,肺動脈がしっかりと造影される時相で画像が撮影できているかの確認が大切です(図3)。

診断のポイントとして,肺動脈中枢側の血栓は比較的容易に指摘できますが,末梢側の血栓は見落としやすいため,より細かい画像での確認が必要です。私は普段,1 mmスライスで確認するようにしています。

また,axial像だけでなくcoronal像での評価も重要です。axial像では不明瞭な血栓がcoronal像では明確に描出されることもあり,複数の断面での評価が診断の確実性を高めます。

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図3 肺血栓塞栓症(『標準放射線医学 第7版』より)
胸部造影CT(PE相)。左の主肺動脈内に血栓を疑う造影欠損を認める。

肺血栓塞栓症では,急性の肺動脈圧上昇により右心室が拡大します。その結果,右心圧上昇によって左心室の壁が右心室側から圧排され,心エコーの短軸断面で特徴的なD字型変形を示します。

この所見は心エコーでは「D-shape」として広く知られていますが,CTでも同様の右心室拡大所見が認められることがあります。肺血栓塞栓症を疑う症例では,このような心臓の形態変化も重要な所見として確認するようにしましょう。

実は肺血栓塞栓症は単純CTでも診断が可能なことがあり,日々の読影で遭遇することは珍しくありません。診断の決め手となるのは,肺動脈内の血栓が示す高吸収所見です。単純CTでもこの所見を効率的に指摘するためのテクニックがありますので,次回以降の連載でご紹介させていただければと思います2)

4.緊張性気胸

緊張性気胸は,縦隔が偏位してしまうような重症な気胸のことです(図4)。非常に広範な気胸になるので,CTで診断に悩むことはないと思います。というか,CTまで緊張性気胸の診断がついていないことはほぼないと思います。基本的には胸部X線写真,ベッドサイドでのポータブル撮影で診断を進めていきます。

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図4 左気胸(『標準放射線医学 第7版』より)
胸部CT。仰臥位で撮影。空気は腹側に,胸水は背側に貯まる。

CTで気胸を認めた場合,重要なチェックポイントとして「肋骨骨折」の有無があります。これは,気胸が外傷性かどうかを判断する重要な手がかりとなるためです。外傷性と判断された場合,胸水の存在は血胸の可能性を示唆し,さらに持続的な出血の有無についても慎重な評価が必要となります。

「外傷性かどうかは,患者さんの状況を聞けばわかるんじゃないの?」と思われるかもしれません。でも,特に高齢の患者さんの場合,体をぶつけたことを覚えていないことが意外と多いです。だからこそ,肋骨骨折のチェックは大切なポイントとして,必ず確認するようにしましょう。

5.食道破裂

食道破裂は比較的まれな疾患ですが,見落とすと致死的となる可能性がある重要な病態です。特にBoerhaave syndromeは,飲酒後や過食後の嘔吐を契機に発症する食道破裂で,早期診断・早期治療が予後を大きく左右する緊急性の高い疾患です。

CTで食道破裂を疑う際の重要な所見は,以下の2点です。

・縦隔気腫の有無:肺野条件で確認しやすくなります。
・造影CTでの食道壁断裂

これらの評価には,必ずしもダイナミックCTは必要ではなく,delay相を含む造影CTで十分に診断が可能です。

隠れた重要疾患:転移性骨腫瘍

胸痛の評価では致死的疾患の除外が重要ですが,胸痛を引き起こす原因として肋骨や胸骨への転移性骨腫瘍も見逃してはならない所見の一つです。教科書では十分に強調されていませんが,臨床の現場では重要な鑑別診断です。

なぜ重要かというと,見落として経過観察なしで帰宅させてしまうと,診断が遅れ,より進行した状態で発見されることになるためです。

読影の際は「溶骨性変化」や「硬化性変化」といった骨の異常所見を必ず確認しましょう。特に脊柱管に露出した腫瘍は,麻痺のリスクがあり神経学的に緊急性が高い病変です。治療が遅れると患者さんのQOLが著しく低下してしまうため,脊椎は特に入念にチェックする必要があります。

胸痛のCT画像診断は,複数の重要な疾患を同時に評価でき,適切な治療方針の決定に役立つ非常に有用な検査です。本記事で解説した最適な撮影条件の選択と,致死的疾患の除外のポイントを,日常診療でお役立てください。

今後の連載でも,様々な読影のコツやテクニックをお伝えしていきたいと思います。また次回お会いしましょう。

1)AJR Am J Roentgenol.2004[PMID:15150010]
2)Hassan HG,et al:Added value of hyperdense lumen sign in prediction of acute central and peripheral pulmonary embolism on non-contrast CT chest.Egypt J Radiol Nucl Med.2021;52:225.

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国立病院機構災害医療センター放射線診断・IVR科

日本医学放射線学会診断専門医・指導医,日本IVR学会専門医。X,Instagramにおいて救急画像診断の情報発信中。
X ID:@alexandrite1231
Instagram ID:study_ct_dr.aleki_radiologist

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